10,鈍感な二人?
「着いたー!!」
今日は、リリアと以前から行ってみたいと話していた洋服屋さんに来た。
本当は二人きりで行くはずだったけれど、レナリリ作戦の遂行のためにもレナルドも誘ったのだ。
リリアもレナルドが来ることに対して喜んでいたし、レナルドも誘ったら嬉しそうに了承していたので、私のわがまま……ではないはず。
ただ、問題が一つあって……
「サマンサのためならこの店の服、全部買ってあげるからね」
「必要なものを自分で買うから遠慮しておきます」
「遠慮されちゃったな」
ダリルまでついてきたことだ。
彼は曲がりなりにも王族だから、きっと勉強や剣術魔術の演習で忙しいはずなのに、なぜこんなにフットワークが軽いのだろうか。
「……忙しいんじゃないの?」
「んーサマンサに会うためならなんでも頑張れちゃうんだよね僕」
「それは良かったわね」
相変らずこの調子だ。
とりあえず彼のことはいったんスルーして、洋服の前で悩んでいるリリアのもとへ向かう。
「それが気になっているの?」
「そう……なんだけど、ちょっと私には似合わないかなって思ってて」
リリアが見つめているのは、かなり露出が多めなワンピースだ。
12歳になって少し大人びてきたからと言って、少し幼さを感じさせるリリアの雰囲気には似合わないと考えてしまうのもうなずける。
しかし清楚で可愛い感じの女の子が着るそういった服にも需要があることを、彼女は理解していない。
「いいじゃない! リリアには大人っぽいのも似合うと思うわよ」
「……お世辞で言ってないわよね?」
「お世辞じゃないに決まっているじゃない」
それでもまだどうしようかと迷っているリリアのところへ、レナルドもやってきた。
「どうした?」
「レ、レナルドはどう思う? この服」
リリアからの問いかけに、彼は少し考えた後にこたえる。
「……似合っていると思う」
「さっき、リリアならこの店の服は何でも似合うだろうって言っていたから、当然だね」
ダリルがそんなことを言って、ニコニコしながらレナルドの肩をたたく。
途端にレナルドは顔を引きつらせる。
そして、リリアはこれを買うと言ってお会計の方へ行ってしまった。
「ダリル!」
「ごめんって……でもリリアも喜んでいたみたいだし良かったじゃないか」
「それとこれは別だ! リリアに引かれてしまったら……」
そんな二人の会話を聞いた私は、思わず会話に乱入する。
「レナルド、リリアに引かれたら嫌なの?」
「友達に引かれるのは嫌だろう」
「でも、ダリルとかなら別に引かれたって問題はないでしょう?」
「まぁ、そうだな」
「ちょっと僕の扱いひどくない?」
いったんダリルのことは放置して、私はさらに質問を続ける。
「じゃあ、やっぱりリリアだから嫌なの?」
「それは……」
そのままレナルドは黙り込んでしなった。
レナルドもリリアのことが気になっているとは思っていたけれど、ここまで自分の気持ちに鈍感だったなんて……!
きっと好きという感情に気づいていないのだ。
しかしその感情にはぜひとも自分で気が付いてもらいたい。
実を言うと、リリアも自分の気持ちに気が付いていないようなのだ。
傍から見れば、二人は両想いなのに……
リリアもレナルドも、自分の気持ちに鈍感すぎやしないか!
「なるほどね……」
心の中の叫びはそのまま心の中にしまいつつ、頭の中を整理する。
もしかして、もう私にできることはないのでは?
「買ってきたよ、サマンサは何か買わないの?」
お会計から戻ってきたリリアは、まだ顔が赤い。
「うーん、もう少し考えたいんだけれど……そうだ!」
お互いの気持ちを自覚するためには、何かしらのきっかけが必要だ。
そして、何かしらのきっかけを起こすには一緒に居る時間を増やすことが大切だろう。
だから……
「私もう少しこのお店に居たいから、その間にリリアとレナルドでその辺を回ってきたらどう? ダリルは洋服を選ぶのを手伝ってくれるかしら?」
必殺二人きり作戦!
「わ、私はその辺の洋服を見ているから大丈夫よ。気にしないで」
「お、俺も待つから平気だ」
途端に挙動不審になる二人を見て、ダリルも何か思うところがあったのか、
「いいじゃん、僕もサマンサと二人きりになりたいし、二人で行ってきなよ」
「……そういうことなら……レナルド、一緒にどこか見に行く?」
「あぁ、行こうか」
流石王子。
人の気持ちを把握して、動かすことについては、彼が私の知る中で一番上手だ。
そのために持ち出した理由は……あまり触れないでおくけれども。
リリアとレナルドは少しぎくしゃくとした雰囲気のままお店を出て行った。
けれど、きっと仲良くやるだろう。
なんて言ったって両片思いなのは明らかだから。
「ありがとうねダリル」
「いえいえ、あの二人は見ていてもどかしいからね。それに、サマンサはレナルドとリリアをくっつけたいんだろう?」
「えぇ……その、ダリルはリリアに興味があったりとかはしないの?」
私たちは今12歳。
原作では16歳のリリアが学園に入学するところから物語が始まる。
そして、入学式から一年もしないうちにダリルとリリアは両想いになるのだったはず。
だから今世でダリルがリリアのことを好き……となると、レナリリ作戦の実行において障壁になってしまうと思うのが本音だ。
まぁ、ダリルがリリアのことを好きだからといってそれを止める権利なんてないけれど。
ダリルは唇を少しかんだ後、大きなため息をついた。
「どうしたらそういう思考回路になるわけ? 僕はもうずっとサマンサに一途だけど?」
「そっか、そうだよね」
リリアから、恋愛フラグであるダリルへの治療というイベントを奪っただけでこんなことになってしまうとは思わなかった。
いつか私から目覚めてくれることを祈るばかりだ。
だって……今のまま、ダリルが物語の強制力によって私のことを好きだと思ってしまうなんて……彼が可哀そうだから。
「……そろそろ本気で囲わないとな」
「何か言った?」
「何も言ってないよ。それより、サマンサは僕に感謝してるよね?」
「うん、リリアとレナルドを送り出してくれたことについては感謝しているわ」
私がそう答えると、ダリルはニヤッと笑う。
「じゃあさ、一つお願いを聞いてよ」
「……お願いによるわ」
この王子のことだ。
きっととんでもないお願いをしてくるに違いない、例えば……婚約しようだとか。
私が身構えているのをみて、彼は思いっきり噴き出す。
「僕が何をすると思っているのさ、えっと……僕が服を選んで買うから、その服を着てほしいな。これが僕からのお願い」
「……?」
「拍子抜けした? もっとすごいお願いにしておく?」
「な、なに言ってるの馬鹿! でもダリルのお願いって、私がすごい得をしているように聞こえるけど大丈夫?」
費用もダリルもちなら、ただの私へのプレゼントになっている気がするのだけれど……
「いいんだ、ほらこの服とか! あまりこういった雰囲気の服を着ているの見たことないけど着てみてほしいな」
と言って指をさしたのは、黒髪赤目の私には到底似合わなさそうなフリフリのスカート。
でも、私がひそかに着てみたいと思っていた服。
……あぁ、本当にダリルには敵わないな。
いつかちゃんとした恋に落ちてほしいと思う。
その後レナルドとリリアに合流した私は、彼らの手首にお揃いのブレスレットが付いていることに気が付いて、一人静かにもだえた。
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