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7,明かりのついた木

「サマンサ、サマンサ! 起きて、朝よ!」


遠くからリリアの声が聞こえてきたような気がした。


「うーん、あともうちょっと……」


「もうみんな起きているんだから、早く支度するわよ!」


容赦なく寝袋を奪い取られたことで、私の頭はようやく覚醒する。


「……リリア、ありがとう……おはよう」


「寝不足なのはわかるけれど……もうクリスが支度をはじめてくれているから、起きましょう」


「わかったわ」


最低限の身支度だけしてからテントを抜け出すと、焼かれたウインナーのいい匂いがしてきた。


「おはよう!」


クリスが元気よく挨拶をする。

彼はよく眠れたようで、リリアから聞いた通り皆の分の朝ごはんを準備してくれていた。


「おはよう、ありがとうね」


「いえいえ」


「おはようございます」


こんな時でも剣の練習は欠かさないのか、テントからは少し離れたところから、タオルで汗をぬぐいながらエリクがやってきた。


私と一緒に散歩をしていたはずなのに、こんなに早起きだなんて……睡眠時間、足りているのだろうか?


「おはよう」


「朝からお疲れ様!」


そんな言葉をリリアとクリスがかけるなか、私はどんな顔をしていいかわからなかった。

エリクはもう昨日のことなんて気にしていないのかもしれないけれど……


そんな私の気持ちを察したのか、エリクは気にするな、とでもいう風に軽く私にため息をついてみせた。

気まずくなるのは嫌だったので、そんな冗談めいたしぐさをしたエリクの様子に心底安心する。


「おはよう、エリク!」


「はい、おはようございます。どこかの王子と違って起きることができて何よりです」


あぁ、いつものエリクだ。

この場にいないダリルへの毒舌も完璧である。


そして横にいたクリスが朝ごはんの支度の手を止めて、フライパン二つ持ったかと思えば、


「ダリルー-!!! おいていくよ!」


とダリルの耳元でフライパン同士をカンカンと叩きつける。


「……!?」


慌てて飛び起きたダリルのことを笑ったこの時は、レナルドのことを忘れられる気がした。


◇◇◇


「なんだか空気が重くなってきたな」


このよどんだ空気は確実に古代の魔物のものだ。

だんだんと古代の魔物のもとへ……つまりレナルドのもとへ近づいている。

そんな確信が皆にはあった。


「多分こっちのほうじゃないかな」


クリスは道なき道をどんどん進んでいく。

何故古代の魔物の居場所がわかるのかはよくわからないけれど……実際近づいているのだから良しとしよう。


「……」


リリアは一時間ほど前から、めっきり話さなくなってしまった。

五人の中で魔力量の少ない私でもまだこの空気に耐えることができているのだから、リリアはそういった意味での体調不良ではないだろう。


……きっと、レナルドのことを考えているのだ。


「……そろそろ何が起きてもおかしくないですね。いつでも戦闘態勢になれるようにしておきましょう」


エリクの言葉を聞いて、皆の間に緊張が走る。

手元に魔力を集めていくと、いよいよレナルドと対峙する時が来てしまったことを実感した。


ふと顔をあげると、何やら薄暗い森の中で明かりがともっているのがみえる。

……もしかすると、小さいころにダリルと一緒に見た、あの光があった場所と同じところなのかもしれない。


あの時は一晩で着いた場所だったけれど……大人になると通れる道も限られるから、時間がかかったのだろう。


そんなくだらないことを考えていると、ふいに前方からツタのようなものが私たちに向かって襲い掛かってきた!


「サマンサ!」


リリアが咄嗟に私の腕を引っ張り、事なきをえた。


「……ごめん! 考え事をしてたわ」


「大丈夫よ、きっとこの先ね……」



古代の魔物が……この先に……!



