1,拒絶
「結局収穫は無しか……」
学園の中でも少し豪華な一室で、ダリルは優雅に足を組みながら呟いた。
「もう一度聞くけれど、エリクもクリスもバルコニーで不審な物や人は見かけていないのよね?」
「はい、残念ながら……」
「僕なんて気が付いたときにはエリクが魔物と戦い始めてたからなぁ……」
私たちは仮面舞踏会の翌日、再度集まって事件の真相を探していた。
学園外での出来事であるため、魔物が出現するのはまだわかる。
しかし、黒い霧の魔物がいるとなれば話は別だ。
黒い霧の魔物……そして魔物の中でも一番強いとされている古代の魔物は、誰かが召喚しなければ現れることはない。
つまり、男子生徒に黒い霧の魔物をけしかけた人物が仮面舞踏会の会場にいるわけである。
勿論男子生徒自身が召喚した可能性もあるが、昨日、そして今日と話を聞いたときの反応を見る限り、そのような感じはしないのだ。
でも、男子生徒が魔物にとりつかれたと考えられる時間帯にバルコニーに出ていたエリクとクリスも運悪く何も見かけておらず、事件は迷宮入りしそうな予感がしている。
「今回の件については王宮の方でも捜査を入れているらしい。今日いっぱいはその捜査官たちが会場を調べているから出入りはできないが、明日にでももう一度、僕らも行ってみた方がいいかもな」
ダリルの言葉に、私達も頷く。
「僕のお父さん、調査に結構関わっているから、うまく情報を聞いてくるよ」
クリスの家は代々宰相を務めてきた家系だ。
勿論、クリスの父親は現宰相であるため、このような事件も取りまとめているのだろう。
「それではここで解散いたしましょうか。俺はまだ朝の鍛錬の続きが残っているので」
「……エリク、レナルドは……その、大丈夫なのかしら?」
私がそう問いかけると、エリクは見るからに落ち込んでいた。
「僕では部屋に入れてもらえなかった、としか言うことは出来ませんね」
エリクはいつも朝早起きをして、次期騎士団長候補としてのトレーニングをしており、そして同じ時間帯にはレナルドも走り込みをしているらしい。
しかし今日、レナルドは走り込みに来なかった。
それを心配して、エリクはトレーニングを打ち切り、レナルドの部屋まで様子を見に行ったのだ。
ところが……レナルドには会話を拒絶されたという。
「実の妹のサマンサさんが行けば、何か話してくれるかもしれないですね」
皮肉交じりに話すエリクに対して、リリアがフォローを入れる。
「おかしいわね……確かに無口だけれど、会話を拒絶するような人ではないのに……エリク、そんなに落ち込まないで」
「落ち込んでなんかいませんよ。ただ少し気分がわるいだけです」
人はそれを落ち込んでいると言うのだが、エリクはどうもその気持ちを認めたくないらしい。
「とりあえず、私今から行ってみるわ」
「あぁ、そうしてくれ。僕らもレナルドのところへ行きたいけれど……逆効果になってしまったら困るからね」
ダリルが悲しそうにそう言うと、周りのみんなも唇をかみしめるのだった。
◇◇◇
男子寮の中央の階段を上り、三階の廊下を奥の方まで進んでいく。
本来、男子寮に女子が入ることは許されていないのだけれど、こっそり隠れつつレナルドの部屋を目指す。
エリクから聞いた通りのドアの前に立ち、そっとノックをする。
「……レナルド? レナルド」
「…………サマンサ?」
扉の向こうから、低く小さな声が聞こえてきた。
「どうしちゃったの? 体調が悪いの?」
「……気にしないでくれ」
やんわりとした拒絶に少しショックを受ける。
「気にしないなんてできないわ。だって私の兄だもの。何か思い悩んでいることがあるなら話してほしいわ」
「……」
何も話さないレナルドに対して、私はどんどん言葉を重ねていく。
「もしかして、やっぱり昨日のクリスとリリアのことを気にしているの? それとも、ダリルとリリアがお似合いだって話の方? そんなことないわ、確かにダリルとリリアは息ピッタリだけれど、それは幼馴染だからで
「……帰ってくれ」
……帰ってくれ?
帰る……?
「どうして……」
「もう来ないでくれ」
その拒絶は、今日聞いた中で一番大きな声だった。
そしてその言葉でショックを受けた私は、何も返すことができなかった。
しばらくぼうっとレナルドの部屋のドアを見つめた後、来た道をすごすごと戻った。
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