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3,双子の時間

「うーん、悩みどころよね……レナルドの黒髪と赤い目を生かすにはやっぱり黒を基調にしたタキシードだけれど……意外と深緑もありだったり……? うーん……」


今日は珍しく私とレナルドの双子二人だけでお出かけだ。

仮面舞踏会用の服と仮面を買いに来たのである。

いつもならリリアとダリルも誘うところだが、どうやらリリアはもう買い終わったそうなので、こうして二人で来ることになった。


小さいころから何かと理由をつけてリリアをレナルドに引き合わせていたから、レナルドと一対一で話すのはなんだか新鮮だ。


「自分のことではないのだから、そんなに悩まなくてもいいだろうに……もっと自分のことで時間を使ってくれ」 


「そういうわけにはいかないわ! 絶対レナルドを仮面舞踏会で一番のイケメンにしてみせるんだから! ……いや、普段からイケメンだけど、私たちの周りにはレナルドとは種類の違うイケメンがけっこういるからね」


「じゃあお願いしようかな」


今までならリリアとレナルドは一緒に服を選んでいただろう。

でも、今回のように当日のお楽しみというのもなかなか面白そうだ。


「任せて頂戴! リリアも当日、思わず見惚れてしまうような服と仮面を選ぶから!」


「リ、リリア!? なぜ今その名前を出すんだ! いや、うん……その……サマンサは、俺の気持ちを知っていたのか?」


「そんなの見ていたらわかるわよ、双子だもの」


「そ、そういうものか……」


「そういうもの! 私、レナルドとリリアのことはすごく応援してる! こういった服選びとかもいくらでも手伝っちゃうくらいに。……でも自分で頑張らないとだから……ね?」


「……まだ、リリアに気持ちを伝えることができるほど、自分に自信が持てないんだ」


「じゃあ、その自信を持つためのお手伝いならするよ。まずはうーん、似合いそうな服を片っ端から選ぶから、お店の人が来るまでそこで待ってて!」


「あ、あぁ」


いくらレナリリを推しているからと言えど、リリアの気持ちをレナルドに私が伝えるのはあまり良いとは思えない。

ならばせめて、その気持ちを伝えられるような自信をつけるお手伝いをしよう!


私は鼻息荒く、カタログを手に、お店の服を物色し始める。

まわりのお客さんとお店の人が私の勢いに押されているからだろうか?

そんな私の姿を、レナルドがお店の端で不安そうに見つめている。


そんなこんなで店中からレナルドに似合いそうな服をかき集め、着せ替え人形のようにかわるがわる色々な服をレナルドに着せ、軽く一時間は悩んだ後、なんとか一つに決めることができた。


そしてそれとセットの仮面を選び、私が一仕事したとホッと息を吐くと、なぜかレナルドが何か言いたげな目で私を見てくる。


「ど、どうかした?」


「いや、次はサマンサの番だろう」


「私は適当にその辺の流行りものの服を選んでおくから大丈夫よ?」


「そういうわけにはいかない。サマンサだってダリルによく見られたいだろう?」


レナルドが真剣な顔で見つめてくるものだから、思わず私は黙り込んでしまう。


ダリル……

私はダリルによく見られたい……かもしれない。

でもそれが何になるの?

ダリルは別に私のことを本当の意味で好きではないのに。


暗い表情の私をみて何か思うことがあったのか、レナルドも一緒に黙り込む。


そして沈黙の後、ゆっくりとレナルドが話し始めた。


「サマンサは昔から、まるでこの後何が起きるかを分かっているかのように動くことがあるよな。」


核心に触れる言葉に、内心ビクッとする。


「もしかすると、ダリルについても何か思うことがあるのかもしれない。」


そこで一旦間を置いたあと、彼は再び口を開く。


「でも、ダリルのことについては……そういったことを抜きにして、自分の気持ちに素直になってみたらどうだ?」


レナルドがこんなに言葉を続けるのを見るのは久しぶりだ。

きっとそれだけ私に伝えたいことだったのだろう。


「……」


「……」


本当はこんなことを言うつもりはなかったのに、自然と口が動き出す。


「……私、私、ダリルのことが好きになっていたみたい」


口にするとたちまち、その気持ちが現実味を帯びてくる。


私は、ダリルが、好き。


そんな私の様子を、レナルドはまるで保護者のように眺めていた。


もう好きになってしまったものはしょうがない。


しかし、そんなあきらめの気持ちと共に、なんだかワクワクとした気持ちも湧いてくる。


「……そうと決まれば、私も頑張って似合う服を見つけなきゃ!」


自分の気持ちを受け入れ、恋を自覚したことにより、少しでもダリルによく見られたいと思うようになったのだ。


モチベーションが上がった私は、お店の人からドレスを受け取っては、あーでもないこーでもないと鏡の中の自分と見比べる。


レナルドも一緒に手伝ってくれて、最終的には黒地に紫の装飾がふんだんにつけられたドレスと、金を基調とした仮面を選んだ。


明らかに、金髪で紫色の目をしたダリルを意識していることが伝わる格好であったが、モチベーションの高い私には何も不都合はない。


「……仮面舞踏会、楽しみだね」


「……あぁ」


2人で店を出て、この間ダリルやエリクと行った店の前を通り過ぎ、広場のベンチで馬車がやってくるのを待つ。

今この瞬間、私たちはこの世界で1番恋に期待を抱いている双子に違いない。

お互い、好きな人との幸せな恋愛を想像しながら、無言で座っていた。


ふとその時。

街の郊外の方面から何かが軋むような音が鳴ったような気がした。


何故聞こえたのかが分からないくらいの音で。


そして、その音が鳴った方角は……


「迷いの森の方からだわ」


「何の話だ?」


レナルドが私の方を見て尋ねる。

彼には聞こえていなかったのだろう。


「迷いの森の方から、何か変な音が聞こえた気がしたの……もしかしたら、魔物がなにか悪さをしているのかも」


「それはまずいな。一応様子を見に行ってみるか」


「えぇ」


先程までの幸せ一杯な雰囲気とうってかわり、私達は緊張を走らせながら、迷いの森の方へ足を進めた。


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