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10 キテレツに会いたいっ!

「おつー、星来ちゃん!」

 

 翌日の帰宅の駅構内。改札を潜り抜けたところでにこにこ人懐こい笑みを湛えて待っていたのは推しの親友圭介くんだった。

「どうして圭介くんが?」

「今日は楓が病院だから」


 そうなのだ。今日蓮水くんは通院先の病院の定期検診のためにお休みしている。そんなわけで、わたしは残念でもありホッとしていた。

 

「いやーほんとは朝も言われてたんだけど。ほら俺、早起きがね」

「部活は………バイトはいいの?」

「俺はゆる〜く愉しむタイプなもんで。本日は姫の臨時のボディガードを優先」

 と、まるで執事のような姿勢を取った。

 ふふ、まるで漫画のキャラのようだ。

 


「なんだ、この時間帯はわりと空いてるね。いつもこんな感じ?」

 混雑までもいかないまばらな車内を見て、圭介くんが拍子抜けした顔をする。推しが以前言っていたけれど、テニス部のエースである彼と超サイヤ人は部活そっちのけでアルバイトに明け暮れているそう。

 

「委員会がなくて早く帰る時は大体。この間はたまたま座って話せたからうっかり乗り過ごしちゃって、蓮水くんが責任感じてまた駅まで送ってくれて………」

「へぇー!あの楓がねぇ………そーかそーかうんうん、知らないうちにキミ達はそこまで………いやはやスバラシイ」

 

 圭介くんはまたにこにこと。しばらく何事か考えてまた人懐こい笑みを見せた。

「星来ちゃん、このあと予定ある?」

「特に………?」

「じゃぁ、今日もちょっと乗り過ごしちゃおうか」

「へ?」 

 すると彼は、今度は悪戯っ子のように笑った。

 

 

「だって会いたくない?キテレツにさ」

「――――!!!!」

 

 瞬間、静かだった車内にわたしの声はこだました。


 

「あ、会いたいっ!キテレツにっ!!」

 


 ※

 


 いつもの駅より一駅過ぎて、見慣れない改札と景色を見ながら自転車を引いた圭介くんと歩いて行く。

 

 途中のコンビニで蓮水くんとよくアイスを食べながら帰ること、長い信号が鬼門でこれさえなければあと五分は寝ていられること、小学生の頃によく遊んだ公園で蓮水くんが今飼っている猫のキテレツを拾ったこと………彼の話は小気味良くて楽しかった。



「かーえでー!!もう帰ってるだろー?」

 インターホンがあるのに大声で呼ぶ方式………この人は小学生だろうか。

 ぐるりと見回すけれど、推しの家はすごい豪邸だった。

「あ、コイツの家、医者ね。ちなみに通院先も自分ち」

「お、お医者さん!?」

 ど、どーりで豪邸なはずだ。

 

 見た目と頭脳、そして恐らくスポーツも万能でゲームや漫画にも精通し…………さらにはお金持ち。

 改めてブルーは現存した。


  

 少しすると、門が勝手に開いた。

 慣れたように先に歩いて行く圭介くんの後ろをついて行く。

 広い庭を通り抜け立派な扉が開いて、溜め息を吐きながら蓮水くんが顔を出した。

「おまえなぁ、毎度近所迷惑だからインターホンを鳴らせと………」

「こ、こんにちは」

 こちらも圭介くんの後ろから顔を覗かせると、推しの目が点になった。


「え………せ、星来ちゃん!?」

「連れてきちゃった」

 と、テヘッと舌を出してウインクする器用な圭介くん。

 その姿を非難めいたような何とも言えない顔をして「五分待って!」と消えてった蓮水くんは、律儀に五分後やってきて通してくれた。


 

「キ…………キテレツぅぅ、会いたかった!!」

 入ってすぐやたらと立派な絵画のある長い廊下を、ツンと尻尾を立ててやって来て足元へ擦り寄る猫の可愛さに、わたしは速攻ノックダウンだ。

 

 コロ助のにおいがあるから嫌われてしまうかと思ったけれどそんなこともなく。大人しく抱き上げられるキテレツは、またスリスリと頬をくすぐった。

 

 圭介くんが蓮水くんの肩にポンと手を置く。

「こらこら楓クン、羨ましいとか思ったら負けだよ」

「お、思って………ない!!」

 

 

 人生初の男の人の部屋というものに、ドキドキと二階の蓮水くんの部屋へ通される。

「わあ!!」

 

 視界に飛び込んできた眩い大きな本棚に、わたしは感嘆の声をあげた。

 映画化もされたファンタジー小説や親世代の漫画本。ウェブから書籍化した転生ものやらバトルものやら戦国系等、様々なジャンルが並んでいる。

 

 透明のガラスケースにはたくさんのキャラクターフィギュアがあって、さらに勉強用のデスクとは別にプロゲーマー用のゲーミングデスクとそれ仕様の椅子まであった。

 もちろん、その隣の棚にはわたしには少しも理解出来ないような難しい医学書やら参考書やらもあったけれど。

 

 それを考慮したってここは、

「て、天国…………っ!!」

「ねー、なかなかのオタク度でしょ、楓クンてば」

「おまえは少し沈んでろ」

「ワーイ辛辣〜いつもの楓クンが帰ってきた〜」


 

 ゆっくりと本棚を眺めていると、蓮水くんが隣へ来た。

「知ってる漫画はあった?」

「うん!初めて見る漫画もあるけど、これも………これも、小さな頃にアニメDVD借りて見てた!すごい懐かしい!」

「今の漫画やアニメももちろん良いけど、俺はわりと親世代のが好きで、古本屋にもよく行くんだ」

「蓮水くんも!?わたしも大好き!」

 つい興奮して前のめりになって言ってから、至近距離でばっちり目が合うとゆうやたらと距離が近いことに気付く。

 ぶわっと体温が上昇し、わたしは慌てて顔を背けた。

 

 わ、わわわたしはなんて罪深いことを…………!!

 蓮水くんがコホンと咳払いをして、

「自由に手に取っていいよ。読みたいのがあったら貸すから」

「えっ、本当に!?うーん……………それじゃぁ……」

「あ、これ知ってるかな。お勧めは……」

 と、気になっていた漫画本を指に掛けた時、蓮水くんの大きな手がわたしの手をすっぽりと包み込んだ。


  

「…………――――っっ!?」


 一気にまた瞬間湯沸かし器と化したわたしはその場を動けず。

 蓮水くんは「ご、ごめん!」とすぐ離れてくれたもののこちらは許容範囲を超え、ただただ静かに手を引っ込めた。

 だって一度ならず二度までもこんな罪深いことがあるだろうか。


  

 て、ててて手が………………

 蓮水くんの手が……………っっっ!!

 

 か、簡単にすぽって。すぽって。

 

 骨張ってて、あったかくて。

 


 その様子を一部始終見ていただろう椅子に座って頬杖を付く圭介くんがククッと笑った。

「もう楓クンてば、ラッキースケベじゃん」

「おっ…………まえは!そーゆーことを…………!!」

「ウワーン、暴力反対〜!」

 

 

 なんてやり取りしていたら、外で何やら荒い車のドアの開閉音、さらにバタバタと階段を上がる音が聞こえてきた。

 誰かが帰って来たのだろう。ご家族の誰か………?と考える間も無く隣の部屋からまたバタバタと音がして、


 バンッ!!と扉が開いたのだった。



 

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