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7,事件の真相

「それにしても、エマ先生の彼氏ってレイモンド先生だったなんて……」


帰りの馬車の中でリリアが思い出したように話し出す。


「私もまさかレイモンド先生だとは思わなかったわ……どこらへんが良いんだろう?」


「気持ちは分かるが、あまりレイモンド先生を下げすぎるなよ」


レナルドに苦笑されるも、私は割と本気で考えていた。

だって、私やダリルにあんなにきつく当たってくる先生だよ!?

あんな女性の理想形みたいなエマ先生とは釣り合わない、と思ってしまうのは無理ないはず。


「レイモンド先生はちと、生徒に私情を挟んでしまったようだのう……私から謝っておこう、うちの教員がすまないねえ」


私たちの話を横で聞いていた学園長が頭を下げる。


「そ、そんなやめてください! 学園長にはピンチの時に助けてもらった恩があるのですから」


「そもそもわしが君らに協力を頼んだんじゃから、助けに行くことは当たり前であろう」


今まで学園長と言えば入学式や体育祭などのイベントで長い話をしているイメージしかなかったが、今日の一件で彼が人格者であることを知ることができた。

今後はあのながーい話も聞くことにしよう……うん、多分ね。


「……ちなみにレイモンド先生の私情とはなんですか? 僕、なにもした覚えないんですけど」


ダリルが困惑気味に聞くと、学園長は話してもいいものかとひげをなでた後、とてもお茶目な笑みを浮かべる。


「まぁ話してもいいじゃろう! エマ先生がよく君らのことをレイモンド先生の前でほめておったのだ。それでレイモンド先生が拗ねてしまったというわけじゃな」


「「えー!!」」


思ったよりも子供っぽい私情を聞いたことで、私とダリルの不満の声が馬車内に響き渡った。


◇◇◇


「おかえりなさいー! エマ先生、レイモンド先生無事で何よりです!」


「野垂れ死んでなくてよかったです。先生方もご無事で安心しました」


学園に到着し私たちが馬車から降りると、エリクとクリスが門のところまで出迎えに来てくれていた。

二人は仲良さげなエマ先生とレイモンド先生をみて一瞬驚いたような顔をしたものの、一瞬で事情を呑み込んだようだ。

やはり将来の側近候補ということで頭の回転が速いのだろう。


そして、クリスがニコッと笑うその手には輝く水晶が握られている。


「水晶、見つけることができたのね! 一体どこで?」


「うーん、詳しい話は水晶をもとの位置に戻してから話そうか、僕らじゃ結界をいじるのは無理だから、学園長とレイモンド先生の帰りを待っていたんだ」


それを聞いたレイモンド先生は、不安そうにエマ先生の方を見る。

きっと、また仕事のせいでエマ先生を放っておいてしまう状況になることを心配しているようだ。


「エマ先生も結界の部屋までついてくるといい、それなら一緒に居られるじゃろ?」


そんな雰囲気を察知したのか、学園長がそんな提案をした。

私たちはその提案通りみんなで結界のある部屋へ向かうことにした。


向かっている途中で私はダリルの袖を引っ張り、一緒にレイモンド先生の方へ移動する。

私たちが近づいてくるのをみた彼は、ばつが悪い顔をした。


「先生」


「……なんだい?」


「私たちに私情を挟んで接していたというのは本当ですか?」


途端に彼は目を逸らし、隣を歩いているエマ先生はやれやれと言った目でそんな彼を見つめている。


「……すまない、子供じみた真似をしてしまって」


「まぁ理由が分かったので、もうあんまり気にしていないですけれど!」


エマ先生の前でその話はしないでくれ、とでも言うように私たちのことを見てきたが、彼女は多分レイモンド先生のそんな言動をすでに知っているに違いない。

だってとっても嬉しそうな顔をしているから!


