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10,物語の結末

あれから学園はしばらくの間休みになったそうだ。

古代の魔物は倒されたとはいえど、まだ回復していない生徒も多くいたからだ。

かくいう私も、迷いの森を抜け出し、王宮へたどり着いた瞬間、気を失って倒れたらしい。

古代の魔物のよどんだ空気を吸ったことに加え、もとから少なかった魔力を使い過ぎたのだろう、ということだった。


先ほど目覚めた私は、横にいた医者からこのような話を聞いた。

三日間は寝込んでいたらしく、私はまだぼんやりとした頭で、ただカーテンが揺れるのを見つめていた。


古代の魔物を倒して……レナルドを救って……


「ダリル……」


彼はどうなったのだろうか?

あの晩、リリアの光魔法をもってさえどうにもならなかったのだから……今はもう……


そんなことを考えていると、ドアのノック音が部屋に響く。

どうぞ、と言う暇もなく誰かが急いで入ってきた。


「サマンサ! 起きたのね!!」


リリアはベッドまで駆け寄ってきて、私を思いっきり抱きしめた。


「ちょっと強いわ」


私が笑うと、リリアは少し力を緩める。


「サマンサまでいなくなったらと思ったら、この数日気が気でなくて……」


彼女のその言葉、そしてその悲しそうな顔を見て、私はダリルがどうなったのかがわかってしまった。


「じゃあやっぱり……彼は、助からなかったのね……」


「……」


無言の肯定を返されたが、私はまだダリルが死んだことについての実感がわかなかった。

今だってまだ、この部屋のドアを開けて、ダリルが「心配したよ」と言いながら私を抱きしめてくるような、そんな気がするのに。


「……光魔法とて、死を超えることはできない……そんなこと、輪廻転生の概念からしたら当たり前のことなのに……悔しいと思ってしまうのは彼だからよね」


リリアは自分の手を握りしめている。

自分のふがいなさを嘆いているようだ。


光魔法はあくまでけがや病気を直すことができるのみ。

一度死んでしまった人をよみがえらせる魔法ではない。


「でも、まだダリルの死はふせられているの。国中の著名な光魔法使いの方々が呼び集められて、ダリルの体の腐敗を止めている状況で……国王はなんとかして、ダリルを生き返らせる方法を探しているみたいなのよ」


きっと彼女もその著名な魔法使いと一緒に頑張っているのだろう。

目の下の隈がそれを物語っている。


「……リリア、あまり無茶しちゃだめよ」


「サマンサに言われたくないわ」


そこでいったん会話が途切れた。

部屋に置いてある古時計の音がやけに大きく聞こえる。

私はまだ聞きたいことがあったのを思い出した。


「クリスはあの後、どうなったのかしら?」


「……今、クリス……それにシェルマン公爵家一族は皆、王宮の地下牢に入れられているわ……国家反逆罪としてね」


「……そう」


それから、リリアは事の経緯を話してくれた。


クリスの家……シェルマン公爵家では、長いこと反逆の期を狙っていたそうだ。

公爵家当主かつ宰相であったクリスの父親は、クリスが幼いころから、「ダリルを殺すことがクリスの使命だ」と言い聞かせてきていたらしい。


この三日の間に、公爵家には王宮の官吏による立ち入り調査が入り、反逆の計画について詳しく記された書類、使用人らによる証言、そしてクリスの自白により、あっという間に公爵家の悪行は暴かれたのだ。


当然公爵の位は剥奪され、その領地も国王のもとへ戻った。

しかし、一部領地はリズ令嬢の家に謝罪の意味も込めて譲渡されたそうだ。


シェルマン公爵は、このまま地下牢での生活を続けていくこととなったが、クリスは辺境の地へ飛ばされ、小間使いとして働いていくらしい。


「公爵家の執事が、公爵が長年クリスに対して洗脳のように、『王子を殺せ』と言っていたということを証言したんですって。だから、彼は少し罪が軽くなったそうよ」


「なるほどね……」


私はクリスのことを一生許すことは出来ないと思う。

でも確かに……人生をやり直すチャンスを与える余地はあってもいいのかもしれない、となぜか感じた。


「あとレナルドとエリクは昨日、騎士団や官吏の人達と一緒にまた迷いの森へ出かけて行ったわ、もうこんな悲劇が二度と起こらないようにね」


「あの木を封じに行ったのね」


古代の魔物を呼び出すことができる、あの明かりのついた木。

今まで迷いの森のどこから魔物がわいているのか特定ができていなかったが、今回の事件でついに場所が判明した。

あの木さえ封じてしまえば、迷いの森も安全な場所になり、また魔物により人生が狂わされることもなくなるはずだ。


「……これが物語の結末なのね」


「結末って?」


「ううん、なんでもないわ……ただの独り言」


「そう」


そんな話をしていると、部屋の外からバタバタと足音が近づいてきた。


「リリア様! すみません、交代のお時間です」


王宮の上級官吏であろう見た目をした人が、申し訳なさそうな声で部屋の外から呼びかける。


「分かった、今行くわ……サマンサ、安静にしていてね」


リリアはそれだけ言い残し、急いで部屋の外へと出ていった。

私は、またカーテンが揺れるのを眺めることになる。


原作小説のダリルも……小説が終わった後、クリスに殺される運命だったのだろうか?

そんなのって……あんまりだ。


カーテンから差し込む光はだんだんと西日になってきて、それに合わせて私の気分も沈んでいくようだった。


そして日は沈み、星が瞬き始めた時、私はベッドを抜け出した。


……ダリルに会いにいこう、と。

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