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17 レディー…………GO!!

「瑠生くん、この間はありがとう。きちんとお礼も言えずにごめんなさい」

 

「別に」

 彼は素知らぬ顔でペットボトルの炭酸を飲み、耳元で囁いてきた。

 

「ーーーーなぁ、おまえ蓮水が好きだろ?」

「ぶぇ!?い………いやその……」

「やめといたほういーぜ、あいつ記憶喪失の前に好きな奴いたっぽいしな」

 瑠生くんの言葉にわたしは時が止まった。

 

「誰か知ったら驚くぜ〜?意外や意外……」

「知ってる」

 視線の先の楓くんと赤ピアスを見ながら、わたしは淡々と答えた。

「櫻井さんだよね。楓くんの片想いの相手………知ってる」

 

「………」

「大丈夫、ちゃんと友達でいるので。応援するって決めたので!………わたしは絶対に………楓くんを困らせたりしないので」

 

 なぜか瑠生くんが一瞬辛そうな顔をして、それからわたしのお皿にある肉を指差した。

「やっぱ謝礼して。おまえの肉ちょーだい」

「へ?はあ………どーぞ」

「ちげーよ、おまえが俺様に食べさせるんだろ」

「なぜ!?」

 けれども彼は憮然とした顔で口を開ける。

 

 うーん、流石は超サイヤ人。肉が好きなのだろう。

 まあいいか、とわたしは彼の口へ肉を入れてあげようとして………

 

 

「キャアアァア!!」

 楓くん達の方から、赤ピアスの叫び声が聞こえた。

 どうやら火傷をしたらしく彼女は手を押さえている。楓くんがその腕を取り、川のほうへ向かうとその手を水の中へと突っ込んだ。

 

「痛ぁぁい!!」

「ちょっとあんた何やってんのよ!」

 そう言いながらも菜那ちゃんが心配そうに駆け寄った。

「だって肩に虫が……!!」

「で、火傷までしたってーの?あんた手伝いはしないくせに怪我なんかしてなにやってんのよ」

「仕方ないじゃない!あたしは都会育ちなのよ!!」

 タープテントから佑月さんがやって来て赤ピアスの手を取った。

 

「早めに戻って手当てした方が良さそうね。こっちは片しておくから、楓は先帰って応急処置してやんな」

「姉貴がすれば……」

「いーからやんな。………あんた私が何も知らないとでも?」

「……っ」

 意味深に佑月さんがそう言うと、楓くんは黙って赤ピアスと一緒にコテージへ戻っていった。


 

 姉弟である佑月さんは知っているのかもしれない。


 楓くんの想い人が彼女であることを。

  


 ※


 

 夕方になりわたし達は近所の花火大会のあるお祭り会場へ足を運んだ。河川の横をズラリと沢山の屋台が並び、それに負けないくらい沢山の人で賑わっている。

 

「ねぇ楓くん、あたしりんご飴が食べたーい!お財布出してくれる?」

「…………これ?」

 手を火傷した赤ピアスは楓くんに荷物持ちをしてもらっていた。

 片手は楓くんの服の袖を掴んでいて、優しい彼はまた戸惑った表情ながら彼女の財布からお金を取り出してあげている。

 

 でも記憶を取り戻したとしたら…………

 きっと、微笑んでしてあげているのかもしれない。

 

「あんたりんご飴を持って歩けるなら荷物くらい持ちなさいよ」

 菜那ちゃんが隣で毒突いた。

「荷物を持ったら今度はりんご飴が持てないじゃないの」

「なら食うな。大体さっきから蓮水くんの服の袖を引っ張るんじゃない!メーワクしてんでしょーが」

「なによ、だったらそっちはどーなのよ!!」

 と、菜那ちゃんの服の袖を掴んで歩いていたわたしは指を差されてしまった。

 

「星来ちゃんはいーのよ!!私は迷惑なんかしてないし!!」

「じゃあ一生そーしてればぁ?」

「そーねあんたもたまにはいい事言うじゃない。私はそれで全然構わないむしろ望むところ!!」

「菜那、ドン引くからヤメテ」

 圭介くんが割って入り、その間に楓くんは自分の分のりんご飴も買って…………

 

「はい、星来ちゃん」

 と思ったらなんとわたしへ手渡してきたのだった。

「あ…………りがとう」

 か、楓くんからのりんご飴…………っどうしよう保存しておきたい。



 カランカラン!!


 と、その時近くの屋台からベルが大きく鳴った。

 なんだなんだと言ってみれば、佑月さんが勝ち誇った顔で周りの人だかりから称賛を浴びていた。

 

「いや〜まいったまいった、お姉ちゃん上手いねぇ〜商売上がったりだよ、まさかもう特賞を当てちまうとは!」

「あらやだごめんなさいね〜!でもお兄さん、ちょっとこのへん緩んでたわよ私は問題ないけれど。小さな子はさぞかし大問題よねぇ私が直して差し上げましょうか?」

 

 佑月さんは豪快に笑いながら、特賞のゲーム機………ではなく有無をも言わさずおっきなぬいぐるみに変えてもらって、恐らくその前にやっていただろう小さな女の子にあげてしまった。

 ああ本当に素敵な人だ。


 

「――――なぁ蓮水、勝負しねェ?」

 羨望の眼差しで佑月さんを見つめていたら、瑠生くんがそう言って射的の銃を手に取った。

 

「おっさん、二人だけで同時にやってもいーだろ?標的以外は当たっても要らねーよ」

 テキ屋のおじさんは佑月さんに睨まれ……いや微笑まれ納得した。

 

「先に標的を当てた方の勝ち。そうだな………あのちっこい犬の置き物あたりいーんじゃね?…………額に星が付いてる、アレ」

「………………ああ」

 

 なんだろうか。たかだか射的とは思えないピリついた雰囲気だ。

 

「アレなら俺、貰ってもいーわ」

 と、なんとなく一瞬瑠生くんと目が合った気がした。

 

 赤ピアスが「楓くん頑張って!」とはしゃいだ声を掛けるけれども、とてもそーゆう空気には感じられず、わたしは固唾を飲んで見守った。


  

「じゃ、私が合図を取るわ」

 佑月さんがスッと手を出して一呼吸置く。


  

「レディー…………GO!!」


  


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