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11 頭に、サクラ

「楓ッ!!急ぎなのファスナー留めて!!」

 

 ウェーブのかかった長い髪を振り乱し、ばっくり開いた白いワンピースの背中を指で指しながら綺麗なおねいさんが入ってきた。

 

「ここッ!マジ合コン遅れるから早くして!!今日はアツいのよ、国際弁護士!!やっと私に見合う男と出逢う日が来たのよ!!」

 おねいさんは背中を向けながら熱弁する。どうでもいいけれど、す、すごい格好だ。

 

「ちょっとほらッ!何モタモタしてんの楓ッッ!!」

 

「………ーーーーッッ出てけ!!」

 あの蓮水くんがブワッと怒りを露わにする。

 

 そこでやっとおねいさんは振り向いた。

 

「あら?あらあらあら、あらー!?」

 目を輝かせてわたしの手を取り、

「やだー!すごい美少女!!うっそ、なんで!?なになに、どっち?どっちの!?」

 と、おねいさんは興奮した様子で圭介くんへ訊くと、彼はにっこり無言で蓮水くんを指差した。

 

「うそー!!えー、こんなオタクにありがとうー!!でもごめんねぇ、すぐ出なきゃいけなくてゆっくり話してあげられなくてー。名前は…………あ、セーラちゃんてゆーの?やだもう名前まで可愛いのねー!セーラちゃん悪いけどファスナー留めてくれる?」

 

 言われるがままファスナーを上げ金具を留めると、彼女は扉へ向かって「ありがとう!またねセーラちゃん!!」と、嵐のように過ぎ去って行った。

 

 なんて自由奔放な…………

「…………カッコいい」

 

 しかしわたしの言葉に、蓮水くんは全力で否定したのだった。

 

「どこが!?」


 

 ※ 


 

 蓮水くんは疲れ切った顔をして「姉がごめん………」と、飲み物を取ってくるとゆーので手伝おうとしたけれど、座っててと言われてしまい大人しく待った。

 

「なかなか破天荒なおねーさんでしょ」

 クックと楽しそうに圭介くんが笑う。

 

「悪い人じゃないんだけど、小さい頃は俺も楓もよく振り回されたものだよ」

「でも、明るくて素敵なお姉さん」

 それに………

 

 蓮水くんと同じバラの香りが、した………………

 

「まぁね。楓はさ、いろんな期待とプレッシャーの中で正直よくやってきたなぁなんて思ったりするよ。本人の努力を遺伝的なもので見られるのはしょっちゅうだったし。まぁ、歪むよなぁ。さらには家柄にあの見た目もあるから、中学の頃はファンクラブまであったんだよ」

「ファンクラブ……!!わたし以外にも推し活者が………!!」

「あはは、まぁ、それでいい加減周りの女の子達には辟易してて…………だから、記憶喪失前はわりと異性に辛辣だったんだ」

 

「辛辣………蓮水くんが…………?………まさか」

「そう、だから俺もビックリして。まぁ結果的に記憶喪失も悪くはなかったかなーなんてね」

 

 蓮水くんはわたしへの痴漢を心配してくれるほど優しくて、お婆さんにも気遣いができて…………

 辛辣だなんて想像出来ない。


  

「片想いの子と話すキッカケが出来たからってまさか浮かれて階段から落ちるとかさ。まぁ頭にサクラ………」

 

「え…………?」

 

 突然、圭介くんはバッと両手で口際を押さえ黙った。

 


 ーーーー片想いの………子……………?

 


「あ………はは、ご、ごめん今の………忘れてくれると……」

「無理」

「いや、あのね……」

「蓮水くんは…………記憶喪失前に片想いの子がいた………のね………?」

「いや、だからそれはね……」

 頭に、サクラ………………?


 サクラ…………

 


「櫻井…………彩花…………?」

 


 赤ピアスの言葉がフラッシュバックした。

『楓くん、前にあたしにゆったでしょ?卒業アルバム見たいって』

 


 あ………………


 そっか、あれは………………

 

 

「違うって、星来ちゃん!!」

 圭介くんが必死に声を掛けてくるけれど頭が回らない。

「今は、その………」

 今は…………?

 じゃぁ………………

 

 記憶喪失の前は………………?

 


 どんどん呼吸が辛く感じて目の前が暗くなった。

 どうしよう考えたくない。

 どうしたんだ自分、しっかりしろ。

 しっかりしろ。

 でも考えたくない。

 

 うん、そうだ。

 

 ーーーー考えなければいい…………


  

「コロ助の散歩行かなきゃ」

 わたしはスクッ立ち上がり、スタスタと扉へ向かった。


「せ、星来ちゃん……?」

「じゃぁ、また」

「星来ちゃん!?ちょ、ちょっと、待って話を………… !!」

「帰り道は記憶しているので。蓮水くんにお邪魔しましたとお伝えください。尚………付いてきたらストーカーとみなし大声を出しますので」


 きっぱりと告げ、わたしは部屋を後にした。

 


「な、菜那に…………………殺される………………」


 と、ガタガタと青褪め呟く圭介くんを残して。



 

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