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3,体育祭➀

「「宣誓―!僕たち、私たちは……


初夏を感じさせる土の香り。

今日は体育祭だ。


ただ体育祭という一大イベントを楽しみにするだけなら良かったが……少し不安なことがある。


「とてもいい天気ね……体育祭にはぴったりかもしれないけれど、これじゃあ肌が焼けてしまうわ。サマンサ、ちゃんと日焼け止めは塗った?」


「日焼け止め……多分塗ったかな、多分」


「ちょっと多分って何よ! 開会式が終わったら塗ってあげるから私のところに来て頂戴」


「ありがとうリリア。なんだか今日は少しボケっとしていたみたい」


「……『今日は』ね」


意味ありげな言い方をされたけれど、日焼け止めを塗ってくれるとのことだったから許すことにした。


実は原作小説では、この平和そうな体育祭の日に事件が起こるのだ。

学園内は基本的に魔物がやってくることができないような仕組みになっているのだけれど、なぜか競技中に魔物が出現して大騒ぎになってしまう。


私たちは小さいころダリルに付き添って迷いの森に行ったために魔物には慣れているが、一般生徒はそうはいかない。

生まれてこの方一度も魔物なんて見たことがない生徒が多数を占めるため、体育祭は大騒ぎのなかで終わってしまう。

出来れば避けたい事件だから……もし魔物が出てくるようなら、皆に気づかれないうちに処理してしまいたい。

私も小さい時よりは魔法のコントロールもうまくなってきたので、ふつうの魔物なら一人でも倒せるはず!


とはいえ、事件が起こるのは原作だと体育祭も終盤に差し掛かったころ。

それまでは純粋に学園の一生徒としてこの行事を楽しむことにした。


リリアに日焼け止めも塗ってもらったしね!


◇◇◇


「続いては、借り物競争に入ります!」


アナウンスが聞こえると同時に、クラスから選ばれた数人がグラウンドに駆け込んできた。

私とリリアは日陰になっている席から、借り物競争に出場する人をじっと見つめる。

レナルドとダリルは出場しないけれど、クリスとエリクが出ると聞いていたからだ。


「うーん、遠くてあまり見えないわね」


もっと近づくことは出来るが、そうすると日向に行くことになってしまう。


「あ、あれじゃない?」


私はこちらに大きく手を振っているクリスを発見してリリアに伝えると、彼女は眉を下げて笑った。


「ほんとだわ……クリスってなんだか子犬みたいよね」


クリスの後ろでゆったりと歩いているエリクと比べると、さらに小動物感が増す。


「それでは第一レースを開始します」


ダリルはこの時間は実況を担当しているらしく、彼の声がグラウンドに響き渡った。

ピストルの音と共に第一レースを走る人が、お題の紙を取りに走っていく。


お題はずいぶんいろいろとあるようで、「髪飾り」や「眼鏡」など簡単に見つけられるものもあれば、「人が履いていた靴下」や「カーペット」など、なぜそんなお題にしたのかと疑問に思うものもあった。