ツタをよけながら先を目指すと、急に風が吹き荒れ、ごうごうと唸るような音が聞こえてきた。

風がやんだ瞬間に目を開けると……


「……」


目に光のない男の人が、私たちの方をぼうっと見つめていた。

中央にある、一つ明かりがつけられた大きな木の下に立っている彼には、何も表情は浮かんでいない。


彼の赤い目は不気味だったが、なぜかその瞳に吸い込まれそうだ。


間違いない。

場所からしても、彼の容姿からしても間違いなく……


「レナルド……」


自分を呼ぶ声に反応することはなく、ただひたすらに虚空を見つめている。

そして、目が怪しく光ったかと思えば、彼の影のようなものが私達の目の前に放たれた。


「ダリル!」


私の隣にいたダリルは、間一髪、影から繰り出された刃をよける。

私はためらうことなく火魔法を使って短剣を作り、そのまま影に突き刺した。

何とか影を消すことは出来たものの、一体倒している間にまたもう一体、更にもう一体といった具合で増えていき、きりがない。


「僕がひきつけている間に、その短剣で影を倒していって!」


ダリルが風魔法特有の素早い動きで影を翻弄している間に、私は確実に一体ずつ、影の息の根を止めていく。


そんな私達の様子を見ていたエリクとリリアも、同じような戦法で影を倒し始めている。


「今、皆に居場所を知らせるための空砲を組み立てるから!」


クリスは離れたところで、空砲をいじっている。

あれを打ち上げることができれば、一日ほどで応援隊が来るだろう。

まぁ、一日はもちそうにないが。


「ダリル! 横!!」


「……くっ!」


いつの間にか私たちの近くまで来ていたレナルドが、ダリルに向かって闇でできたような大きな鎌を振り下ろしていた。

突然のことにダリルはよけきれず、右腕が傷ついてしまっている。


「待って……すぐに治すから」


影に対処しながらダリルの腕へ光魔法を浴びせる。

ところが、私の魔力では古代の魔物の一撃を治療することは難しく、どれだけ頑張っても何とか止血するくらいにしか治らない。


その間にも、レナルドは私達を狙って今度は何本か斧を突き刺してきている。


「リリア! 治療をお願い!」


「任せて!」


自分の魔法の弱さが恨めしい。

助けたい人一人助けられない自分が。


幸い、エリクに魔物を任せたリリアが遠距離からダリルに治療を施した。


「リリア、ありがとう」


お礼を言いながらも、影を倒し、レナルドからの強烈な一撃を避け続けるダリル。

だんだんとリリアとエリクが私たちの方へ近づいて来たことで合流することに成功し、影の数も減っていき、いよいよダリルがレナルドに攻撃ができる間合いに入ってきた。


「レナルド!」


そう言って、鋭い風を手にまとわせてから、ぐんぐんと加速していきレナルドのすぐそばまで近寄る。

その間にも先ほどよりは数は少ないものの、絶え間なく影は私たちに襲い掛かるので、私とリリアで協力して倒す。

エリクは剣を振るって私達の手伝いをしつつ、ダリルに当たりそうな攻撃に対して土魔法で壁を作り、手助けをしている。


「レナルド! すまない!」


ダリルは悲しい声で風を放ったが、レナルドはそれをこともなげによけた。

そのままその風に黒い炎をのせて、ダリルの方へ風を押し返しているのが目の端に映る。


「あっ!」


レナルドの方を見ていたせいで、右肩に影からの攻撃をもろに受けてしまう。


「サマンサ!」


すぐにリリアが治療をしてくれたため痛いのは一瞬だったけれど……リリアの光魔法がなければ、出血多量で死んでいたかもしれない。


集中しなくては。

一番辛い役目をダリルが担ってくれているのだから。


私は無言で影を倒していく。

一体、二体、三体、四体、五体、六……


突然、耳をつんざくような轟音と、目を開けていられないほどの光が私を襲い、ぎゅっと目を瞑る。


次に聞こえたのは、ズザーっという人が吹き飛ばされ倒れる音。

おそるおそる目を開けてみると……


こちら側に吹き飛んできたダリルが伸びていた。

そして……レナルドも反対側へと放り出されていた。

面白いと感じて頂けたら、いいね・ブックマーク・評価等よろしくお願いします!

九月中には完結予定です

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