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3話

宮村が来て一ヶ月。

案の定宮村は、学校の人気者になっていた。


「みやっち!じゃあね〜〜」

「おう!気をつけて帰れよーー」

「みやっちー!今日家庭科でマフィン作ったら食べてー!」

「え!?いいのか?お腹空いてたから嬉しいよ!ありがとう」

「きゃー!!」

「なぁみやっち、今度俺たちの部活来てくれよーー」

「そうだな。今度見にくるわ!」

「あ、宮村先生〜〜今日この後、私達と飲みに行きません?いいお店知ってるんですけどぉ」

「すみません。今日この後用事がありまして、よかったらまた誘ってください」


みたいなかんじで、顔も中身も完璧宮村は、男子からも女子からも、そして他の教師達からも大人気である。


「漫画みたいにモテる奴って、現実にいるもんなんだな」

「それって俺のこと?」

「お前以外に誰がいるんだよ」

「あはは。別に俺なんて普通だよ」

「嫌味か」

「だって、好きだった人とは別れたし」


それを言われると、さすがに何も言えなくなる。


雪斗もなぜ宮村と別れたのだろうか。自分を変えてくれた、初恋相手だったろうに。


「さてと。それじゃあ今日はどこを回ろうかなぁ〜」


放課後。

ほとんどの生徒が下校した後、俺と宮村は、静かになった廊下を二人で並んで歩いていた。


なぜ人気者の宮村が、俺みたい奴と放課後二人で一緒にいるのかというと……。それは、なんともくだらない理由である。


「懐かしいなぁこの教室。雪斗はこの窓際の席だったんだよ。そんでさ、いつも窓の外を眺めててさ〜」

「ソウデスカ」

「ちなみにこの教室で初めてキスしたんだ。あの日も確か、こんなふうに夕日が綺麗で……」

「ソウデスカ」

「興味なさそー」

「興味ないしな、実際」


他人の、しかも昔好きだった人と嫌いな奴同士の初チューの話を聞いて、興味を持つ方がおかしな話である。


「あ、ちなみにこのロッカーの中に二人で隠れてさ、えっちなことしたことある」

「なにやってんだお前ら」

「だって、そういう雰囲気になった途端に誰かが教室入ってくるんだもん」


BL漫画あるあるじゃねぇか。

なんて、口が裂けても言えない。


こんなかんじで俺達は、雪斗と宮村の甘い三年間の思い出が詰まった場所を巡っていた。


あの日、保健室で真面目な顔で言われた「一緒に思い出見学してほしい」というのはこういうことらしい。


「というか、別に思い出の場所見に行くくらい一人で行けよ。俺いらねぇだろ」

「一人だと泣くよ」

「勝手に泣いてろ」

「ひどいなぁ。草加部だって雪斗とのこと聞けて嬉しいだろ?」

「全然。なんでお前と雪斗のイチャイチャ話聞けて嬉しいと思うんだよ。正直もう胸焼けだわ」

「よし、じゃあ次は体育館倉庫にいこうぜ!」

「話を聞け。というか、なんだよ体育館倉庫って。どうせ二人で閉じ込められて、マットの上でエッチしたとかそんな話だろ」

「なんでわかったんだ!?」

「当たってんのかよ!!」


マジでBL漫画みたいなことばっかりしてんなコイツら。なにしに学校来てんだよ。勉強しろ。


「あ、宮村先生〜〜」


後ろからパタパタと走ってくる音と一緒に響いてきたのは、女子生徒の甘ったるい声だった。

どうやら部活かなんかで残っていた生徒が、帰宅するところで、宮村を見つけたようだ。

ちなみに隣にいる俺は眼中にないのだろう。まぁ別にいつものことだから気にしてないが。


「先生なにしてるんですかぁ〜〜?」

「あぁいや、ちょっと草加部先生と見回りしてただけだよ」


そりゃ元カレとの思い出巡りしてました。なんて言えるわけないよな。


「ねぇねぇ。みやっちって、草加部先生と仲良いの?」

「あ、それ私も聞きたかったんです!宮村先生と草加部先生って全然タイプ違うのに、よく一緒にいますよね!」


悪かったな。全然タイプ違くて。


しかしやはり生徒達には、俺と宮村はよく一緒につるんでるイメージを持たれてしまっているらしい。


事実、俺達は授業以外はだいたい一緒にいる。というか、なぜか宮村の方が絡んでくるのだ。


昼休憩もわざわざ保健室にまで来て食うし、廊下でばったり合えばそのまま時間ギリギリまで話しかけてくる。そして放課後は、二人で思い出巡り。


いつも一人で陰気臭い俺の隣に、突然アイドルのようなイケメンが立つようになれば、そりゃ誰だって気になるに決まっている。


まぁだが、別に答えにくい関係でもない。

なんてことない『ただの元教子』それだけだ。


この女子達にもそう答えれば「あ、そうだったんですねぇ」で終わるだろう。


俺からそう言ってやってもよかったが、女子達は宮村から聞きたいだろうし、俺は何も言わず。空気になっておこう。


なんて。

そう思ったのが間違えだった。


「草加部先生は、俺の一番大事な友達なんだ。親友みたいな感じかな?」

「……は??」

「えぇ!?そうだったんですかぁ!?」


まさかの予想だにしてなかった宮村の答えに、思わず思考が停止する。


おいおい、今コイツなんて言った?

一番大事な友達?親友?


「馬鹿ッ!!なにいってんだお前!?俺とお前が親友なわけっ」

「草加部先生はね、俺のことなんでも知ってるくらい仲が良いんだ!さっきだって、俺が喋る前に何考えてんのか分かってたくらいだし」

「いや、それはっ」

「えぇすごーい!!じゃあじゃあみやっちの好きなタイプとか嫌いなタイプとかも全部知ってる感じですかぁ?」

「え!?あぁ……いやぁ……」


それは知ってるかもしれない。

というか、好きなタイプは雪斗だろうし。


「もちろん!!俺のことなら、俺より草加部先生の方が詳しいと思うよ」


あ、これはーー。

絶対めんどくさいことになるパターンだ。


「ほんとに!?」

「じゃあ私、今度保健室に相談しにいっちゃおうかなぁ〜〜」

「いや。待て。というか俺に聞きに来なくても、好きなタイプとかは本人に……っていねぇし!!」


隣にいたはずの宮村はいつのまにか忽然と姿を消していた。

知らなかった。あいつ逃げ足早いんだな。


「じゃあね草加部先生!!今度色々みやっちのこと聞かせてね!!」

「私も相談しにいきまーす!!」

「いや、来なくていいって……聞いてないなもう」


これは絶対めんどくさいことになる。

そんな予感は後日。しっかり的中してしまうのである。


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