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1,再会

『ご入学おめでとうございます』


入学式の会場には私達の入学を祝う立て札が置いてある。

そう、いよいよ小説の中の舞台である学園へ入学する年になったのだ。


私も、レナルドも、リリアも、そしてダリルもみんな16歳になり、晴れて学園への入学を果たした。


ここから原作通りにストーリーが進んでいってしまうと、私は悪役令嬢になり、最終的に修道院へ送られる。

そして双子の兄のレナルドは古代の魔物に乗っ取られラスボスになり、殺される運命にある。


しかし、私はそんな運命を変えるために努力をしてきた。

まず原作と違うのは、リリアがすでに貴族として生きているということ。

何なら私よりも行儀作法がしっかりしている……


そして、ダリルを瀕死の状態から救ったのが私、サマンサであるという点も原作と異なる。

おかげでダリルには、私との恋愛フラグが立ってしまっている。


最後に一番大事なのは、レナルドとリリアはお互いのことが気になっている点だ。

これは私の努力の結晶……ではなく、やはり彼らの相性が良かったのだろう。

でも、まだ二人とも「好き」という気持ちにはたどり着いていないから、そこはこれから見守っていくことにしよう。


「サマンサ、寝るな」


「さすがにここで寝たら、入学早々先生に目をつけられるわよ」


左からレナルドが、右からリリアがそれぞれ小声で私を起こしにかかってくる。

でも、眠いものは眠いのだ。

なぜなら、私はこの学園に来るのが……原作小説の舞台を見るのが……楽しみ過ぎて、あまりよく眠れなかったから。


「少しならばれないんじゃないかな……?」


「……」


「……そういう問題じゃないわ」


レナルドはあきれたように黙り込み、リリアもやれやれと首を振る。

入学式って寝るものじゃないの?

そんなことを考えていたら、入学式なんてあっという間に終わってしまったのだった。


◇◇◇


「僕の新入生代表挨拶聞いてくれた?」


「……?」


「サマンサは聞いてないわよ。だって彼女寝ていたんですもの!」


クラス分けの表を確認すると、私達四人は同じクラスだった。

入学式が終わり教室に入ると、私の机の周りにわらわらと他の三人が集まってきたのだ。


「サマンサがいるからって思ってせっかく完璧に仕上げたのに、聞いてくれていないなんて……」


片手を目元にもっていき、軽く泣き声のようなものをあげるダリルをみて、私はやれやれと首を振った。


「そんな拗ねたふりをしても無駄よ。……まぁ、聞いていなかったのは悪かったわ」


「じゃあ仲直りのハグをしようか」


「……」


「……」


「……」


私は無言でダリルを見つめる。

リリアとレナルドが二人で顔を見合わせてため息をついているのが視界の端に映る。

王子のそんな姿を初めて見たのであろう教室にいる同級生は、会話をやめてまじまじとこちらを見ている。


ダリルだけがニコニコとしているこの異常な状況の中、二人の男の子が教室へと入ってきた。


「ダリルー! ってどうしちゃったのこの雰囲気。入学式当日の教室とは思えないんだけど」


「どうせ何か場違いな行動でもしたんですよ。あの王子のことなので」


「初日からやらかしちゃったか……みんな、これが通常運転だからダリルのことは気にしないで!」


男の子のその可愛らしい声でサラッとひどいことを言うと、そのまま私たちのもとへ駆け寄ってきた。


「久しぶりだね。五、六年ぶりかな? 改めて、僕はクリス・シェルマンです。リリア、サマンサ、それにレナルドだよね、僕のこと覚えていてくれたらうれしいな」


ガーデンパーティーで会って以来、久しぶりに会う彼は、それはもう原作通りの見た目と雰囲気を身にまとっていた。

この可愛さで次期宰相候補なのだから……人は見た目で判断してはいけないとはよく言ったものだ。


「勿論覚えているわ、よろしくねクリス」


「よろしく頼む」


「私も覚えています。あの時はぶつかってしまいすみません」


リリアが少し恥ずかしそうにうつむくと、クリスは首を大きく振った。


「そんな昔のこと気にしないで。それよりもびっくりしたよ、ダリルが僕らのこと紹介したい、って言うから来たのに教室が静まり返っていたんだもん」


「……サマンサを前にすると我慢がきかないんだ。それはそうと来てくれてありがとう。僕からも紹介をしよう、こちら、クリス・シェルマン。次期宰相候補だ」


いきなりダリルの口から飛び出した甘い言葉になんだか心臓がバクバクしたが、これはきっと不意打ちだったからだろう。

決して、ダリルのことが好きになってしまったとかそういうことではない。


「そして、こちらがエリク・スピルカだ。彼はベテランの騎士たちに次々に勝っていて、もう既に三本の指に入るほどの実力の持ち主なんだ。多分、将来は騎士団長として僕のことを支えてくれるだろう」


「まぁあなたがずっとそのようにお調子者のままでいるつもりなら、支えることはできませんけどね。サマンサさん、レナルドさん、それにリリアさん、これからよろしくお願いします」


ダリルに褒められて顔を真っ赤にしてしまったエリクは、相変わらずのツンデレぶりである。

そんなエリクの様子に気が付いたのか、レナルドとリリアも頬を緩めた。


「よろしくお願いしますね」


「よろしく、エリク」


クリスは二人と握手した後に私の方へ向き直ると、驚いたような顔をした。


「……あなたがサマンサさんでしたか、例の間抜けな方ですよね?」


「えぇ、改めてあの時助けてくれてありがとう」


「い、いや、それは……人として当たり前のことをしただけなので」


また褒められて焦っている彼と私を見比べたダリルは、目を細めてエリクに詰め寄る。


「サマンサとどういう関係なのかな?」


私に対して恋愛フラグが立っているこの王子は、どうやら嫉妬しているようである。


そんなちっちゃいことで怒るなよ、と茶化したクリスの声をきっかけに私たちは笑い出したのだった。


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