まぁそんな変なお題も、笑いに昇華させることができているからいいのかもしれないけれど。

リリアと笑いながら借り物競争を見ていると、時間はあっという間に過ぎてしまった。


「さぁ、いよいよ最終レースに突入です!」


ダリルの実況のボルテージも最高潮に達したところで、レナルドが帰ってくる。


「お疲れ様! 見回りの係だったわよね?」


「あぁ」


リリアはレナルドの首にタオルをかけ、水筒を差し出す。

あぁ、やっぱり何度見てもあの二人は絵になる……

しばらく二人の様子を見守っていると、最終レースが始まった。


実は、この最終レースにクリスもエリクも出ているのだ。


「二人とも! クリスとエリクが出てるよ」


「何かお題になりそうなものを用意しておいた方がいいかしら?」


「そうだな」


私たちは荷物をあさったり、髪留めを外したりして、二人が取りに来やすいように準備をする。

まぁ別に私達から借りる必要はないけれど、きっと友達の方が声をかけやすいはず。


案の定、お題の紙を開いた二人はこちらへダッシュしてきた。

二人ほぼ同時にたどり着いたのだが、クリスの方が先に口を開いた。


「リリア! ちょっと僕について来てくれるかな?」


「ものじゃなくて私?」


「そうそう、リリアを借りるね!」


そうしてさっさとリリアを連れて走って行ってしまった。

残された私とエリク、そしてレナルドは嵐のように去っていったクリスに驚いて固まってしまう。

数秒時間が止まった後、エリクが言いにくそうに口を開いた。


「あ、えっと、サマンサさん。ついて来てくれませんか?」


「リリアに続いて私も借りられるのかしら?」


「そういうことです……ほらついて来てください。何度も言わせないでくださいよ?」


割と強引に拉致され、掴まれた手をグイグイ引っ張られながらなんとかゴールまでたどり着く。

順位は丁度真ん中だった。

勿論リリアを爆速で連れ去ったエリクは一位である。


私は最終レースが終わり、みんなが揃ったのを見て、今までと違う点があることに気が付く。


なぜだか、みんな物ではなく人を連れてきているのだ。


「さて、全員ゴールしたところでお題と持ってきた物を確認したいと思います!」


マイクを持ちながらダリルが近づいてくる。


「えーと、はい。一位通過のクリスさん、お題を発表してください」


ダリルからマイクを受け取ったクリスがいつもの明るい調子で話し始めた。


「はーい! 僕のお題は、『気になる人』です!」


……気になる人?

会場もざわざわし始める。

隣にいるリリアも突然のことに驚いている。


「みんな重くとらえすぎだって! 気になる人とかよくわからなかったから、仲のいい女性を連れてきました!」


その言葉に会場は少し落ち着きを取り戻す。

続いて二番着の人もお題を発表し、同じく「気になる人」であった。

しかし、私の心境は複雑だ。

原作小説ではあまり描かれてはいなかったけれど、そういえばクリスもエリクもリリアに想いを寄せていたのだった。

もしかすると、クリスは本気でリリアのことを気になっているのかもしれない……気を付けなければ。


そしてもう一つあることに気が付く。


「……エリク……ごめんね、私で」


「……走るのが遅かったことについてですか? 確かにリリアさんの方が足は速そうでしたね」


「うっ」


そういうことではないのだけれど……

多分エリクもリリアを連れていきたかったに違いない。


そんな会話をしていると、一位・二位の流れで何かを察したのか、気持ち悪いほど満面の笑みでダリルがやってきた。


「はい、では三位の人のお題発表に移りたいと思います」


そんなダリルから目を逸らして、エリクはマイクを受け取ると話し出した。


「お題は『気になる人』です。僕も一位の方と同じく、あくまで『仲の良い友達』をつれてきました」


かなり「仲の良い友達」を強調したのは、ダリルとリリア両方面に誤解を解くためであろう。

それでも目の前のダリルは怒っていそうな雰囲気を醸し出している。


「そうなんですね、へぇ、ふーん……それでは四位着の人のお題発表に行きましょう」


「後でダリルの機嫌を取ってくれるんでしょうね?」


「……」


「ちょっとエリク?」


私がそう口にした時。

私たちの後ろで、次の演目である魔法パフォーマンスの支度をしている生徒から悲鳴が上がった。


「な、なに!? いやー-!! 誰かー!!!」


驚いて後ろを振り返ると、叫んだ女の子を中心に皆が逃げ出そうとしていて、グラウンドは混沌を極めていた。

魔法パフォーマンスをするために魔法を少し使っていたからか、何人かの生徒はパニックで魔力が暴走している。


「まずいことになったわ」


やはり原作小説の通り、魔物が現れたのだ。

予定より早かったために対応が遅れてしまった!

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