1,この世界は……
新連載始めました。
一日一回更新予定です、よろしくお願いします!
この世界に生を受けてから六年と少したった私は、窓の外の庭園を眺めながら、とある物語のことを考えていた。
それは私が「前世」で読んでいた物語だ。
平民だが光魔法の才能をもった女の子、リリアが、王子や次期宰相・騎士団長候補と一緒に学園でおこるさまざまな事件を解決し、そして恋愛をしていくストーリー。
その中で悪役令嬢として主人公たちに立ちはだかるのが私、サマンサであり、ラスボスとして構えているのがなんと私の双子の兄、レナルドである。
ラスボスである兄は物語の後半でリリアに惚れてしまうのだが、時すでに遅し、リリアは王子と付き合っていた。
そこで嫉妬の気持ちを持ってしまったレナルドは、どこからともなく現れた古代の魔物に体を乗っ取られて、町や学園の活気や魔力を奪ってしまうのだ。
主人公たちはレナルドを倒すことになり、レナルドはリリアに何も気持ちを伝えられずに倒されてしまう。
「レナルドを倒したことでハッピーエンドに終わる……彼はリリアに何も気持ちを伝えられないままに……なんて後味の悪いストーリーなのかしら!!」
物心がついた時から前世の記憶を持っていた私は、ずっと心に誓っていた。
「なんとしてでも、前世の推しカプ『レナルド×リリア』、『レナリリ』をくっつけてみせるわ!」
そのために、まずはリリアと王子の出会いのシーンをつぶしに行くとしましょう。
◇◇◇
「ねぇレナルド。来週の水曜日って暇かしら?」
「暇だけれど……どうしたんだい?」
私の双子の兄は、かなり無口で表情も動かない。
でもそれは私が嫌われているからではなく、元来そういう性格だからである。
「その日に、フィナシャの町にある雑貨屋さんに行ってみたいんだけど……ダメ?」
「あぁ、いいよ」
どうしてそこに行きたいのか、なぜ自分も誘われたのか、何も聞かないのに一緒に行ってくれる……そんな兄はやっぱり優しい。
実は一週間後、王子のダリルが誘拐され、フィナシャのとある空き家へ閉じ込められてしまう。
彼はそこから命からがら脱出することに成功したものの、かなり深い傷を負って物置小屋の隅に隠れていた。
原作でそこに現れたのがリリアだ。
彼女は深い傷を負った王子を見て、助けたいと強く願った結果光魔法を発現し、王子の傷をいやすことに成功する。
私たちと同い年……六歳だったダリル王子とリリアは、学園で再会してしばらく過ごした後、物語の中盤になってようやく、その時の人だとお互いに気づくのだ。
そして気づいたことによりさらに二人の距離が縮まって、そのままお付き合いをスタートする流れになる。
「つまりリリアが王子を救ったという事実を作らなければいいわけで……王子のことは私がどうにかすれば大丈夫だよね……? それに、この出会いイベントでレナルドとリリアも出会えるかもしれないし、これは行くしかない……」
「……?」
レナルドに変な顔をされたので、そそくさと自分の部屋へ戻る。
この世界には火・水・風・土・光・闇の六種類の魔法があり、原作ではサマンサの属性は火だった。
光魔法は誰かを助けたいと強く思う気持ちがないと、たとえその才能があったとしても発現しない。
しかし今世のサマンサは……つまり私は、物心ついた時にはすでに光魔法を発現していた。
多分これはレナルドをラスボスの運命から救いたいと思っているからだろう。
「で、これからやらなくちゃいけないことは……」
机の引き出しからノートを一冊取り出し、白紙のページを開いた。
まずは一週間後の出会いシーンの阻止。
私の光魔法はリリアには全然及ばないけれど……まぁどうにかなるはず!
リリアの光魔法は、どこか違う機会で発現することを願っておこう。
そして、学園に入ったらレナルドとリリアをくっつけるために頑張ればいい。
物語序盤のリリアは独りぼっちでさみしくしていたから、そこにレナルドを向かわせることができれば二人は恋に落ちてしまうはず。
何なら来週、リリアに会える可能性だってある。
もし会えたらレナリリを定期的に遊ぶような、幼馴染みたいな関係にさせることができるかもしれない!
原作では悪役令嬢の立ち位置であった私だけれど、勿論リリアに嫉妬するなんてことはしないから、原作のように魔物に体を乗っ取られることはないはず。
そもそも、原作のサマンサは王子に恋をしていたから、平民の出であるリリアに激しく嫉妬して黒い霧の魔物に乗っ取られてしまったけれど、私は全くダリル王子には興味がない。
それに、もし親友ポジションでレナルドとリリアの恋を見守ることができたら……絶対楽しい!
そこまで考えてよだれが出そうになっている自分に気が付き、慌てて平静を取り戻す。
空では二羽の鳥が気持ちよさそうに飛んでいるのが見えた。
そんな平和な未来を……
「私たち双子の未来を創り出すんだ。魔物なんかに乗っ取られてたまるもんか!」
こうして私は「理想のハッピーエンド」に向けて動き出したのだった。
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