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8,マナー大会本番

あの後、リズ令嬢は修道院送りになった。

リズ令嬢のしでかしたことは、原作のサマンサよりも重いことであったが、当事者のエマ先生が減刑を願ったため修道院に送られるだけで済んだのだ。

この判断のおかげで私の心も幾分軽くなり、その後のマナー大会に向けての練習にもちゃんと向き合えるようになった。


そして今日は……


「さて、最後の出場者となりました、リリア・ウォーカー令嬢!」


大きなホールの舞台に、スポットライトを浴びてリリアが登場する。

出場順は抽選で決まったのだが、さすがは原作小説のヒロイン、大会のラストを飾ることとなった。


ちなみに、ダリルはその少し面倒くさそうな態度で減点されていたし、レナルドは緊張でカチコチになってしまったことで減点されていた。

クリスはところどころのしぐさの可愛さがこの大会では減点対象となり、エリクは楽器が苦手らしく青い顔で弾いていたことで減点された。


かくいう私も……


「……それにしても……サマンサのバイオリン、おもしろかったなぁ……」


小声で呟き思い出し笑いをしているダリルを肘で小突く。

そう、結局私は本番でもバイオリンをギコギコいわせてしまったのだ。

でもこれは仕方がない、事件が起きすぎたせいで十分な練習時間が取れなかった……

うん、そういう言い訳にしておこう。


いつもはダリルの行き過ぎた発言を止めてくれるレナルドは、すでに舞台の上のリリアに夢中だ。


リリアは一通りダンスやしぐさを披露し終わると、舞台の奥に設置されているピアノへと向かう。

そして彼女が最初の一音を奏でると、途端に会場は心地よい雰囲気に包まれた。

もともとピアノは上手だったけれど、ここ数週間でかなり上達したように思う。

レナルドは勿論、ダリルや私も、周りの生徒たちも、そして審査員まで思わず聞きほれているのがわかる。


あぁ私は、まだこの学園でみんなと過ごすことができるんだ。

マナー大会前に不安に思っていたことがようやく片付いた気がして、心が軽くなる。


これからは全力でレナルドがラスボスになるのを阻止しないと……

マナー大会が終われば、次のメインイベントは仮面舞踏会だ。

その仮面舞踏会が終わった後、レナルドは古代の魔物に取りつかれて学園は混乱に陥る。


よし! まだまだ頑張るぞ!


リリアの素晴らしい演奏は終わり、会場中で拍手の音が鳴り響いた。


◇◇◇


「今年のマナー大会、優勝者は……」


会場が静まり返る。

でも、きっと皆わかっているだろう。

今年の優勝者を。


「リリア・ウォーカー!」


「おめでとう!!」


私は隣にいたリリアに抱きつく。

リリアも涙目になって私を抱きしめ返してきてくれた。


そのあとも入賞者の発表が続く。

ダリルも入賞したようだ。


「おめでとうダリル」


「ありがとう、じゃあ入賞記念にデートしてくれる?」


「……早く舞台に上がって賞状もらってきたら?」


「もー、冷たいなぁ」


口をとがらせ文句を言いつつダリルは歩いて行った。

そしてリリアもレナルドに褒められたことで嬉しそうな顔で、ダリルに続き舞台の方へ向かっていく。


「それでは優勝者のリリア・ウォーカー令嬢、何か一言よろしくお願いします」


トロフィーを受け取り、晴れやかな表情をしたリリアにマイクが渡される。


「はい、まずは優勝できてとても嬉しいです。様々なことを教えてくださったエマ先生と一緒に練習に付き合ってくれた友人のサマンサをはじめとした、関わってくれた皆さんへの感謝をここで改めて伝えさせていただきます。本当にありがとうございます」


そこでいったん言葉を切ると、彼女は深々と頭を下げた。

ただ一緒に練習していただけの私にも感謝をしてくれるなんて……聖人すぎやしないか?

顔を上げたリリアは再び話し出す。


「優勝することで、少し自信が付きました! ……大好きな人に想いを伝えられるようにもっと頑張っていこうと思います!」


大胆にも舞台上で宣言するリリア。

会場はヒューと言った声で盛り上がる。

ちらりと横目でレナルドの様子を確認すると、彼は何とも言えないような表情をしていた。

もしかしたら自分かもしれない、いや違う人かもしれない……といったような期待と悲しみが入り混じった表情だ。


え!? 今のは明らかにレナルドに向けての言葉だったじゃん!

リリアの視線がレナルドに注がれているのには気づいていないの!?


わが兄ながらとても鈍感で残念だ。

これはもう少し時間がかかるかな?


でも……ハッピーエンドに近づきつつあるのは確かだ。

私はこれからもこの二人を見守っていこう。

そう改めて決意した一日だった。

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