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2,学園生活開始

「疲れたわね……」


週に一度の体育の授業。

学園生活が始まって知ったのは、意外と前世の学校と似ているということだ。

違うのはこの世界独特の科目があるだけ。

きっと原作小説を書いた人が日本人だからに違いない。


「さっきの魔法学の授業、やりすぎちゃったわ」


「そうね、リリアの本気の光魔法には魔法学の先生も驚いていたもの」


つい先ほど大きな光の柱で演習場に穴をあけたのは記憶に新しい。

流石のリリアも疲れてしまったのか、まじめな彼女にしては珍しく私の隣に来て体育の授業をさぼっている。


「できたらできた分だけほめてもらえるのが嬉しくてつい……」


「レナルドも感心していたわよ」


「なんでレナルドが出てくるのよ! それは関係ないでしょう?」


「そっか……ふーん」


すこしからかっていみたらこの反応の仕方。

だがしかし、この可愛らしい女の子は自分の恋心にまだ気が付いていないのだ。

私はずっと本人たちが自分で自分の恋心に気が付くのを待っていたけれど、おそらくこのまま放っておいたら一生が終わってしまう。

だって、五年たっても何も進んでいないのだから!


「ねぇ、あれ見て」


私が指をさした方向には、男子がリレーの練習をしているのを甲高い声で応援している女子集団がいる。

先ほどよりも一段と声が大きくなったかと思えば、


「レナルド様――――!!!」


と叫ぶ声が聞こえてくる。


「かっこいいわ……」


「お付き合いしている方いないって話よね」


「私告白しちゃおうかしら!」


「ちょっと! 抜け駆けはやめてよね」


というヒソヒソ声も、私たちが座っているところまでは聞こえてきた。


「レナルドって私の兄だけれど、とってもモテるのよね。だから、もうすぐ彼女とかできちゃうかもしれないわ」


「……」


無言でうつむいたリリアを見て、手ごたえを感じた私はさらに言葉を重ねていく。


「もし、それに関して何か思うところがあるのならよく考えてみることね」


私たちの座る木陰に涼しい風が吹き、リリアの髪がふわっと揺れた。

そんな彼女の瞳に戸惑いが浮かんでいるのが見て取れる。


そして何回か口を開いて、閉じてを繰り返した後、話し始めた。


「少し考えなくてはいけないみたいね。機会をくれてありがとう、サマンサ」


「えぇ」


「ところで、サマンサはどうなの?」


リリアは再び男子のリレーを応援している女子たちの方へ目を戻す。

彼女らは「ダリル様―!」とキャッキャ叫んでいる。


「もし、ダリルが他の人のものになってしまったら?」


「……」


「あなたも真剣に考えるべきよ、勿論、私も」


リリアの言うことはよくわかる。

でも、私は怖いのだ。


ダリルは本当に私のことが好きなのだろうか?

原作小説でいう恋愛フラグを私が奪ってしまったから、ダリルが『意図せず』私のことを好きになったのではないだろうか?


もし、本当に私がダリルのことを好きになったとしても……ダリルから私に向けられる愛は偽物だなんて……耐えられそうにないから。


私たちはしばし無言で過ごした後、体育教師が集合だと声をかけたタイミングで授業へと戻っていった。


◇◇◇


「おやおや、今日も上の空ですか? サマンサさん?」


体育の授業が終わり、先ほどリリアに言われたことを考えていたとき。

私は急に数学の教師から話しかけられた。


「す、すみません」


「今は数学の時間だ。集中して取り組むように」


彼はそういった後、何か思いついたかのようにニヤリと笑って私を見てきた。


「そんなにぼうっとしているということは、私の授業なんて余裕だということだろう。前へ出てきなさい」


言われるがままに椅子から立ち上がり前に出ると、先生は黒板に向かって数式を書き始めた。


「さて、この問題くらい余裕だろう?」


一応授業は聞いていたからわかる。

これは今日やったどんな問題よりも難しい。

書いてあることの意味は分かるものの、解き方なんてさっぱりわからなかった。


「わ、わからないです……」


「ふん、しょせんその程度なのだろう? そこらにいる王子と言い、お前と言い、ちやほやされている割には大した実力もないのだな。次からはもっと集中して授業を受けるように」


「はい」


顎で席に帰るように示される。

そのまま数学の授業は終わったけれど、私は何とも言えないもやもやとした気持ちになった。


確かに、ちょっと集中できていなかったけれど……


「あんなに意地悪しなくてもいいのにー――!!」


「サマンサ、お疲れ様。あの先生、あまりあなたのことが好きではなさそうね」


リリアが慰めてくれるも、この爆発した感情はなかなか収まらなかった。


「一応今日習った範囲はできるくらいにはちゃんとやっていたのよ! でも、あんな難しい問題は解けないわ!」


そんなことを言っていると、ダリルにレナルド、そしてクリスにエリクまで隣のクラスからやってきて、私の周りに集まりやいやい言い始める。


「災難だったな」


「僕、何もしていないのになぜか巻き込まれていて納得がいかないんだけど……」


「あなたの本性がばれているのではないですか? それなら納得です」


「そうだね!」


「ちょっとクリスもエリクもひどくない?」


みんなの楽しそうな声に私の気分は持ち直したものの、数学の教師に感じた違和感はぬぐい切れなかった。


もしかして……嫌われている?

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