6,交差する想い
いくら令嬢がダリルの周りに群がっていようとも、ここであきらめるわけにはいかない!
だってダリルのことが好きなのだから!
私が頑張らないと、ダリルが本当の意味で私のことを好きでいてくれていることに対して、信じる気持ちなど持つことは出来ないから!
……それにここでひるんだら、さっきレナルドに言ったことが嘘になる。
私の推しカプは二人とも頑張っているのに、私が頑張らなくてどうするのだ!
ダリルの姿は群がっている令嬢たちで見えないけれど、私はその人だかりに向かって駆け出した。
一歩、二歩、三歩。
近づいていくたびに、より駆け足になる。
そしてそのスピードを保ったまま、令嬢の輪の中に参戦……しようとした。
「……っダリ……! あっ!」
声をかけようとしたその瞬間、輪の中にいる令嬢達の顔や肩にぶつかり、今日のための仮面が落ちて、輪の外へ転がって行ってしまった。
慌てて取りに行こうと追いかけると、男性にぶつかってしまった。
「す、すみません!」
「……本当にあなたって人は……そそっかしいったらありゃしないですね」
その口調と一言多い感じは紛れもなく……
「エリクだったのね、なんだ……よかった」
「なんですか、俺だったらぶつかっていいというみたいな口ぶりは……まぁいいです。それよりもこれを」
そう言いながらエリクが差し出したのは、さっき転がっていった私の仮面だった。
「ありがとう!」
私はその仮面を受け取り、もう一度ダリルの方を見る。
相変らずダリルの姿は、令嬢たちの黄色や紫色のドレスに囲まれて全く見ることができない。
「ダリルを誘いに行くつもりだったんですか?」
「……うん、まぁ、そうね」
「サマンサさんから誘いに行くなんて珍しいですね」
痛いところを突かれて、思わず唇を噛んでしまう。
「う、ええと」
「まぁいいです。ところで、ダリルとダンスをするのは後でにしたらいかがでしょう? まだまだ舞踏会の時間はあるんですから、隙を狙っていけばよいのでは?」
エリクの言うことも一理ある。
だがしかし、相手の最初のダンスのパートナーになることにはそれなりに意味があり、その人に対して恋愛感情を持っていると受け取られることもあるのだ。
でも、もうダリルの周りの人だかりは更に大きくなっていて、今から行っても間に合いそうにない。
「そうね……確かに。あとでにしようかしら」
気合を入れていただけに少し落ち込んでしまう。
そんな雰囲気が表にも出ていたのだろうか?
エリクは視線をさまよわせた後、深く息を吸った。
「俺でよければ、一緒に踊ってもいいですけど……どうですか?」
そう言いながらこちらに手を差し伸べる彼の顔は真っ赤になっている。
きっと私を慰めるために誘ってくれたのだろう。
慣れないことをして恥ずかしくなっているのに……
なんだかその姿が可愛くて、思わず笑ってしまった。
「なんですかその顔は。俺が誘うのはおかしいですか?」
「ううん、エリクって本当にいいやつねって思っていただけよ」
私はエリクの手を取りながら、そう答える。
しばらくすると、先ほどよりはゆったりとした定番のワルツの曲が演奏され始め、参加者たちはいっせいにダンスを踊り始めた。
エリクは騎士団長候補なこともあり体格がしっかりとしていて、私がダンスでどんなミスをしようと受け止めてくれそうだ。
……そういえば、彼が魔法を使って戦っているところは見たことがあるけれど、剣を使っているところはなんだかんだ見たことがないな……
学園の中では、そう簡単には剣を取り出すことはできないからだ。
いつか練習しているところを見に行ってみよう。
そんなことを考えていると、どこぞの令嬢と踊っているダリルの、私に対するジトッとした視線が目に入る。
なぜ自分のところに来てくれなかったのか、とでも言っていそうなその目に対して、あんたが人気すぎるんでしょうが! と目を見開いて返してやった。
しかしその後一転、ダリルは衝撃の表情で私よりも奥の方を二度見した。
一体私の後ろで何が起きているのかしら?
そう思って私も顔の向きを変えると、衝撃的な光景が飛び込んできて、思わず足がもつれる。
「おっとっと。きょろきょろしているのはあなたらしいですが、こんな時くらい集中したらどうですか?」
「……ごめんごめん」
軽く謝ったものの、私はまだ今しがたみた光景の意味を必死で考えていた。
私が見たのは、リリアとクリスが楽しそうに踊っている姿。
レナルドはその更に奥で、ドリンクを片手にぼうっと会場を眺めている。
リリアの付けている赤色のブローチは確かにレナルドの瞳の色でもある。
しかし、その色はどちらかというとクリスの髪の色に近いような気もする。
やはりクリスはリリアのことが好きだったのか……
それに、リリアの方はどうなのだろう。
何故あの色のブローチを選んだのだろう。
そんなこんなしているうちに、ワルツの演奏は終了した。
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