表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/46

2,エマ先生のレッスン

「ワン、ツー、ターン……そうね、今日の立ち振る舞いのレッスンはこのくらいにしておきましょう」


「はぁ、はぁ……」


「……」


「これはまだ序の口よ」


笑いながらそんなことを言うエマ先生。

私とリリアは声も出せないまま、お互いに顔を見合わせた。

流石リリア、息は切らしていない。けれどその顔には疲れがにじみ出ている。


「つ、次はなんのレッスンをするんですか?」


「次は楽器演奏ね。あなた達はピアノとバイオリンどちらを選ぶつもり?」


「私はピアノです。バイオリンは何とか音を出せる程度で……」


実を言うと私もピアノはずっとやってきたけれど、バイオリンはほとんど触ったことがない。

でも、この音楽室にあるピアノは一台。

ピアノで被ってしまったら、きっと練習効率は落ちてしまうだろう。


「……私……実はバイオリンチャレンジしてみたかったの。だからバイオリンにするわ」


「本当? なんだか遠慮していない?」


「そんなことはないわ! リリアは気にせずピアノの練習をして頂戴」


「決まりでいい?」


エマ先生の言葉に私達は頷くと、リリアはピアノの方へ、私はバイオリンがしまってある棚の前へ進む。


適当にバイオリンのケースを一つ取り出し鍵を開けると、そこには素人の私が見てもわかるようなご立派なバイオリンが収められている。

ギリギリ持ち方くらいは知っていたので、恰好だけは一人前だ。

そして弓をそっと弦の上へと滑らせる。


ギー……ギコギコ…………


突然鳴り響いたその音に、ピアノの音を鳴らそうとしていたリリアが、そしてそのリリアの様子を見守っていたエマ先生が、それぞれこちらを振り向く。

三人の間に気まずい沈黙が流れ、私は唇をかみしめる。

最初に口を開いたのはリリアだった。


「だから、遠慮しなくていいって言ったのに……」


その言葉を聞いた私は、なんだか変なスイッチが入った。


「……できるわ! 今は出来なくても本番までには絶対にできるようになって見せるんだから!」


ずっとリリアの付き添いとして嫌々レッスンを受けていた私。

そんな私の突然の変わりように二人は驚いていた。

本番まではあと二週間。

どこまでできるかわからないけれど……なぜか今私は最高にやる気に満ち溢れている。


「エマ先生! 一から教えてくれませんか?」


改めて頭を下げた私に、彼女は勿論、と力強く答えてくれる。


「私も負けていられないわ! まずは基礎練習からね!!」


リリアも私に影響されたのか、いそいそと楽譜を取り出すと、指を動かすための練習を始める。


私もエマ先生に一礼をした後に特訓を開始した。


◇◇◇


「ごめんなさい、少し早いけれど今日は用事があるからここでお終いにしましょう」


「いえいえ、本当にありがとうございます。おかげで何とか音が出せるようになりました!」


「私もかなり指が動くようになってきました! 効率のいい練習方法を教えてもらったおかげです!」


「二人に喜んでもらえてうれしいわ」


エマ先生はニコニコ笑いながら帰り支度を始める。

リリアはその様子に首をかしげながら聞いた。


「先生、なんだかそわそわしていますか?」


「あら、わかっちゃうかしら?」


「え、デートですかー?」


冗談で言ったつもりだったが、先生はさらにニコッと笑った。


「実はそうなの……皆には内緒ね」


「はい……言いません! それにしても先生に彼氏がいるだなんて驚きです……その、お相手は?」


恋バナ好きの血が騒いでしまい、すこし踏み入ったことを聞いてみてしまう。


「私も気になります……」


リリアからも期待の眼差しを向けられて、先生は恥ずかしそうに目を逸らした。


「それはまだ内緒よ、いつか紹介できる時がくれば教えるわ」


「楽しみにしてます!」


私たちの言葉に照れた顔をするエマ先生は、とても可愛らしい。

きっとかっこよくて、性格もよくて、高収入な完璧彼氏がいるんだろうな……


「さぁさぁ帰りますよ。忘れ物はない? 音楽室の鍵、閉めちゃうわよ」


私たちは廊下へ出て、先生が教室を閉める様子を見ていた。


「じゃあ、今日はお疲れさまでした」


「「ありがとうございました」」


挨拶を済ませると、先生は弾むような足取りで廊下を歩いて行った。

それだけこの後の予定が楽しみなのだろう。


私はリリアと二人、のんびり日の差す廊下を歩く。


夕暮れ時で、まだ廊下の窓から裏庭の様子も見える時間帯。

久しぶりに早く家に帰ることができる……!

何をしようかな、読みかけのまま放置してあるロマンス小説を読むのもいいかもしれない。


「ねぇサマンサ。あそこにいるの、レナルドとダリルじゃないかしら……?」


青ざめたリリアが指さす先にはよく見知った姿があった。

二人は何やら裏庭のベンチに座って、真剣な表情で顔を突き合わせて話をしている。

そして……私はなぜ彼女が青ざめた顔をしたのかを理解する。


ベンチに座っている彼らからは見えないのかもしれない。

しかし、五階の廊下からははっきりと見える。

ダリルとレナルドの近くにかなりの数の魔物が迫ってきている様子が!

面白いと感じて頂けたら、いいね・ブックマーク・評価等よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