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06 赤ピアスとバラの香り

 ああ、ブッダ様イエス様。

 あらゆる信仰の神々の皆様ご機嫌よう。

 今日この頃という日々に感謝なのです。

 


「おはよー星来ちゃん」

 プシューと天国への扉が開き、わたしを迎えてくれたのはにこにこ手を振る圭介くんと、そしてアンニュイに微笑む我が推しのキミ蓮水くんだ。

 

 推しは電車通学を再開し、同時にわたしの至福の七分間が再始動されたのだ。圭介くんは普段二本遅い電車らしいけれど、しばらくは蓮水くんに合わせた時間帯に登校するとゆうことだった。

 

「おはよう」

 バチッとブルーと目が合い、ブワッと顔が熱を持つ。

「おごっっ!お、おはよう」


 と…………尊い。

 朝から会心の一撃とは恐れ入る。

 推しよ、その顔面だけでも有り難いのに何故貴方はイケボなのか。

 ああ生きててよかった。

 

「楓も心配なさそうだし途中は星来ちゃんがいるし、明日から俺がいなくても大丈夫そうだな」

 早起きを苦手とする圭介くんが言った。

 つ、つまり明日から推しと二人………至近距離での拝顔がついに実現!!


  

「あれ、星来ちゃんなんか肩に葉っぱ………と、小枝みたいなのが」

 妄想に浸っていたころ圭介くんがわたしの肩にそっと触れて払ってくれた。

「なんだよ楓、先を越されたからってそんな顔すんなって」

「ちがっ……!けーすけ!!」

 なにやら推しが慌てた。

「そこんとこずっと心配だったけど。あー、そーなるとこの先もアレだな。過保護な強力なライバル含め何気に前途多難だな。まぁ幼馴染がしっかりフォローしてやんよ」

「だから……」

 ううむ、記憶喪失とは感じさせないほど二人はすっかり大親友のようだ。

 

 推しの動揺?を笑って流しながら、圭介くんがわたしに向いた。

「どこかで転んだりした?」

「まさか流石にそんなドジでは………!たぶんさっきコロ助が」

「コロ助!?」

「飼ってる犬が出る間際に飛び出して猫を追いかけて薮に突っ込み……必死に追いかけたのでたぶんその時に」

「そーかそーかコロ助が………あー?楓、おまえの飼ってる猫ってたしか……」

 

「キテレツ」

 

「へ?」

 

 推しの発した言葉にわたしは間抜けな声を出し、わたし達は一瞬顔を見合わせて。それから三人でブハッと笑った。

 

「すげー!んなことある!?」

「ははっ!」

「キテレツにコロ助……っ!!」

 

 駅までの七分間、わたし達は笑い転げた。

 親世代のアニメを知らない限りは、この笑いは生まれないだろう。

 と、笑いながら蓮水くんを見上げた。

 

 ああ、ほんとに。

 

 推しの笑顔はなんて眩しいのだろう。


 

 満員電車が楽しくて嬉しいものだと、わたしは改めてあらゆる神々に感謝をしたのだ。


 

 ※

 


「蓮水くんはガンランス派ですか!?」

「たまに太刀も使うかな。チャアクとかね」

「あ〜いいですな〜。近接に憧れます、わたしはライトボウガンが多くて」

「遠距離も悪くないよね、火力的に弓とか俺もけっこう使うし」

「学生の無課金勢としては、もう少し逆鱗の確率を上げてほしいところですな〜」

「ですな〜。あ、星来ちゃん、次の深夜アニメ何が始まるか知ってる?」

「フフフ、舐めてもらったら困りますな、とっくにリサーチ済みの上、夏の映画の前売り券ももちろん購入済みですぞ!」


「菜那、あのさー、なんかあれだよなー、異次元」

「私は慣れてるけど」

「俺だって慣れてるけど」

「それよりほら、こっちの公式教えて」


 

 あれから。

 わたし達は菜那ちゃんの部活がお休みの日は、こうしてたまにファミレスでご飯を食べたり、勉強をするようになったのだ。

 有名進学校の二人はよくわからない公式をスラスラ解いて、菜那ちゃんは主に圭介くんに。わたしは推しである蓮水くんに教えてもらうのが当たり前になっていった。

 

 といっても、蓮水くんは勉強だけじゃなくゲームもアニメにも詳しくて、今みたいについ脱線してしまうのだけれど。

 

 目の前にいる推しのキミとゲーム談義できる程には、二人での会話が可能になっていた。


 

「やだ〜楓くん!?偶然〜!」

 と、突然背後から甲高い声が降ってきて、わたし達はその人を仰ぎ見た。

 肩より少し長めの艶のある栗色の髪。耳には赤いピアス。高校生というのにしっかりとしたメイクまでしてらして、なかなかに派手といえる。

 わたしはこの人物を知っていた。

 

 そして彼女から香る………推しのキミと同じバラの香水の香りも――――――


 ――――蓮水くんと………同じ……………?


 ドクン………と、胸が重くなった。

 


 ああ、また………


 季節が移ろうように、ただただ幸せでいた時間というものはいつまでも続くものではないのだと。


 

 わたしは後に知ることになる。



  

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