「僕もその気持ちはよくわかりますよ、好きな人から違う人の誉め言葉を聞くのはつらいですよね」


なぜかダリルがレイモンド先生の肩に手を置き、うんうんとうなずいている。

レイモンド先生と私達とのあいだの確執は、これにてなくなることとなった。


そんな話をしているうちに立ち入り禁止区域を越え、結界のある部屋に到着する。

レイモンド先生が受け取った結晶をもとの位置にはめなおし、その場で少し手を動かすと、その水晶からも光線が放たれ始める。

その後、私達にはよくわからない動作をいくつか続け、彼は満足したように頷いた。


「学園長、無事に結界は修復されました。これでもう学園内に……庭やグラウンドも含め、魔物が現れることはないでしょう」


「ありがとうレイモンド先生。今日は二人でのんびり過ごしてくれ……と言いたいところなんじゃが、ここでいったん事件の整理をしたくてのう、少し残ってもらえるかい?」


「はい、勿論です。ね、レイモンド」


「そうですね、エマを危険な目に合わせた犯人を捜さなければならない!」


「あ、その話なんですけど、実はもう水晶を盗んだ犯人も、エマ先生を誘拐した犯人も見つけちゃっているんですよ!」


レイモンド先生の言動にダリルの影がうっすら見え始めた時、クリスがはいはーい!、と手を挙げる。


「話してもいいですか、学園長?」


「あぁ、続けてくれ」


そこで、私たちが学園を飛び出してからのエリクとクリスの話を聞いた。

エリクとクリスは手分けをして、エリクは本館・グラウンド・裏庭・専科棟を、クリスは別館・寮を調査したらしい。

そこでクリスが色々嗅ぎまわった末に、女子寮のとある令嬢の部屋に水晶が隠されているのを見つけたのだ。


「え、ちょっと待って! クリスはどうやって女子寮まで入ったのかしら?」


リリアが思わずストップをかけると、クリスは面白そうに笑い、エリクは何かをこらえたような表情になった。


「……クリスは女装をしていたんですよ」


「似合ってたでしょ、エリク?」


「まぁ、似合って無くはなかったですね」


女装のクリスを想像した皆はそれぞれ笑い出した。


「何それ、私も見てみたかったわ」


「今度見せてあげるよ」


なんてワイワイクリスとリリアが盛り上がっているところに、ダリルが声をかける。


「さて、その話はあとにして続きを話してもらおうか」


「はーい、そうそれで、その水晶があった部屋の主は……リズ伯爵令嬢だったんだ。だから僕はエリクに連絡して、手分けしてリズ令嬢を探したんだ」


「俺が廊下を歩いているリズ令嬢に声をかけたら逃げ出したので、慌てて捕まえたら水晶のことを自白したんです。そして更にエマ先生の誘拐事件のことについても話し出したんです」


彼女は一般生徒なら知りえない情報……黒い霧の魔物がエマ先生に取りついていることや、エマ先生の誘拐先、そして犯行に至った動機などを話したことで、犯人であると確信したらしい。


まず、水晶を盗んだのはエマ先生の誘拐を容易にするため。

そして、エマ先生を誘拐したのは、自分がマナー大会で優勝するため。

マナー大会で優勝すれば自分がダリルの婚約者になれると考えていたそうだ。

しかし優勝するにはエマ先生から特別レッスンを受けている優勝候補のリリアが邪魔であるのは勿論、万が一私が優勝しようものならきっと一発で婚約が決まってしまうと危惧していたらしい。


だから、エマ先生を誘拐することで強力なライバルである私達二人を蹴落とそうとしたわけだ。


なんだか原作のサマンサと似通ったものを感じて、思わずこんなことを考えてしまう。

私が勝手にシナリオを変えなければ……リズ令嬢はこんなことにならなかったのではないか。

リズ令嬢はサマンサの代わりにこんな役回りになってしまったのではないか、と。


クリスとエリクの話を聞き終わり、いったん皆帰宅することになった。

その道中、私が落ち込んでいることに気が付いたダリルがそっと声をかけてくれる。


「何か、思い悩んでる?」


「……少しね」


「リズ令嬢のこと?」


ダリルって本当に鋭い。


「サマンサは多分……僕が何を言っても色々考えてしまうだろうから、そうだな……一人で抱えきれなくなったら僕を頼ってほしい」


「いててて! ちょっとなにするの!」


「ははっ! その顔の方がいいよ」


返事は要らない、とでもいうように私の頬を引っ張るダリルに心が締め付けられた。

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