表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/46

3,ヒロイン登場

ようやく傷口が塞がったダリル王子の体を見て、ほっと息を吐きだす。

この物置小屋に隠れてから何時間が経っただろうか?

空の様子を見ることはできないけれど、もう暗くなっているに違いない。


原作のリリアは、頭と胸に大きな傷を負った王子を軽々と直していた。

やっぱり主人公は魔力の量が違うのだろう。

私でもなんとか治せてよかった。


この人があの小説の王子か……さすが見た目が整っているわね。

まぁ、レナルドの方が好みだけれど!

そんなことを考えながらダリル王子を見ていると、彼は瞼をけいれんさせた後に目を開けた。


「……き、君が助けてくれたのか。あんなに深い傷だったのに……ありがとう」


「いえいえ」


彼は起き上がると、自分の体を確認して驚いたようだった。

よし、この調子ならリリアが来なくても王子は平気だし、治療という行為によって初恋に落ちることもないだろう。

あとはここで1日ほど助けを待てば、じきに王室の方から助けがやってくる。


ミッションコンプリートだわ!


そう思ってにこっと笑うと、なぜか王子はぱっと私から顔をそむけた。

悪役令嬢である私の顔は怖かったのかもしれない。

だとしてもいきなり拒絶するなんて、命の恩人に失礼なんだから!


そんな文句を言おうと口を開きかけた時、今度は王子が一点を凝視して顔を真っ青にした。


「そんな顔してどうしたの?」


そう私が聞くと、王子は凝視していた方向を指さして言った。


「あの人は……治せないのか?」


それを聞いた途端嫌な予感がして、私はゆっくりとその方向へ振り返った。

そこには……今にも息が止まってしまいそうなレナルドがいた。


「……レナルド?……ねぇ、レナルド!!」


「あ、ちょっとそんなに大きい声出すとまずいから」


急に取り乱した私をみたダリル王子はそんなことを言って、なだめるように私の頭をそっとなでる。


「もう、もう! 魔力を使い切っちゃったの……どうしよう、レナルドが死んじゃったら私……私!」


私の言葉を聞いて、王子も唇をかみしめる。


私の魔力がもっとあれば……レナルドを助けられるのに。


原作通りなら王子の迎えが来るまであと一日。

レナルドはもつだろうか……?


そんなことを考えていると、なんだか物置小屋の外から足音が聞こえてきた。

私とダリル王子は顔を見合わせ、瞬時に警戒態勢に入る。

もし、王子を誘拐した人たちにつかまってしまったら、おそらく私とレナルドは殺されてしまうだろう。

息をひそめるものの、その足音はだんだんこちらへ近づいてくる。


「君はここに隠れていて」


王子は耳元でささやくと、私を物置小屋の隅に隠し、箒を握って扉の方へ近づいた。

それと同時に、物と物の隙間から扉が開くのが見える。


扉の外にいたのは……


少し汚れてしまっているが、はっきりとわかる。あれはピンク色の髪だ。

物置小屋の中を見つめる瞳は澄んだ青色。


原作小説のヒロインであり、私の推しの一人である……リリアだ。


「す、すみません。物置小屋から普段は聞かないような音がしたから、なんだろうって思って……すぐに出ていきますね!」


それを聞いた瞬間、私は隠れていた物置小屋の隅から飛び出した。


「助けてください!!」


私の勢いに気圧されたのか、リリアはびくっと肩を震わせて、私の方を見る。


「た、助ける……?」


「私の兄が死んじゃいそうなの! お願い、あなたならできるはずだから!」


「え、え……!?」


私はリリアの手を引っ張って、レナルドのもとへ連れていく。

ダリル王子は呆然と私たちを見つめていた。


「お願い、私の大切な大切な兄なの。もう、あなたしかいないから……助けて」


必死に頼み込む私の顔を見たリリアは、何か決意をしたのかぎゅっと眉間に力を入れた。

途端に、リリアの体から白い光が漏れだす。

これは魔法の発現だ。

ダリル王子も、そしてリリア自身も自分の様子に驚いていたが、彼女はすぐにレナルドに手をかざし始めた。


瞬く間に塞がっていく傷口。

数秒後にはレナルドの体にあるすべての傷が塞がっていた。


私たち三人がその光景に呆然としていると、レナルドがうめき声をあげながら身じろぎし始める。


「レナルド! 大丈夫?」


私が声をかけると、彼はゆっくりと目を開けた。


「……どこも痛くない」


その声を聞いて安心した私は、大きく息を吐きだしてその場に座り込む。

その様子を見たダリル王子も一緒にしゃがんで、私の肩をポンポンと叩いた。


「あのね、そこにいる女の子が助けてくれたの。すごいんだよ、一瞬でレナルドの傷全部治しちゃったんだから!」


勿論リリアを売り込むことも忘れない。


「そうなのか……」


レナルドはゆっくりと立ち上がり、まだ自分のしたことに呆然としているリリアの方へ向き直る。


「君のおかげだ。ありがとう」


「私の……おかげ」


「そうだ、君のおかげ。君がいてくれてよかった」


「……」


レナルドの放った言葉に少し顔を赤くするリリア。

もしかすると……レナルド×リリア……レナリリ作戦は大きな一歩を踏み出すことができたのかもしれない。

二人の様子にただひたすらにやにやするのを耐える私だった。

面白いと感じて頂けたら、いいね・ブックマーク・評価等よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