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12 二度目のヒーロー

 初めてだった。

 

 向けられる笑顔と優しさが、好意というものが心地良いと感じたのは。

 

 その人の言葉ひとつに一喜一憂して、行動ひとつに意味を見出して。そんな自分が不思議で戸惑いもあったけれど答えは単純で。

 

 恋だと知ったら腑に落ちた。

 

 親切心だけじゃなく、もしかしたら彼もわたしと同じように………なんて期待を。

 思い上がりもいいところだ。

 

 だってその人は本当に優しいから。

 どんな話だっていつもちゃんと聞いて笑顔で返してくれるから。

 嬉しくて楽しくて勘違いしちゃったんだ。

 


 片想いの相手がいるとも知らずに。


 

「罰が当たったのかな………」

 今までわたしへ好意を向けてくれた人達の気持ちなど考えもせず逃げ続けてきたのに、いざ自分がその立場になって相手を困らせようとした。

 推しのキミだったその人を特別な目で見てしまった。

 

 見ているだけで満足だったはずが、欲をかいたわたしへの………………罰、だ。

 


「無理だよ、菜那ちゃん……………」

 知らずに両目から溢れた雫が頬を濡らした。


 

 告白なんて、されっこないよーーーーーー

 


 ※

 


『今日もお友達と帰るので』

 そう送信してから、ごめんね、のスタンプを追加する。

 

 ここ一週間、何かと理由をつけては電車の時間帯をずらし蓮水くんと距離を置いた。

 

 精一杯の防御策。これ以上自分が傷付きたくないだけのただの逃げだ。けれどもし彼が記憶を取り戻し、片想いの相手を思い出したら。

 それなのに好意を寄せるわたしに気付いたとしたら。

 拒絶の意思を示したら……………

 

 それに堪えられるほど、わたしは強くない。


 

「な、なんで………!」

 また遅い委員会を終えての帰り道、駅の改札口が見えたところでわたしは咄嗟にバス停の時刻表へ隠れた。

 なぜならば、改札付近に一際目立つ見慣れた長身のイケメンが………蓮水くんが立っていたからだ。

 ここを通らねば電車には乗れない………即ち帰れない。でも落ち着け、わたしを待っているとは限らない。けれども友達と帰ると言いながらボッチというこの状況は非常にマズイのだ。

 

 とりあえずは次の隠れられそうな場所へ移動しようと見回すものの駅の広場は無駄に見通しがいい。


 ーーーー人混みに紛れてしまえば…………

 

 有り難いことにラッシュ時の今は駅に向かう人も多い。辺りを見回し表面積の大きい男性の背中へ隠れながら駅までの距離を縮めていった。

 すると、その男性は駅を素通りしていく。

 

 お…………ろろろろろ!?

 同じように蓮水くんから死角になるよう男性の後を付いていく形になり、駅からは遠ざかってしまった。


「…………何してんの、おまえ」


 不意に聞こえた呆れ声に、わたしは振り返った。

「あ、超サイヤ人さん」

「またそれかよ。つーか、何やってんのおまえ」

「これは別に………超サイヤ人さんこそ」

「瑠生」

「瑠生くんこそ、最寄りの駅でもないのに」

「母親がそこのバーで働いてんだよ。明日中に持ってく書類があるから寄ったの」

「お母さん……?」

「母子家庭なもんでね。今やっとかねーと間に合わねーんだ」

 それはつまり、朝も戻らないということを意味していた。

「なんと………苦労なさっているのですね」

 ホロリと涙………は出ないけど。

「ヤメロ変な想像すんの。母親との関係は良好だし、弟がいるから別に寂しくもねえ」

 

 そう言う彼に、わたしはその境遇を垣間見た。

 髪色こそ派手なものの、彼は立派に有名進学校への受験を勝ち取ったのだ。下の子の面倒を見ながらそれはどれ程の努力だったのか。そして関係は良好と言いながらアルバイトをしているのは言わずもがな………親や弟への気遣い。

 

 口は良いとは言えないけれどわたしへの痴漢防止レクチャーも、面倒見のいい彼だからこそしてくれたことだったのだろう。

 そうとも知らず、わたしはあの日邪険にしてしまった。

 

「わたしは…………駄目ですね。また他人の好意を……………その真意を知ろうともせず」

「あン?」

「ーーーーそっか、瑠生くんが金髪を勧めたのは………自分がそーなってだから…………なんですね」

「おめーは何を一人納得して……」

「その姿は誰かを………瑠生くんの場合はたぶん、弟さんを守るために、ですよね?周りから自分を強く見せようと。だからあの日わたしにも、瑠生くんは金髪にしろだなんて言ったんですね。痴漢に対して強く見せるために」

「………」

 否定するわけでもなく驚いた表情の瑠生くんを見るにどうやら正解だ。

 

 母子家庭ともなれば色々ある。その大変さはわたしには全てはわからないけれど。

 彼の場合、計算あっての超サイヤ人なんだろう。

 

「ご飯も瑠生くんが作ったりするんですか?」

「まぁ……………育ち盛りの弟がいるからな」

「勉強も出来て料理も出来て、瑠生くんはきっと弟くんにとってヒーローですね」

 一人っ子のわたしには蓮水くんのお姉さんや瑠生くんのようなお兄さん、弟や妹にも憧れた。

 

 彼はまた驚いたような顔をして、怒ったよーな照れたよーな「うるせぇ」と一言。


「ーーーーで?おめーは早く帰らねーのかよ?」

「え、ええ、まぁ………帰りたいのは山々なのですが」

 チラッと改札口の方を見てしまったら、気付いた瑠生くんが体勢をずらし視線を追って「ああ……」と、察したように目を眇め口の端を持ち上げた。

 

「会いたくねーんだ?」

「いやっ、そーゆう、わけでは……」

 モゴモゴ口籠るわたしを、またしても彼はニヒルに笑う。 

「いーぜ、また助けてやっても」

「えっ……!ぅええ!?」

 

「その代わり、今後敬語はナシだ」

 と、瑠生くんはわたしの手を取り、歩き出したのだった。

 

 


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