おふだの代わりを探すキョンシー
留学先の堺県立大学でハロウィンイベントの告知を目にした私こと王美竜は、台湾出身という個性を活かしてキョンシーの扮装で参加する事にしたんだ。
ハロウィンイベントの開催も来週に迫った事だし、そろそろ衣装とメイクを試さないといけないね。
「よし、寸法もピッタリ!」
棒ボタンを留め終えた私は鏡に向かい、満州服代わりに着た表演服の襟元を整えたの。
太極拳を習っていた高校時代の服を残してくれて、実家の家族には感謝だね。
「後はメイクを整えて…うん、良い感じ!」
白いドーランを頬に塗り、目元に濃い目のシャドーを入れれば、死人みたいに血の気が失せた青白い顔の出来上がりだよ。
「通販で頼んだ暖帽と霊符が待ち遠しいなぁ…よし、霊符だけでも!」
衣装合わせが楽しくなった私は、霊符代わりに額へ貼る物の物色を始めたんだ。
「居酒屋のレシートだと酒豪のキョンシーと思われそうだし、大学の出席票じゃ出席数不足で単位を落としたのを逆恨みして化けてきたみたいだしなぁ…」
色々と試した私が最後に選んだのは、初詣で引いた天満宮の御神籤だったの。
「うん!ぴらっとした紙質と細長い形が、霊符みたいだね!それに霊験灼然な御言葉も書いてあるから、意外に有りかも知れないよ!」
まさか御神籤がキョンシーの霊符代わりになるとはね。
大吉の御御籤を保存したのは、今から思えば正解だったよ。
そんな上機嫌な私に、スマホのアプリが更なる吉報を伝えてくれたの。
私の下宿の宅配ボックスに、ネット通販で買った商品が届いたんだよ。
「やった!これでキョンシーになりきれるよ!」
大喜びで階段を駆け下りた私は、宅配ボックスが並ぶ下宿の玄関へ急いだんだ。
他にも配送する荷物があったのか、宅配便のお兄さんはボックスの前に留まっていたの。
目線も合った訳だし、気さくに挨拶しないとね。
「どうも、御疲れ様です!」
「えっ?!」
ところがお兄さんは、私を見ると怪訝そうに眉を潜めたんだ。
「あの…どうしたんですか、それ?」
「えっ?どうって…うわあっ!」
配送車のミラーを見て、漸く自分の過ちに気付いたよ。
キョンシーの白塗りメイクのままで降りて来ちゃったんだね、私ったら。
「アハハ…ほら、もうじきハロウィンじゃないですか。それで準備してたんですよ。」
しどろもどろになりながら荷物を回収したけど、あれは気まずかったなぁ…
配送センターで私の事が、「額に御神籤を貼った白塗り女」って噂になってないと良いんだけど…