5,クッキー
「サマンサ! レナルド! こんにちは」
リリアに、そしてダリル王子に出会ってから三か月。
私たちはとっても仲の良い友達になった。
王子だったり、元平民の伯爵令嬢だったり、侯爵令嬢だったり、侯爵令息だったり……本来身分が違えば、それなりの対応をしなければならない。
しかし特殊な絆が芽生えた私たちは、特に何も気にすることなく、純粋に友達として接している。
「リリア、会いたくて仕方がなかったわ!」
「もう! まだ前に遊んでから一週間も経ってないじゃない」
「あれ? そうだっけ」
「五日前、リリアの家で遊んだな」
「そういえばそうだった」
リリアは結局ウォーカー伯爵夫妻に引き取られた。
彼らはリリアのことをよく可愛がってくれているようだ。
最初に物置小屋で会った時より、今のリリアは何倍も生き生きとしている。
この前ウォーカー伯爵の家に四人で遊びに行った時に私たちからもお礼を言ったら、こちらこそこんなにかわいい子に出会わせてくれてありがとう、と言われてしまった。
リリアのことは安心して大丈夫だろう。
そんなことを考えていると、リリアが首をかしげる。
「あら? まだダリルは来ていないの?」
「まだなのよね……遊ぶ約束をしたの、忘れていたりして!」
「そんなことはないと思うわ。だって……」
リリアがすべて言い終わる前に、こちらに向かってくる金髪に澄んだ紫の目を持った少年の声が聞こえてきた。
「ごめん、お待たせ!」
そう言いながら一直線に私たちのもとへ……否、私のもとへ走ってくるダリルの脇にはバラの花が抱えられていた。
「サマンサ! 今日も可愛いね、僕と結婚してくれるかい?」
「お断りします」
もったいないので差し出されたバラの花束だけ受け取る。
しかし彼は、そんな私の態度など気にする様子もない。
「そっか、残念。また今度チャレンジするよ」
王子様スマイルでにっこりと笑うダリルを見て、思わず眉をひそめてしまう。
「ダリルが私たちと遊ぶ約束を忘れるわけがないのよね。だってこれだから……」
「そうだな」
視界の端でリリアとレナルドが、生ぬるい目で私たちを見て何か言っている。
そう、私はダリルの傷を治して以来、なぜか会うたびにこんなことをされている。
きっとリリアと恋に落ちる予定だったのに私に助けられたからだろう。
そのうち冷めることを祈るばかりだ。
とりあえず花束を部屋に飾ってもらえるようにメイドに預けてから、何して遊ぶか考える。
「何かボードゲームをしたいわ。オセロとかチェスとか!」
伯爵家の養子になって余裕ができてから、リリアがはまったのはボードゲームだそうだ。
前世でもこういったものは弱かった私はどうしようか迷ったけれど、
「いいと思う」
「僕も賛成!」
なんてレナルドとダリルも言うものだから、私も頷いたのだった。
◇◇◇
「うわー! また負けた!!」
「じゃあ罰ゲームとして僕にハグしてもらおうかな」
「罰ゲームをするなんて話はしていないわダリル! それに自分とハグすることが罰ゲームなんて……それでいいの?」
「え、もしかしてサマンサにとっては全く罰ゲームにならないのかな? それは困ったな」
「そういうことじゃない!」
チェスで惨敗した私は、またしてもダリルに口説かれている。
この人……こうやってことあるごとに口説いてこなければ完璧な王子なのに……残念過ぎる。
「チェックメイト」
「……負けたー! あと少しだったのに」
「この前よりもずっと強くなったと思う。もうすぐ俺も負けそうだ」
「そう言ってもらえて嬉しいわ!」
向こうのテーブルでは、レナルドとリリアが対戦をしている。
何だか仲良さげな雰囲気に、私の口角も上がってしまうのは仕方のないことだろう。
そのままチェスのコマと台を片付けると、リリアは何かを思い出したようにそばにいるメイドに耳打ちをした。
数分もするときれいに梱包されたクッキーが出てくる。
「これ、みんなのために作ったの。食べてみてくれる?」
「わぁー! 可愛い、お花型だ!」
リリアからクッキーの袋を受け取り、一つ口に放り込む。
「おいしいー!!」
サクサクとした食感に程よい甘さ、少しナッツが入っていて香ばしいところもとてもおいしい。
「すごい、手作りでここまでおいしくできるのは才能だな」
ダリルはリリアをほめながら、星型のクッキーが入った袋を開けておいしそうに食べている。
「おいしいな。毎日食べたいくらいだ」
レナルドがそう口にすると、リリアはますます嬉しそうに笑う。
よくよくレナルドの手元を見てみると、彼はハート型のクッキーを握っていた。
ハート型……私はお花でダリルは星、
……レナルドに……ハート型!?
思わずリリアの方を再確認すると、レナルドが食べているのを嬉しそうに見守っている。
そのハート型に意味があるのかはわからないけど……レナルドにだけハート型のクッキーを渡しているなんて、その事実だけでレナリリ推しの私としては天にも昇る気分だ。
「これが…これがリアルのレナリリね」
「何か言ったかい?」
ダリルが、リアルレナリリ……? とつぶやいている。
「つ、つまり! レナルドとリリアが仲良しでうれしいなってこと!」
「そっかー。羨ましいなら僕が相手をしようか?」
「間に合っています」
レナルド×リリアは順調だ。
でも、とりあえずこの王子を誰かに引き取ってもらいたいと私は切に祈っているのだった。
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