勇者、異世界を知る
あまりの広さと綺麗さに驚いていると、王女殿下が自信に満ちた顔で説明をしてくれた。
「ここはね、東のお庭!」
「へぇー」
東の庭ってことは、東西南北あるのか?敷地広っ!
「あの花、光ってる…?綺麗だな」
花壇の端で、金色の光を放って輝いているユリのような花を見つけた。
国王の見舞いにちょうど良いかと、俺は花に手を伸ばした。
「だめー!」
「おわっ」
すると、花に伸ばした手と反対の腕を、王女殿下が引っ張った。その勢いが結構強くて、俺は呆気なくも後ろに倒れてしまった。
「いてて…」
俺が倒れた拍子に、引っ張っていた王女殿下までも道連れに倒れてしまった。
「大丈――」
「勇者様!そのお花に触ってはいけません!」
「え?」
俺の心配をよそに、王女殿下は声を張り上げた。
「そのお花!触ったら灰になっちゃうわ!」
「は?」
え?灰?灰になるって言った?
王女殿下が、まだあわあわしながらも、この花について教えてくれた。
「そのお花はね、キラキラ光ってる間は、触ると灰になっちゃうの」
「何だよそれ…」
触ると灰になる花なんて、見たことも聞いたこともない。
改めて、自分が異世界にいることを深く理解した。
「あっ、見て」
王女殿下につられて、先程触れそうになった花を見ると、蝶が花の周りを飛んでいた。
すると、蝶が突然花に向かって急降下し始め、花に止まった。
「え、ちょっと、危な…」
そして、止まった瞬間、蝶が瞬く間に灰となって消えた。
「…」
「勇者様も、さっきターナが止めてなければ、灰になっちゃってたのよ!炎耐性が無ければ、ウォータードラゴンだって死んでしまうのよ!気を付けてよね!」
「ご、ごめんなさい…」
「はは、君、ゴールドレインボーに触ろうとしたのかい?」
「え?」
俺が再び王女殿下にお説教を受けていると、どこからか、男の人の声が聞こえた。
「ガロンヌ!」
王女殿下の視線の先、そこには、エプロンに土をつけて麦わら帽子をかぶっている、庭師のような男性がいた。
「ごきげんよう、レイターナ王女殿下。そちらは…?」
「ガロンヌ、このお方は勇者様よ」
「あ、どうも。シン・コグレです」
性を後に名乗るのも、だいぶ慣れてきたな。
「勇者様!失礼いたしました。東の庭の庭師をさせてもらっております、ガロンヌと申します」
俺の正体がわかると、すぐさま腰を90度に曲げて、自己紹介をしてくれた。
ガロンヌさんは平民のようで、名だけで性は無いそう。年は28歳で、とても優しそうな男性だった。
「ねぇガロンヌ、どうしてゴールドレインボーに触ると、みんな灰になってしまうの?」
王女殿下は、このことを先程からずっと疑問に思っていたみたいだった。
「おそらく、ゴールドレインボーがもっている炎属性の魔法のせいだと思います。詳しくはわかりませんが…」
「魔法…」
なるほどな、地球じゃ有り得ないけど、ここは魔法のある異世界なんだもんな。それならまあ、うん、うん…。
「ゴールドレインボー、フィネスの球根と混ざってて、そのまま気付かずに植えてしまったんですよね…」
「フィネス?」
「ゴールドレインボーにすごく似ている花なんです」
そう言ってガロンヌさんに案内された場所には、ゴールドレインボーと同じ、ユリに似た花が植えてあった。
「ゴールドレインボーと、光っているか光っていないかの違いしかないんです」
「それだけなのかよ…」
「あ!ガロンヌ、このお花は何?」
この王女殿下は好奇心旺盛のようで、興味の対象がすでに次に移っていた。
「その花はバラボですよ」
バラボと呼ばれた花は、地球で言うバラと似ていた。
確か、入院中の見舞いって、明るい色のバラとかが良いんだよな…?
「ガロンヌさん、この黄色とオレンジのバラボ、いくつか貰えますか?」
「別に大丈夫ですよ」
「王女殿下、国王陛下のお見舞いに、バラボを持って行きましょう」
「いいわね!」
よく分からない植物や、魔物のいる世界。俺は、常に身の危険が迫っていることを深く胸に刻んだ。
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