4,準備期間
あの後私たちは迷いの森まで見に行ったが、特に変わった様子は無く、拍子抜けしてしまった。
ただの空耳だったのか。
原作小説では、もうそろそろレナルドが魔物にとりつかれてしまう時期だから、不安な気持ちになり、変な音が聞こえてしまったのかもしれない。
もうレナルドとリリアはお互いを想いあっているから、何も問題はないはずなのに……
そう思うと、レナルドについてきてもらい、そして心配をかけたことを申し訳なく感じてしまう。
それが顔に出ていたのだろうか?
レナルドは、
「気にする事はない」
と、肩を優しく叩いてくれた。
流石、私の双子の兄……そして私の推しカプの1人である。
更に帰り道では、偶然クリスに出会った。
丁度、用事の帰りだったらしい。
今までの経緯を話すと、彼は笑っていた。
「幻聴は狂気の始まりらしいよ……なんちゃって! そんな冗談はおいといて……多分仮面舞踏会の準備で疲れてるんだよ。少しはゆっくり休みなよ 」
先程の笑いから一転、クリスは真剣な顔になる。
「俺もそう思う。そして、クリスもな」
レナルドがそう言葉を付け足すと、目の下に少しクマが見えるクリスがへにゃっと笑った。
「今が今後の人生を左右する大切な時なんだ。だからもう少し頑張らなくちゃ」
そう言いながら、何やら色んな物がつめられてパンパンになっているリュックを背負い直す。
恐らく、宰相になる為の何か特別な任務をこなしているのだろう。
「クリスってすごいわね……ちゃんと将来のことまで考えていて」
「……褒められちゃった! 照れるなぁ」
そう言いながらクリスはバシバシと私の背中を叩いた。
レナルドも横でそんな私たちの様子を見ながら、
「なんだか、ダリルよりも仕事が出来そうだよな」
なんてクリスを褒めるものだから、
「だよね! 僕、ダリルの代わりに王様になっちゃおうかな」
と、ますます楽しそうにクリスが笑うのだった。
◇◇◇
準備を続けて1ヶ月ほど。
明日はようやく仮面舞踏会当日だ。
途中で会場の設備が変な音をあげたり、毎年読み上げなければいけない式辞が書かれた紙がどこかへいってしまったり……と、様々な事件があったものの、どうにかここまでくることができた。
それもこれも、六人で力を合わせて協力したおかげだ。
寮の部屋のベッドに潜り込んだはいいものの、明日にワクワクしてしまってなかなか寝付けず、私はここ最近の出来事を思い返していた。
「それにしても、キング・クイーン投票の紙を無くしちゃった時はあせったなぁ……」
仮面舞踏会では、全校生徒からの投票によってその年のキング・クイーンが一人ずつ選ばれることになっている。
選ばれた二人は、特別な冠と仮面をつけることとなり、式辞を述べたり、その日最初のダンスを皆の前で披露したり、大きなケーキのろうそくを消して入刀したりと、いろいろな役目をこなさなくてはならない。
その代わりとても注目されるこの舞踏会の花形なので、この学園に在籍する生徒ならば誰でもキングやクイーンになりたいと思ったことがあるだろう。
そんなキングとクイーンを決めるみんなからの投票用紙を、私はどこかへ置き忘れてしまったのだ。
学園長にまで泣きついて皆で捜索したものの、結局私の部屋の引き出しの中にあったというなんとも恥ずかしい結果を招くことになった。
「なんだか毎日平和だな……」
ここ最近の大きな事件と言えば先ほどの話と、ダリルによる不正投票くらいだ(ダリルは私へ一人で20票も入れた結果、その投票はすべて無効扱いとなり泣いていた)
キングはダリル、クイーンはリリア。
この二人なら、明日なにかやらかすこともないだろう。
「……本当にこのまま原作小説とはかけ離れた穏やかな日々を送ることができるのかしら?」
そんなことを考えても無駄なのかもしれない。
心配し過ぎもよくない。
それに、そろそろ眠くなってきたことだし……
ゆっくりと眠りに落ちる私は、この後起きることなど予想もしていなかった。
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