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6話


「歓迎会……ですか」

「そ!やっと忙しいテスト期間も終わったんで、宮村先生の歓迎会しようと思いまして」


宮村が来てもう三、四ヶ月くらいになるし、歓迎会なんて今更感があるが、まぁあんだけ働いてるんだ。学校側も期待の新人君を労りたいのだろう。後は女性陣たちが一緒に飲みたいってのもあるのだろう。毎回プライベートのお誘いには断られているようだし。


「わかりました」

「あれ?嫌じゃないんですね」


確かに、いつもなら面倒臭い気持ちがすぐに勝つのだが。


俺も宮村には色々世話になっているから、今日くらいと思っているのだろうか?……いや、世話してやってんのは俺の方じゃね?


「まぁ別に、タダで飯が食えるならラッキーですしね」

「いや、ちゃんとお金は出してください」

「え。いくら?」

「二千円」

「じゃあいきません」


学校側が出してくれるんじゃないのかよ。

というか。今思えば俺が入ってきた時、歓迎会なんてしたっけ?


「ダメです。拒否権はありません」

「何故!?俺が行かなくても別に困らないでしょ」

「困ります!!宮村先生が、草加部先生が来てくれないと来ないって言ってるんです!!だから絶対に、強制参加です!!」


なるほど。だから俺にも声がかかったのか。

絶対宮村がそんなこと言わなかったら、俺に声かけなかっただろコイツ。


というか、なんで俺が参加しないと行かないなんて言ったんだ宮村は。歓迎会の主役だろが。


「というわけで!!」

「いや、待っ……」


結局何を言っても俺に拒否権はないらしく、色々と不服だが歓迎会に強制参加となってしまった。めんどくせぇ。


「で?なんで俺が来ないと行かないなんて言ったんだ?宮村先生」

「あれ?怒ってる?」

「……別に怒ってはない。ただ理解ができんだけだ」

「だって、草加部来ないとつまんないし」

「なんでだよ。他の教師とも普通に仲良くしてるだろ」

「その中でも、草加部とか一番居心地いいし」


一瞬言葉が詰まる。

コイツは、恥ずかしげもなくこういうこと言いやがるからタチが悪い。


「ま、まぁ。他のやつには媚び売ってるみたいだしな」

「そうそう。その点、草加部にはなーんにも取り繕わなくていいからさ!!」

「一応俺は、仕事では大先輩なんだがなぁ……」


まぁでも。今まで嫌われていたと思っていたやつから「居心地がいい」とか「取り繕わなくていい」なんて言われたら、正直悪い気はしない。


「ってなわけで、今日は楽しもうな。歓迎会」

「え、あ、あぁ……」


そういうと、宮村は手をひらひらさせて保健室を後にした。


最近、宮村に対する見方が変わってきているような気がする。


宮村は俺の好きだったやつを奪った奴で、お互いに敵だった奴。

もう会うことなんてないと思っていたのに、今では毎日顔を合わすし、それに一番仲が……良い?


「いや、馬鹿か俺は……なに絆されてんだ」


でも。今まで色がなかった白黒の世界に、ベタリと明るい色が付け足されたように、俺の世界は変わった。


きっと、宮村のおかげだ。


「あぁ!!クソッ!!単純すぎる自分が恥ずかしすぎる……」


でもまぁ……歓迎会の時くらいは、アイツを労ってやろう。



なんて……思っていだが。訂正しよう。


「ねぇねぇ、宮村先生彼女いないんですかぁ?」

「好きなタイプとかありますぅ?」

「というか、身体すっごくたくましいですよね!!鍛えてるんですかぁ?」


労わるも何も、声すらかける隙がない。


それくらい宮村先生は、絶賛女性教師達の餌食となっていた。


「あはは。凄いねぇ宮村先生」

「ま。宮村先生を除いたら、後は俺達おっさんしかいないもんな」

「あはは。そうですね」


俺を含め、他のおっさん教師達はビールを飲みながら、宮村の凄さに苦笑を漏らしている。


これ、やっぱり俺がいなくても問題なかったんじゃないのか?

宮村も俺と話す暇なんてなさそうだし。


それともあれか?

ここは俺が間に入って助け舟を出した方がいいってことか?

