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4,迷いの森再び

「準備はできているかな?」


薄らとくまが目の下に残るダリルが、私達に呼びかける。

もうお昼だけれど、おそらくこの時間まで学園長や、ダリルの父と話し合いをしていたのだろう。


「大丈夫です」


エリクは、いつも通りの真面目な顔で答えた。


「僕も平気! 行くぞー!」


クリスも元気を取り戻して、笑顔でガッツポーズをしている。


「準備はできているわ」


リリアは眠そうな目を擦っていたものの、その瞳には何かを決意したかのような光があった。


私は……


「……行きましょう」


レナルドを倒す覚悟ができているか、と聞かれても、それに答えることはできないだろう。

それでも、はやくどうにかしなければいけないということは感じていた。


既に今日の朝から、学園では著しく魔力量の少ない生徒が体調不良を起こしていた。

私も少ない方なので、いつ具合が悪くなるか分からない。

それに心無しか、学園もどんよりとした雰囲気に包まれている。


だからこそ、古代の魔物を解き放った犯人探しよりも先に、古代の魔物を倒す……レナルドを倒さなくてはならない。


一晩でこの現実を受け入れるなんて、私には無理だった。


でも、それはみんなだって一緒だろう。

そんななかでも、取り繕って頑張っているのだ。


私だけいつまでも感傷にひたっている訳にはいかない!


「じゃあ、早速古代の魔物を探しに行こうか。場所に心当たりがある人はいるかな? 僕的には、流石に人の少ない場所に居そうな気がするな、とは思っているけれど」


それに対して、リリアが悲しそうな顔で答える。


「その……昨日、レナルドが窓から出ていってしまった時、東の方面に飛んで行ったように見えたわ」


「それなら、その情報をもとに東から探していくのは良さそうだな……」


ダリルが話している中、私は1人悩んでいた。


原作小説通りなら、レナルドは迷いの森にいるはずだ。

迷いの森といえば、人は少ないし、学園から見て東の方面にある。


でも……

これを伝えてしまったら、はやくレナルドの所にたどり着いてしまい……そして、はやく倒すことになってしまう。


本来それはいい事であるはずなのに、私の心はモヤモヤとしていた。


そんな時、クリスが何か思いついたように、「あっ!」と声を上げる。


「クリス、なにか思いついた?」


ダリルが声をかけると、クリスはニコッと頷いた。


「人がいない場所で、ここから東の方面と言えば、迷いの森じゃない? 僕、前に本で読んだことがあるんだけど、あそこは魔物スポットでもあるらしいし!」


流石、次期宰相。

可愛い見た目をしているのに、知識は人一倍だ。


「迷いの森……確かにありうるな。まずはそこから探しに行こう」


ダリルが馬に跨り、私達もそれに続く。

こうして5人で古代の魔物を倒しに、学園を後にした。


◇◇◇


「着きましたね」


1番近くの民家に馬を預けて少し歩くと、まもなく迷いの森の木々が見えてきた。


子供の頃来た時ほどでは無いけれど、やはりこの森から発せられる禍々しさには体が震える。


「大丈夫?」


私の様子に気づいたダリルが、そっと肩に手を載せる。

からかってこないあたり、彼も真剣なのだなと改めて感じることが出来た。


「えぇ、平気……はやく見つけて倒さないと」


「そうだね」


「……思っていたよりも、影響が出てきてしまっていたわね」


そう言った後、リリアが気持ちのおさまりがつかないのか、唇をかみしめていた。


私たちはここに来るまでにいくつか街を通過した。

そこでは学園以上に体調不良者が多く出ていて、どこの街もどんよりとした雰囲気に包まれていた。


寝たきりになってしまった母親の代わりに仕事を頑張っている子どもの姿には、私もやりきれない気持ちでいっぱいになった。


「急いで行こう!」


クリスは私達4人を手招きするように、迷いの森の中へと入っていく。

きっと街の状況をみたことで、焦っているのだろう。


ダリル、リリア、そしてエリクと顔を見合せ、私達もうっそうとした森へと足を踏み出した。


「……子供の頃に来た時よりも、通れる道が狭くなっているような気がするわ」


「あの頃より背が伸びたものね」


私の呟きにリリアが答える。


あの時は、1人で何とかしようとするダリルを待ち伏せしてここに来たんだっけ、と懐かしい気持ちが湧いてきた。


まさか、こんな結末になるなんて……あの頃は思ってもみなかった。


「それにしても、迷いの森はその名の通り、こみ入っていますね。何回も同じ道を通っているような気分です……それに葉が邪魔すぎます」


エリクは私達の中で1番体が大きいため、顔の周りにかかる葉を掻き分けながら進んでいた。


「でも、クリスは道をわかっていそうじゃない?」


私がそう言うと、先頭を歩いていたクリスが振り返る。


「勿論! 取りあえず、1泊できる開けたところに向かってるよ!」


「ありがとうね、クリス」


「ふふっ、はやくレナルドの所に行かないとだからね」


正直、原作小説を読んでいるからと言って、レナルドがいる所への道がわかる訳ではないので、クリスの方向感覚の良さには助かっていた。


もうすぐ夕暮れだ。


だから、1度迷いの森の中に拠点を置いてから捜索することになる。


「うーん、こっちの方かな?」


「俺に聞かないで下さい。さっきから葉っぱで何も見えやしないので」


「えー」


エリクとクリスが取り留めもないことを話しているのを聞いていたが、そこで迷いの森に入ってから口数の少なかったダリルが口を開く。


「ねぇクリス。どうして……


ところが、その言葉を聞き終わることはなかった。


前方からブーメランのような黒く鋭い霧が、皆の首元を掠める。


大量の魔物がやってきたようだ。

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