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05 ブルー!!

「えー、菜那ちゃんだけじゃないの?」

 

 駅前のカラオケ屋へ続く道すがら、親友は両手を合わせて謝罪のポーズ。

「大丈夫、歌わなくてもいいから!中学の時に塾で知り合った友達なんだけど、推しの高校に通ってるのよ。すごいいい奴だからさ、推しについて少しでも情報集められたらラッキーじゃない?あっちももう一人連れて来るって」

 

 そう言われてしまえば断れる程わたしは無慈悲じゃない。

 そうこうするうちカラオケ屋が見えてきて、菜那ちゃんはその入り口付近にいる二人組の学生へ手を振った。

 

「やっほー、けーすけ!久しぶり〜!」


 ーーーーえ

 

 けーすけと呼ばれた人が手を振り返したけれど。

 わたしはその奥にいた人に釘付けになった。


 ーーーーうそ


 高身長の気怠い雰囲気を纏う漫画のヒーロー顔。

 たまに難しい顔でうたた寝をして、お婆さんに優しくて、ペンだこのある。

 

 ずっと会いたかった、推しのキミーーーー

 


「ブ………………ブルー!!」

 


 わたしの声に、三人はポカンと口を開けた。

 


 ※


 

「そーかそーか、ブルーかあ!星来ちゃんの推しね!」


 カラオケ屋の一室で、けーすけこと草薙圭介くんはカラカラと笑った。

 初対面というのにもう下の名前呼びだ。そんな彼からも「けーすけでいいよ」と出会って速攻言われてしまったので、ならば遠慮なく。

 タレ目で人懐こい雰囲気もあるせいかこっちも警戒心が薄れていく。

 

「まさかすぐに見つかるなんて。意外と世間は狭かったね星来ちゃん」

 隣の菜那ちゃんはそう言って、頼んだ飲み物をわたしの前へ置いてくれた。

 

 推しのキミーーーー蓮水楓くんは、特に表情を変えずだんまりしている。まぁこっちが一方的に知っていたわけで、初対面なのだからそうもなるだろう。

 

 しかし推しが目の前にいるなんて。

 こんなに堂々と間近に見れるとは、我が人生一変の悔い無し。

 

「………」

 推しのキミは視線に気付いたのか、なんとなく顔を背けられてしまった。

 

「あのぉ、実は朝同じ電車でして。わたしのこと見たことあったり……」

「……っ」

 すると推しはひどく戸惑った顔をして、その隣にいた圭介くんが即座に反応した。

「あのさ、実は楓少し前に駅の階段で頭打って記憶を無くしてるんだ」

「え!?」

「記憶………喪失?」

 

「全部ってわけじゃないんだけど、家族とか自分のことはわかってて。だけど友達が………交友関係が曖昧になってるみたいなんだよね。幼馴染の俺のこともすっかり忘れられててどんだけ泣いたことか。でもまぁ、最近はわりとまたいい感じになってきてるけどな」

 

 なんと………記憶喪失とは。

 

 漫画の王道ではないか…………!!

 

「しばらく電車通学はやめて家族の送迎だったんだ。学校でもやっぱり覚えてなくて、気を遣ってばっかりだったからさ。だから初対面の菜那と星来ちゃんなら逆にいーかなと思って」

「そ……うだったんですか」

「だからごめんね、もしかしたら星来ちゃんを知ってたかもしれないけど、今はちょっと」

「………すみません」

 と、推しのキミは軽く頭を下げた。

 

 ヒェェ推しに頭を下げさせるなど推し活者としてあるまじき行為!

「いいいえ!こちらこそごめんなさい勝手に知っておりまして!ああっいえ!違います知らないです大丈夫です!初対面みたいなものですからどうぞお気遣いなく!!」

 二人はポカンとして、圭介くんが始めにブハッと笑った。

「てか初対面でお気遣いなくってのも………!!」

 見れば推しもなんか口際がひくついてる。

 菜那ちゃんまで笑ってるし。

 

「あはは、星来ちゃんってば………!まぁ、とりあえずほぼ初対面同士、今日から仲良くしましょってことで!」

 と、彼女はジュースを持って、わたし達はカチンとグラスを鳴らした。

 

 

 流行りの歌をガンガン歌う菜那ちゃんと圭介くんにわたしは手を叩いて聴いていた。推しである蓮水くんもどうやら歌は苦手らしく、同じように手を叩いている。

 

 すると、耳慣れたイントロが流れた。

「楓!ほら、十八番だったろ?」

 そう言って、圭介くんは推しへマイクを手渡した。

 最初は戸惑っていた蓮水くんだったが、歌が始まると立ち上がり熱唱した。

 

 ブルーが歌う、戦隊ヒーローの歌を。

 十八番というくらい推しは歌い慣れていた。こんなに度肝を抜くイケメンの十八番が戦隊ヒーローとはギャップ萌えもいいところだ。

 

 歌い終わり、すぐにまた耳慣れたイントロが流れた。これは………

「ほら星来ちゃんも!十八番!」

 そう言って今度は菜那ちゃんがマイクを渡してきた。

 

「いやわたしは………」

「いーじゃん、星来ちゃん歌って!」

「そーそ!俺これ知ってるし楓のおかげで!」

 

 戸惑った時、ふと推しのキミの視線までやたらと熱いことに気付いた。

 

「俺も聴きたい」

「……っっ!」


 

 ーーーーその日わたしは菜那ちゃん以外の前で、初めて目一杯アニソンを歌ったのだった。


 


 

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