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2,真夜中の男子寮

その夜、私はなかなか眠ることができなかった。

勿論、昼間のレナルドの様子を考えていたからである。


もう日付も変わる時刻であるにも関わらず、私はベッドを抜け出した。

女子寮の談話室で温かいものでも飲もうと思ったのだ。


談話室につき、ふかふかとしたソファーで紅茶を一口飲む。

途端に暖かさが全身に広がり、昼間から思いつめていた気持ちが落ち着いていく。


やっぱり、レナルドの様子はおかしい。

幼いころから私には特に甘い兄だ。

それなのに私に対して「帰ってくれ」なんて言うはずがない。


もしかして……


「まさか……魔物にとりつかれていたり……?」


最悪の想像をした私は、急いでその場に紅茶のカップを置く。


「行かなきゃ……」


いままでずっとこのことを気にしてきたのに、なぜ昼間には思い浮かばなかったのだろう?

レナルドがラスボスにならないように……古代の魔物にとりつかれないように……今まで頑張ってきたのではないか!


談話室を抜け、女子寮の入り口までダッシュする。

なりふりかまってはいられない。

だって、レナルドが危ない可能性があるから。


そして女子寮を出て、男子寮の近くまでやってきたとき、前方に人影が見えた。

こんな真夜中に外でうろついているなんて……一体何を企んでいるのだろう?

もしや、レナルドに魔物をとりつかせようとしているのだろうか?


気づかれないようにそっと木の陰に隠れ、前方の人物の顔を見ようと目を凝らす。

最初は見えなかったけれど、丁度街頭の光に照らされた瞬間、その特徴的なピンクの髪を視認することができた。


「……リリア?」


「サ、サマンサ! どうしてここに!」


突然私に声をかけられたリリアは、地面から飛び上がるほど驚いていた。

まさか……犯人がリリアだったりは……流石にしないか。


「リリアはどうしてここにいるの?」


彼女の方に歩いて行きながらそう尋ねる。


「……えっと、レナルドの様子を見に行こうと思って……サマンサも無理だったなら、私なんて相手にしてもらえないかもしれないけれど……でも、心配で心配で寝ることもできなくて」


「なんだ……実は私も同じような感じでここに来たの」


「サマンサも?」


無言で頷くと、リリアは私の手を取った。


「それなら一緒に行きましょう。サマンサがいると心強いわ」


「私もリリアとなら安心して行けるわ」


今ここでリリアに、レナルドが魔物がとりつかれているかもしれないことを話そうかと思ったけれど……

だが、そのように考えた理由は「原作小説でそうだったから」としか言えない。

そんな根拠のないことを話したって、リリアの心労を増やすだけだ、と思い直した。


深夜の男子寮は暗く静かで、どこか不気味な雰囲気があった。

昼間と同じように中央の階段を三階まで登り、一直線にレナルドの部屋を目指す。


そして三階までたどり着いた時。

相変らず静かな雰囲気だが、耳を澄ますと何やら話し声が聞こえてきた。


「誰かが話しているみたいだわ」


リリアもそれに気が付いたのか、そっと私に耳打ちする。

私たちは話し声の正体を探るつもりはなかったが、レナルドの部屋の方へ近づくにつれ、その話し声はだんだん大きく、そしてはっきりと聞こえてくるようになった。


「……俺は、釣り合わない」


「そうだ」


片方はレナルドの声。

もう片方は聞いたことのない、低く暗い声。


「……頑張ったところで、リリアと付き合うことは不可能なんだな」


「そういうことだ」


話し声を耳にした私たちは、驚きで息をのみ、レナルドの部屋のドアの前で凍り付く。


「ずっと……想い続けていた自分が馬鹿みたいだ」


「……」


沈黙が続いたあと、レナルドではない声がゆっくりと、洗脳するように、レナルドに言葉をかける。


「ダリルとリリアには勝てない……お前にはリリアは似合わないさ」


先に我に返ったのはリリアだった。

彼女は真夜中の男子寮であることなどお構いなしに、巨大な光の球を手元に作り出して、レナルドの部屋のドアに向かって投げつけた。


ものすごい衝撃と音がやってきて、壊されたドアの破片が足元に散らばる。

そこで私たちが見たものは、紫と黒が入り混じった煙の中に消える人影と……


魔物にとりつかれたレナルドが、開け放たれた部屋の窓から飛び出していく様子だった。

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