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9,お似合いの二人

慌ててバルコニーへ向かった私達四人は、外気の寒さに思わず身震いをした。


「……エリク! クリス!」


私が先ほど視認したよりも魔物の数は多かったようで、二人は四体の魔物を相手に戦っていた。

……まぁ、「二人は」というよりは「一人で」と言った方が正しいだろう。


「なんだこれは」


レナルドはバルコニーの様子に驚きの声をあげる。

なぜなら、クリスの水魔法で作られたであろう氷がありとあらゆる場所を凍らせていたからだ。

おかげでエリクは足場が悪い中、ずっと一人で耐えるはめになっていた。


クリスはあまり魔法のコントロールが上手くないのか、魔物を凍らせてエリクの補助をするはずが、逆に妨害をしている。

そしてパニックでそんなことには気が付いていないようだった。


「とりあえず、溶かしてもらえるかな?」


ダリルの冷静な一言に、急いで私たちは火魔法で氷を溶かす。

その間にもエリクは一人で四体を相手に剣をふるい続けている。

流石としか言いようのない身のこなしに一瞬目を奪われたが、レナルドが急いでエリクの方へ駆けつけたのをみて、私も慌ててクリスの方へ駆け寄った。


「クリス! ストップ!」


私が近くまで行き大きな声でそう叫ぶと、クリスは我に返ったように魔法をパタッとやめた。


「う、うわ……ごめん。必死になり過ぎてあんまり周りが見えてなかった……」


そう言ってあわあわする姿はとても可愛らしい。

何でもできてしまうクリスだけれど、案外苦手なこともあるのだな、と何故だか安心する。

どうやら彼はあまり実戦向きではないようだ。


「とりあえずクリスは一旦待ってて、私もエリクの方に参戦しに行くから」


「……わかった」


クリスがそう答え、私が振り向いたその時。

エリクの方から抜け出した魔物がこちらまで迫ってきていた。


「危ない!」


身の危険を感じる間もなく、ダリルとリリアが横から飛び出してきて、まずはダリルが魔物の動きを封じ、その後リリアがダリルの風魔法を借りつつ魔物を昇華させていった。


息ピッタリなコンビネーションはさすが原作小説カップルだ。


「サマンサ、行くよ!」


「行きましょう!」


そんなキラキラとした二人から手を差し出され、私も一緒にエリクとレナルドの方へ駆け出す。

エリクが丁度レナルドの火魔法を剣にまとわせ、魔物を一刀両断していたのだが、また別の魔物が背後から襲い掛かろうとしていた。


「リリア!」


「分かったわ!」


ダリルの掛け声に答えたリリアは、自身の光魔法を使い、一時的に魔物の動きを封じる。

その隙にダリルが間合いを詰め、いつの間にか手に握っていた風で作られた剣のようなものを振るい、魔物を昇華させていった。


この二人がいれば、普通の魔物など瞬殺なのである。


私も何もしないわけにはいかないので、ラスト一匹でなんだかもはや怯えているようにも見える魔物を仕留めるために、両手に火をともす。


「行くよ!」


せっかくだからエリクの剣に向けて魔法を放つと、皆も同じことを思ったのかダリル、リリア、レナルド、それに後ろでおとなしくしていたクリスも、一斉にエリクの剣に自身の魔法を纏わせた。


クリスは少し落ち着いたのか、先ほどのような敵に加勢しかねない魔法のコントロールではなく、ちゃんとエリクの剣に魔法を放つことができている。


「……皆さん、ありがとうございます!」


エリクがお礼を述べた後、魔物に向かってきれいなフォームで剣を振り下ろした。

オーバーキルに近い攻撃を受けた魔物は、その剣に触れた瞬間、独特の音を立てて昇華していく。


「……ふう。ようやくすべて魔物を倒し終わったみたいね」


額ににじむ汗をそっと手で拭い、涼しい風が吹くなか、空を見上げた。

久しぶりに危機的状況を味わったからだろうか?

まだ心臓がバクバクと音をたてている。


「エリク、すぐに来ることができなくてごめんなさい」


リリアがそう謝ると、エリクが首を振った。


「気にしないでください。もともと、あれくらいなら倒せると俺も思っていたので……王子もそれを見込んでこちらを俺に任せてくれたはずです。ただ、計算外だったのは……」


エリクがチラッとクリスの方を見ると、クリスは申し訳なさそうに肩をすくめた。


「本当にごめんなさい! 実は水魔法のコントロールはあまり上手くなくて……」


「まぁ、助けようとしてくれている気持ちは伝わったので十分です」


そのエリクの言葉に、クリスはパッと顔を明るくする。


「エリクー! 大好き!」


「ちょっと、そんなに近づかないでくれますか?」


そう言いながらもエリクは赤面していて、嬉しがっているであろうことがわかる。

そんな光景を、ダリルはほほえましく見つめていた。

こんな時は部下を束ねる王子らしく見えてなんだか悔しい。


「それにしてもさ、後ろから見ていたけど……ダリルとリリアって息ピッタリだね! なんだかお似合いだったよ!」


クリスがその言葉を放った瞬間、私は魔物が出るまで気にしていたことを思い出した。

そういえばクリスとリリアの仲を疑っていたのだった。

でも今の発言は……どういう意図なのだろう?


「まぁ、リリアは勿論、ここにいるみんなとはずっと一緒に戦ってきているからね。あれくらい余裕だよ」


ダリルがこともなげにクリスに返答したことで、私はまたしても心配しすぎだったことに気づき、強張っていた体から力を抜いた。


「さぁ、そろそろ帰りましょう。多分明日は臨時休校になるでしょうけれど、今回の騒動について私たちも呼び出されるのは間違いないわ」


「そうですね、早く寝た方がいいでしょう」


私たちは最低限の片づけをした後、会場を出て学園への帰路についた。

普段から口数の少ないレナルドがいつにも増して静かなことに、この時は誰も気が付いていなかった。

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