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1,リリアの決意

「マナー大会開催のお知らせですって」


学園の地下で魔法実験の授業を受けた帰り道、いつもの六人でわいわい話していたところで、リリアが掲示板に貼ってある紙を指さした。


「あぁ、毎年ある大会だね。強制参加らしいから、今日のホームルームにでも先生から説明があると思う」


「ずいぶん他人事だね! 王子なら優勝しなくちゃいけないんじゃないのー?」


クリスがお茶らけてそう言うと、ダリルは肩をすくめた。


「魔法大会とかがあれば勝てたんだけどな……僕にはマナーは無理だ」


「いや、あきらめないでちゃんとやってくださいよ? あなたこの国の王子でしょう?」


「わかってるけどさ」


エリクによる突っ込みでみんながどっと笑う。

そんななか、私は一人考え込んでいた。

いや……違う。本当のことを言えば不安になってしまっていた。


「サマンサ、どうした?」


そんな私の様子に気が付いたレナルドが声をかけてくる。


「……え? ううん、何でもないよ」


「どうせあの王子と一緒で、マナー大会に嫌気がさしているんでしょう? あなたがおしとやかなところなんて想像ができませんからね」


「ちょっとエリクなんてこと言うの!? 今の発言はデロス侯爵家として見逃せないわよ!」


「勝手に家の名前を持ち出すな……」


レナルドがあきれ声で突っ込んだところで、また一笑い起きる。

みんなにからかいという名の励ましをもらったことで、不安がすこし収まったようだ。

何故そんなに不安に思っているのかというと、実はこのマナー大会のイベントの終了と共に、小説の中ではサマンサが修道院送りとなるからである。


ダリル王子に好意を抱いていたサマンサ。

元平民なのに、王子の心を射止めたリリアのことを心から憎く思っていた。

性格は残念なサマンサだったけれど、礼儀作法については人並み以上に力を入れていたため、審査員の買収もしつつマナー大会の決勝まで残ることに成功する。


その決勝での相手はまさかのリリア。

平民上がりだけれど、才能と努力でここまで勝ち上がってきたのだ。

そして、汚い手も存分に使ったのにサマンサは負けてしまう。


それまでリリアのことを認めていなかった学園のみんなも、リリアをちやほやし始めるのを見て、更に嫉妬に狂っていくサマンサ。

彼女はどこからか黒い霧をまとった魔物を呼び出し、自身に取りつかせる。

リリア、ダリル、クリス、エリクの四人で何とか魔物を倒し、マナー大会での不正と、学園内に魔物を招いたことの責任を問われてサマンサは修道院送りに。

そのことについて兄として謝罪に行ったレナルドが、リリアの寛大さに惚れてしまうという流れだ。


「そもそもなぜサマンサは黒い霧をまとった魔物なんて呼び出せたのかしら?」


小説の中ではどこからかもらってきた箱の中に入っていたとしか記載がなかった。

しかし学園内には結界があるため、よほどのことがない限り魔物が入れる隙はない。

この間の体育祭が例外なのだ。


「サマンサ何しているの? 次の授業始まっちゃうわよ! ほら」


リリアが心配して手を差し出してくれる。

私はその手を握り、小説のようなサマンサには絶対にならないことを心に誓ったのだった。


◇◇◇


「というわけで、私達の練習に付き合ってもらえませんか?」


「なんでもお手伝いするので、どうか!」


その日の放課後、私とリリアは音楽準備室まで行って、エマ先生に頭を下げていた。


「うーん、そんなに熱意あるお願いをされたのは学園に来てから初めてだわ。どうしようかしら……」


なぜこんな状況になっているのかを説明するには、すこし時間を遡る必要がある。

それは授業も終わり、クラスのホームルームが始まった時。

ダリルの予想通りマナー大会の開催が発表された。

正直この頃には、私はもうどうにでもなれの精神になっていて、不安は消え去っていた。


だって、今の私じゃリリアに勝てる気がしないし……そもそも、リリアのことを憎んですらいない。

それに私がダリルのことが好きだなんて……そんなことはないはず。

これについては微妙かもしれないけれど。


というわけで、私は適当に大会期間をやり過ごそうと考えていたのだ。

授業終了のチャイムが鳴り、私はいそいそと帰る支度を始める。

すると、リリアが真剣な顔で私に話しかけてきた。


「サマンサ、少し話があるんだけど聞いてくれるかしら?」


「勿論。何でも言ってちょうだい」


「ありがとう……私ね、マナー大会優勝を目指そうと思っているの」


「いいじゃない! リリアならきっと目指せるわ、私みたいにギリギリ及第点みたいなレベルじゃないんだから」


「そこまで自分のことを下げなくてもいいのに……」


「『そこまで』って……やっぱり私はマナーがなっていないって思っているでしょう?」


「サマンサには他にいいところがあるわ」


「……」


私が無言の抵抗をしたところで、リリアはプッと吹き出し私に軽く謝った。


「ごめんね、それで、相談があるんだけど……私……レナルドにふさわしい相手になるためにも絶対に優勝したいの。だからエマ先生に放課後、レッスンをつけてもらえないか頼みたい……でも一人でお願いに行くのは心細いから、サマンサもついて来てくれないかしら?」


『レナルドにふさわしい相手になりたい』

そんな理由で頑張るなんて、とても素敵だ。

自分の気持ちに気が付いたリリアは、日増しに洗練されていっているような気がする。

そのお手伝いができるなら……レナリリ推しの私としては、そして何よりもリリアの友人の一人として光栄なことだ!


それにエマ先生といえば、学生時代にマナー大会を三連覇としたという伝説をもつ先生だ。

そんな人に教えてもらえば、優勝への道もグッと近づくだろう。


「うん、今からお願いしに行ってみましょう!」


「ありがとう、サマンサ!」


こうして私たちは音楽準備室へ向かったのだった。


◇◇◇


その翌日。

エマ先生は、生徒への個別レッスンをしてもよいかわざわざ校長先生にまで確認を取りに行ってくれたらしい。

結果、許可が取れたらしく今日の放課後からマナー大会に向けてのレッスンをすることになった。

そしてなぜかリリアが、


「サマンサ、一緒に頑張ろうね!」


なんて言うものだから私もレッスンに参加することになった。

早く帰りたいのはやまやまだけど、リリアからのお願いだしそれに……

ダリルに見合う相手になりたい……だなんて。

こんな気持ちおかしいよね?

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