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5,オリオンシティ

「大丈夫? 疲れてない?」


「うん、大丈夫。これでも小さいころから馬に乗る練習はしてきた方だから平気よ!」


オリオンシティまでは馬を走らせて三時間ほど。

丁度今は学園を出てきてから一時間半ほど経ったから、距離的には折り返し地点といったところだろうか。

学園長に連絡が来た時点では、まだエマ先生を乗せた馬はオリオンシティに向かう道の途中だったそうだから、きっと今オリオンシティへ到着したころであろう。

私たちが進む道もだんだんと畑から岩へと景色が変わっていっている。


「サマンサって意外な才能多いよね」


「意外って何よ! 私だって意識すれば礼儀とかマナーも大体できるし、勉強だってできる方ではあるし……」


「ごめんごめん落ち込まないで、さっきのは誉め言葉。普通の令嬢とは違うところがサマンサの魅力だから」


「またそんな調子のいいことを言って……」


私がダリルに対してため息をついていると、後ろでリリアと並んで馬を走らせていたレナルドが私たちに声をかけてきた。


「すまない、一回止まってもらってもいいか?」


その声に応じて馬を止めると、レナルドはすっと馬から降り、リリアのもとへと向かう。


「疲れているだろう? 一緒に乗ろう」


「い、いやこれくらい平気よ!」


「馬は近くの農家に預けて、あとで迎えに来ればいい」


「確かに馬の問題もそうだけど……一緒に乗ったらレナルドに負担がかかるわ」


「君には体力を残してもらって、誘拐犯と戦うときにその魔法で活躍してほしい」


「……」


普段は言葉数の少ないレナルドの必死の説得に根負けしたリリアは、近くにいた農家の人に自分の馬を預けると、おずおずとレナルドの横に立つ。


「……お願いしてもいいかしら?」


「喜んで」


きゃー―――!!


と私は内心叫び声をあげ、ガッツポーズをする。

馬に二人乗り……なんて素敵なシチュエーションなの!


「二人乗りなら先を走ってもらおうかな。気づかないうちに僕らが置いて行ってしまったらまずいし」


とダリルが言うと、レナルドも


「あぁ、そうしよう」


と言ってリリアを馬に乗せ、その後自身も跨った。

ダリル、ナイスアシスト! という顔で彼の方を見ると、彼も私の顔を見て自慢げな顔をしてきた。

なんだか腹が立つような立たないような……まぁ今回はその活躍に免じて許してあげよう。


そして私とダリルも再び馬にまたがり、オリオンシティへと続く道を急いだ。


◇◇◇


オリオンシティは学園のある首都からは近いが、そう大きな街ではない。

少し聞き込み調査をすればすぐに、エマ先生の居場所を特定することができた。

街の中心からは離れた小屋に物音を立てないように、私達四人は近づいていく。


「小屋の前にいるのは……四人だ」


レナルドが岩の陰からそっと顔を出し、私たちに伝える。


「分かった。そうしたら、僕とレナルドがまず敵の目の前にでよう。サマンサとリリアは木の陰から魔法で応戦してほしい。くれぐれも殺さないように注意してくれ」


全員が頷き、今まさに戦闘に入ろうとしたその時、私たちが隠れる岩の目の前を一人の男性が横切り、そのまま小屋へと突っ走っていった。


「エマ!!」


レイモンド先生だ。

小屋を守っていた四人は一斉にレイモンド先生に向かって剣を構える。


「何者だ!」

「とらえろ!!」


レイモンド先生は一応剣を握ってはいたものの、彼は数学教師だ。

上手く剣をふるうことができず、彼が腕に切り傷を負ったところで私たちは我に返った。


「先生!」


ダリルは風魔法を使い、一瞬で戦闘場所に到達し、相手の剣を自身の剣で受け止める。

その背中を追うようにレナルドも駆けつけ、先生を守るようにしてダリルと背中合わせになる。


横ではリリアが光魔法をレイモンド先生の腕まで飛ばし、傷の治療をしている。

ダリルとレナルドはとても強く、小屋を守っていた四人の男は圧倒されていた。


それならば私がやるべきことは一つ。

裏から小屋に回ってエマ先生を救出することだ。

小屋はとても小さいため、エマ先生以外の人が中にいるとは考えにくい。


私は慎重に岩の陰に隠れながら小屋の前までたどり着くことに成功し、ダリルとレナルドが戦っているのを横目に小屋のドアを開けた。


そこには……


「どうせ……私のことなんて……どうでもいいんだわ」


何かをごにょごにょと話すエマ先生の姿があった。

錯乱状態に陥っているのだろうか?

いつもと全く雰囲気がちがう。

それによく目を凝らしてみると……なんだか黒いオーラをまとっているように見える。

そのオーラはだんだんと鮮明になっていき、私の背中に嫌な汗が流れた。


「……」


無言でこちらを見つめたエマ先生の瞳は虚ろだ。

恐怖で動けない私に向かって、黒いツタが襲い掛かってくる。

私はどうすることもできずに目を閉じた。

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