勇者、戦略を練る2
「結界魔法?」
やっと自分の世界から戻って来たカノルが、怪訝な面持ちで反応した。
「そんな魔法はない」
「え?」
今度は俺が、カノルの言葉を理解する番だった。
結界魔法はない?いや、でも…。
「図書室に結界魔法の本、あったぞ?」
「…は?」
図書室で色々と本を漁っていた時、表紙に結界魔法と書かれた本を俺は見つけていた。
「ユヴァト、すぐ部下たちにその本を探させるんだ」
「了解です」
「見つかり次第習得訓練にかかれ」
カノルの指示で、ユヴァトと呼ばれた魔法兵の隊長さんが部屋を出ていった。
…そう言えば俺、ターナに急に引っ張られて図書室を出たから、読んでた本そのままだった。
「ユヴァトさん!あの、本のタワーになってるところにあると思います!」
「わかりました!」
廊下を凄い勢いで走って行くユヴァトさんに、俺は部屋から顔だけを出して大声で叫ぶ。
ちゃんと聞こえたようで、ユヴァトさんは速度は落とさないまま手だけ振って答えてくれた。
「…シン殿、結界魔法について教えてくれ」
「あ、はい!」
ドルドーニュさんに言われて、まだ自分が作戦の説明中だったことを思い出す。
「結界魔法は、物理攻撃も魔法攻撃も防げる魔法です。簡単に言うと、超万能な盾ですね」
適当にペラペラ捲って読んだ内容を思い出しながら、大雑把に説明する。
「そんな魔法があるのか?」
「初耳だな…」
カノルやドルドーニュさん以外の兵士たちが、ざわざわと話し始める。
「それで魔法兵は自衛をするってことか?」
「そうです。でも魔法の資質とか魔力によって、結界の精度が変わってくるかも…」
「それは大丈夫だ。うちの魔法兵は、個々では他に劣らないほど優秀だ」
確かに俺を召喚した時も、漫画とかで見るよりも全然人が少なかった。逆に考えれば、少人数でも大丈夫な程一人一人の実力が高かったということになる。
「あの…戦略の実行はいつにしますか?」
ゲノン軍の状況を教えてくれた戦略兵のグノートさんが、カノルではなく俺に聞いてきた。
まるで、もう俺の案で決定しているかのような言い方だった。
「え、戦略はあれで決まりなのか?」
「魔法兵の結界魔法しだいだが、その方向で行こうと思う」
国王代理のカノルから承認され、正式に採用が決まった。
「それで?シン、実行はいつだ?」
「そうだな…」
魔法兵のことも考えると、練習時間、作戦実行までの時間は沢山あった方が良い。
「グノートさん、ゲノン国の兵士たちの野宿場所はわかりますか?」
「はい。ただの予想に過ぎないですけど…」
「いえ助かります。教えてください」
予想される場所を、グノートさんがペンで地図に書き込んでいく。すると俺の願い通り、アングスタビア手前にもバツ印が書かれた。
「…うん、決戦場所はここ、作戦の実行は夜だ」
「夜?」
「そう。多分こっちの勝率が1番高い方法、夜襲にしよう」
夜襲については皆知っていたようで、話がトントン拍子に進んでいく。卑怯だという声もあったが、今回勝つためにはこの方法が1番だと、賛成派で説得した。
「アングスタビア手前の野宿は、3日後の夜だな」
「魔法兵には頑張ってもらうとして、騎士たちの配置はどうする?」
「やっぱり慣れてる第一、第二で――…」
途中から俺の参加できる話がなくなり、部屋で一人手持ち無沙汰になってしまった。
…話わからないし、魔法兵の人たちの結界魔法の練習でも見に行くか。
まだ議論が繰り広げられる戦略室を後にし、俺は次の目的地に向かった。
「えーっと、練習するなら…訓練場?」
廊下を闇雲に歩きながら、ショッピングモールなどでよく見る案内板を探す。
しかしもちろん、ここは異世界の城なので、そんなものは存在しない。
「…はあ、俺また迷子か」
広い王城の中、勇者として召喚された俺は、自分にとっての強敵である方向音痴と戦っていた。
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