いや、それは無理だわ。女性教師達に殺される。


すまないな宮村。

もしそれを期待して俺を呼んだのなら、諦めてくれ。


「ちょっとお手洗いに」


なんとなく気疲れした俺は、お手洗いに行って、少しだけ時間を潰す。


「ある程度飲んだし。そろそろ金置いて帰ろうかな」

「帰るの?草加部」


突然背後から聞こえた声にびっくりして振り向くと、そこには宮村がいた。


「なんだ。お前か」


少し違和感を抱く。


「宮村……お前」


最初は女性教師達の対応に疲れているのかと思ったが、この顔色の悪さは疲れとかじゃない。


「具合悪いだろ」

「……え?」

「熱、あるだろ」

「いや、そんなこと」


俺は宮村の額に手を当てて、熱を測る。

まぁまぁ熱い。顔色も結構悪いし、だいぶん無理していたのだろう。


「帰るぞ」

「え!?いやでも」

「馬鹿か。辛いなら無理するんじゃねぇ」

「っ……ごめん。ありがとう」

「……別に」


俺は先に宮村に外に出てるように伝え、他の教師達に宮村が具合が悪いから送っていくと言って歓迎会を後にした。


あの時の女性教師達の顔、怖かったわぁ。あれは完全に「なんでお前が?」って顔だった。俺、保健の先生なんだけどなぁ……。


「ごめんなさい」

「は?なにが?」

「歓迎会抜けるって言ってくれたんだろ?」

「別に、それくらい気にするな」

「ふっ。草加部優しくなったな」

「やっぱり許すのやめようかな」

「あはは。ごめんごめん」


隣でフラフラと歩く宮村の腕を掴んで、俺はゆったりとした足取りで歩く。


「お前、家帰れそうか?」 

「ん〜〜正直きついかも」

「マジかよ」

「ねぇ草加部の家って近い?」

「まぁまぁ」

「じゃあお邪魔していい?」

「えぇ……」

「なんで嫌そうなんだよ」

「散らかってても文句言うなよ」

「言わない言わない」


ってなわけで、宮村を連れて帰ってきてしまった。


「普通のアパートだ」

「そりゃそうだろ」

「イメージ的に、もっとボロいアパートに住んでるのかと」

「そこまで金には困ってない」


特に使う相手もいないしな。

せいぜい煙草くらいか。


「着いたぞ」

「お邪魔します〜〜」


初めてお邪魔する家だからか、宮村はキョロキョロと俺の部屋を見回している。


「言っておくが、面白いものなんて何一つ置いてないぞ」

「あはは。残念」

「なんでだよ」

「エロ本とかは?」

「あっても教えん」


まぁ俺の場合、エロ本よりもBL本の方が量が多いが……。

それこそ、エロ本よりも見つかってはいけない品物かもしれん。


「えぇ〜〜。草加部のおかず知りたかったのに」

「黙れ。さっさと寝ろ」

「はぁーい」


そう言ってソファーの方へと移動する宮村の腕を掴む。

なんとなくそっちに行くだろうとは思ってたが……。


「アホ。病人がそんな固いソファーで寝ようとするな。ベットで寝ろ」

「え?いや、そういうわけには」

「いいからベットで横になってろ。薬とか持ってくるから」


まだ何か言いたげだった宮村だが、言われる前に俺はキッチンへと向かい。水と解熱剤、後冷蔵庫に保管していたプリンを一つ取り出して、お盆に乗せた。


本当は俺の仕事終わりの楽しみだったんだが、まぁしょうがない。


「宮村、一旦起きれるか?」

「大丈夫。というか……色々と悪い」

「別に。体調悪いなら仕方ないだろ。ほら、薬飲んどけ、後食えるならプリン食っとけ」

「プリンって……いいの?」

「食えるならな」


ただのプッチンするプリンを、宮村は何故か手に持ったままジッと見つめている。


もしかして初めて食う……とかじゃないよな?


「じゃあ俺は風呂入ってくるから、薬飲んだら寝てろよ」

「なぁ、草加部」

「なんだっ……よ……」


その一瞬。

何が起きたのか、俺は理解に遅れた。


宮村の熱い手に腕を掴まれて、勢いよく引っ張られた俺の身体は、ベットの方へ引き寄せられる。


俺の背中に回るたくましい腕。息を吸うと優しく香る宮村の匂い。肩に乗せられる宮村の熱く湿気った額。


これは……なんだ?


俺は今、何をされている?


「ありがとう。草加部」


ちょっとだけ掠れた宮村の声と熱に侵された息遣いが、俺の耳から一気に心臓へ響き渡る。


俺は今、宮村に……。


ーー抱きしめられているのか?


「ふっ。心臓の音が凄い」

「なっ!?」


自分でも自覚していなかった馬鹿でかい心臓の音に頭が真っ白になって、思わず抱きしめられていた身体を一気に引き剥がす。


「なぁ。もしかしてドキドキした?」

「あ、ああるわけないだろ!!つか、俺をからかうな!!」

「からかってないって。本気で嬉しかったからさ」


嬉しくて

つい?

男で、嫌いな男を

抱きしめた?


「やっぱお前頭おかしいわ。早く寝ろ」

「ひどっ!!」


その後もなにかごちゃごちゃ言っていた宮村だったが、俺はわざとらしく耳を塞いで、ソファーへと寝転んだ。


そのまま電気を消せば、宮村も話しかけるのを諦めたのか、布団の中でもぞもぞと動くと、ぴたりと止まって静かになった。耳を澄ませると、微かに寝息だけが聞こえる。体調が限界だったのだろう。


「はぁ……」


まだ、ドキドキしている。


宮村に触れられた場所が、いまだにずっと熱を帯びている気がする。


ーー誰かに抱きしめられる日がくるなんて、思いもしなかった。


生まれてから一度も、誰かに愛されたことなんてなかった。


ずっと一人で、他人の温もりも知らずに生きてきた。


その中、唯一俺を見てくれたのが雪斗だった。


そうだ。

俺は雪斗が好きだったんだ。


俺を兄のように頼ってくれる雪斗が好きだった。

花のように笑う雪斗が好きだった。

可愛らしい雪斗が好きだった。


それなのに、俺が今ドキドキしているのは……。


「……俺って、こんな単純な奴だったのか」


頭の中でずっと微笑みかけてくる宮村の顔を打ち消すように、俺は掛け布団を頭までかぶって、まぶたを閉じた。


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