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15 漫研とメイド服!?

「ありがとう、蓮水くん」

 と言った後、彼はちょっと微妙な顔をした。

「………蓮水くん?」

 

「…………って、呼んで」

「え?」

 ちょうどコロ助がまた元気に鳴くものだから聞こえない。

 

「圭介も黒崎も下の呼び名だから………」

「?」

 

「俺も。楓って呼んで」

 

「ーーーーっっ!!」

 ぶわっと、それはもう。

 顔が熱くなったのは致し方なし。

 

「う、うん………そ、だね。か…………楓……くん」

 またぶわわっと頬が熱くなって、わたしはまともに蓮水くんを………い、いや楓くんが見れず。

 

 彼は「うん」と嬉しそうに立ち上がって、また戯れ付いてきたコロ助を撫でてから、近くにあった小枝を手に取った。そして、

「あ………すごい!」

 なんとなんと、器用にも地面へアニメキャラクターの絵を描いたのだ。

 

「すっごい上手!」

「実は俺、漫研なんだ」

「漫研!?……………そっか、だからペンだこがあったんだ」

「え………?」

 言ってしまってからハッと気付いた。ペンだこなど、よくよく手元を見なければ気付かないわけで。

 見てますよ、と言っているもののような気がして。


「えっと、その……漫研とか珍しいね。わたしの高校にはないから。部員もたくさんいるの?」

「あー…………それが……」 

 誤魔化すように言ったら、どうやらそれには気付かなかったようで、楓くんはわたしへ向いた。

 

「俺を含めて男子部員四人」

「四人!?それだけ?」

「最初は男女共にもっといたんだけど、部長の方針で日に日に辞めてって………で、結局四人」

「部長さんの方針で…………?辞める人が続出なんて、ずいぶん厳しい決まりなんだね」

 楓くんは苦笑しながら肩をすくめた。


「それが、部内恋愛禁止ってゆう」

「じゃぁ、みんな付き合って辞めちゃったってこと?」

「それだけじゃないんだけど。今やリア充撲滅に団結してるからなぁ。まぁ、そのおかげで色々炙り出された感があるから、俺としては部長に感謝かな。純粋に漫画が好きなら辞めてないだろうからね」

 

 その含んだ楓くんの言葉に、圭介くんから聞いた話を思い出した。彼が異性で大変な思いをしているのは過去のことだけじゃなく、今も続いていることで。

 だとしたら、今こうして楓くんと普通に会話が出来ているのは奇跡なのかもしれない。


 ーーーーきっと、わたしが楓くんにとって『いいお友達』でいるからなんだ…………


 このままの関係でいられるには、わたしさえ変わらなければいい。

 そんな現実にまたツキンと胸が疼いた。



「記憶…………ずいぶん思い出してきたんだね」

 漫研の部員さん達のことは覚えていそうだ。

 楓くんは「まぁなんとなくかな」と肩を竦めて、また地面へキャラクターを描いてはわたしをびっくりさせてくれた。

  

「夏休み明けに文化祭があるから案内するよ」

「漫研を?」

「校内全部」

 と、微笑む彼に急激に心臓が跳ね上がる。

 

 …………わたしはなんて単純なんだろうか。

「それじゃぁ、こっちの文化祭の時もわたしが案内するね。まだ制作途中なんだけどメイド服がすごく可愛いから……」

「えっ!?」

 

 突然楓くんはギョッとしたように声を出し、持っていた小枝をボキッと折った。

「メイド服…………?まさか…………星来ちゃんが着る……とか…………?」

「え………やややまさかっ!違う違う!手芸部だからクラスからお願いされてて!」

「そうかなんだ。手芸部か…………勝手に帰宅部だとばかり」

「学校のミシンの調子が悪くて自宅制作が多いの。それとね、着るのは女子じゃなくて……」

「…………男?」

 

 こくりと頷くと、楓くんは緩んだ表情のままなんとなく眉間に皺を寄せた。

 

「手芸部に男子部員は?」

 ふるふると今度は横に振ると、彼はやっぱり穏やかな表情の中に僅かな眉間の皺。

 

「採寸は手芸部全員で?」

「わたしは記録係だったからリストに書くだけ。採寸は主に先輩達がしてくれたから」

「いい考えだね。でも来年からは後輩にやらせた方がいいと思うよ。習うより慣れろ、って言うからね」

 うーむ、流石は優しい楓くんだ。


「それでね、菜那ちゃんはなんと男装して執事役をするの!もうすっごく、本当に素晴らしくカッコいいの!!」

 試着をしてみるかと、パリッとテールコートを着こなす親友を見た周りの女子達の歓声はそれは凄まじかった。

 でもあれを楓くんが着たとしたら、もっと凄いことになっちゃうんだろうな。

 


「……………そうのんびりしていられないな」

「そうだね、あと一ヶ月ちょっとくらいだから」

「文化祭はお披露目するいい機会だから周りの反応が楽しみだね」

 そう言ってから、彼は「そうそう……」と、思い出したようにスマホを取った。

 

「うちの姉がこの前はバタバタと見苦しい所を見せたからお詫びがしたいって言っててさ」

「お詫びなんて、わたしは何も」

「週末は予定あるかな?」

「ううん、特に」

 楓くんは「よかった」と、またアンニュイに微笑んで、

「あくまでも姉の誘い、ってことを強調してご両親にも伝えてほしいんだけど…………」

 


 と、その後告げる彼の言葉から始まったことに。

 


 わたし達のこの関係は、唐突に終わりを迎えるんだーーーーーー


 



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