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8,心から欲した言葉

ダリルは薄く目を開けると、かすれた声で私達に話しかける。

衝撃を受けて意識はもうろうとしているが、幸いなことに大きな傷はない。


「とりあえず治療はいい……レナルドにとどめをさしてくれ」


反対側に吹き飛ばされたレナルドは、ふわりと空中に浮きあがり、ストンと地面に着地しているところだった。

その動きは明らかに先ほどと異なってふらついており、酷く傷ついている様子がうかがえる。

そのせいか、今まで私達に襲い掛かってきていた影は、一つ残らず消えていた。


でも……レナルドが死んでいないことに、内心安堵している自分がいる。


リリアは治療をしようとしていた手を止め、レナルドの方を見ていた。


「仕方ありません、俺らでどうにかしましょう。俺はレナルドの攻撃を土魔法で防ぐ役割があるので……二人のどちらかにレナルドのそばまで行ってもらう必要がありますね」


エリクの言っていることはもっともだ。

土魔法によるガードがなければ、レナルドに近寄って攻撃する前にやられてしまうだろう。

そして、私とリリア、どちらがその役目を果たせるかと言えば……


「わ、私が……行くわ」


震える声でリリアが答えた。

私の魔力量ではレナルドを倒すことができるか危うい。

リリアが適任者であるのは間違いない。


「頼みました」


エリクがゆっくりとつぶやいた。

それを聞いたリリアは、レナルドの方へ駆け出していく。


私はと言えば……何をすることもなく、その様子を見つめる。


どうしてこんな結末になってしまったのだろう。

レナルドとリリアが幸せになれる世界線など存在しないのだろうか?


リリアに届きそうになったレナルドの攻撃を、間一髪、エリクの土の壁がはじき返した。

彼女はレナルドの攻撃に目をくれることもなく、ただひたすらにレナルドの方へ、近づいていく。


私がレナルドとリリアをくっつけようとしなければ……

レナルドとリリアが想いあっていなければ……

もっと楽だったのかな。


走るリリアの目から涙があふれているのが見える。

その手には光で作られた大剣が握りしめられていた。


走って、走って、走って


その時間は一瞬なのだろうが、私には、そしてきっとリリアにも、それはとてつもなく長い時間に感じられた。


そして遂に、レナルドに刃先が届く距離までやってきたリリア。

先ほどのダリルとの戦闘で弱っているレナルドは、攻撃のスピードが明らかに落ちている。

そのためリリアが振り下ろした大剣は、何にも遮られることはなく、レナルドの胸へと吸い寄せられていった。


レナルド……

私の大好きな大好きな双子の兄にして、前世からの私の推し。

私はずっと彼の幸せを願ってきた。

叶うならば……レナルドとリリアの幸せをこの目で見届けたかった。


剣が突き刺される決定的な瞬間を直視できず、私はそっと目を瞑った。





「無理よ!」


大きな声に驚き、私は目を開ける。


「私があなたを……レナルドを殺すなんてできっこないわ! だって私、あなたのことを愛しているんだもの!」


レナルドの胸に突き付けていた大剣を握る手が、腕ごとだらりと下に垂れ下がる。

剣を地面に落としたリリアは、きつくレナルドを抱きしめた。


「みんな、ごめんなさい!」


無抵抗なリリアを、レナルドの体から出た黒い霧が包み込む。

もうこちらからはリリアの姿も、レナルドの姿さえも見えない。

おそらくリリアも古代の魔物に取り込まれてしまったのだろう。


……私は大切な推しを、兄を、親友を……失ってしまった!

何故、何故! 

こんなはずじゃなかったのに……


視界がぼやけ、次の瞬間には滝のような涙が零れ落ちてきた。


「……えっ」


横でエリクが驚きの声をあげた。

私は急いでエリクの視線の先を追う。


レナルドとリリアを包み込んでいた霧が徐々に晴れていき、私の涙も徐々に引いていく。

よどんだ空気も澄んでいき、そして見えたものは……


「……レナルド!!」


「……」


ゆっくりと目を開けたレナルドが、泣きじゃくるリリアの頬に手を伸ばしているのが見える。

彼は優しくリリアの涙をぬぐい取り、その手にはもう害意はなかった。

私達の方からはレナルドの目元は見えないけれど……きっと、光が戻っているのだろう。

だって、リリアの涙はうれし涙に変わっていたから。


「……奇跡って起きるのね」


「そうですね」


私がぽつんと呟いた言葉に、エリクが心ここにあらずといった様子で返事を返す。


「レナルドも、リリアも無事だったか……本当に良かった」


「ダリル!」


ダリルはまだ少しふらふらとしながら上半身を起こし、レナルドとリリアの様子を見ていた。


「動かない方がいいのでは?」


「ダリルは一回そこで寝ていて!」


私とエリクの圧に負けたダリルは、また渋々と横になる。

私は影との戦闘で魔力をかなり消耗してしまっていたものの、できるだけの力を使ってダリルの治療をする。


「……っ!」


少し私が息を詰まらせると、ダリルは途端に不安な表情になる。


「サマンサ、僕のことはいいから」


「ダリルの強がり」


あんな衝撃を受けて平気はずがない。

私は彼の言葉を無視して、治療を続行する。

しないよりはましだろう。


そうして、私は治療に集中し、エリクも起き上がろうとするダリルを全力で止めていると、後ろから声が聞こえてきた。


「危ない!!!」


リリアの声と同時に、私が顔をあげると、禍々しい黒い太陽のようなものがこちらに向かってくるのが見えた。


「離れて!」


そして私とエリクは風魔法によって、吹き飛ばされる。

直後に黒い太陽に向かってリリアの光魔法が飛んでくるも、あっけなく太陽に吸い込まれてしまった。


そしてそのまま……


黒い太陽は、彼の上に落下した。

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