勇者、王女に連れていかれる
「…どちら様?」
俺が声を掛けると、少女は肩を跳ねさせて、扉の向こうへ隠れてしまった。
年齢は…來乃よりも少し下くらいかな?
「あなたこそ…誰?ここはお城よ」
おっと、確かに。見たことない服着た人が、図書室の本勝手に漁ってたら警戒するよな。
「俺は、ラーゲル神官長たちに召喚されて、異世界から来た勇者だよ」
怖がらせないように、ラーゲル神官長の名前を出して説明する。
「ベイジール国王陛下にも、さっき会ってきたところなんだ」
続いて、国王の名前も出してみる。ここまでくれば、流石に警戒心も解いてくれるだろう。
名前を出した途端、少女の体が反応した。そして、驚きの言葉を口にする。
「お父様!?」
…は?国王のこと、お父様って言った?てことは…
俺はビクビクしながら、でも顔は今までの中で1番笑顔で、少女に話しかける。
「君の名前、聞いてもいいかな?」
「あ、うん!レイターナ・トートだよ!」
やっぱりー!王女殿下ではないですか!ここで何やってるんですか!
顔はあくまでも冷静に、何事にも動じない風を装って。
「ありがとう。俺はシン・コグレだ」
「お父様に会ったってことは、あなた、本当に勇者様なのね!」
「そうだよ」
ま、まぶしい…!めっちゃ笑顔なんですけど。
ていうか、王女殿下ここにいていいの?国王が倒れた時、殿下たちは付いて行ったけど。そして、俺は置いていかれたけど。
「王女殿下、国王陛下のとこに行かないでいいの?」
「え?」
俺が問いかけると、王女殿下は首をコテンと横に傾げる。
そう言えば、国王が紹介の時に、1番下の王女はまだ小さいから、王の間には連れて来てないって言ってたな。
ならば、この王女殿下は単純に知らないのか。
「国王陛下、俺と話してる時に、吐血して倒れちゃったんだ」
その瞬間、王女殿下の顔が、みるみると青くなっていく。どうやら、彼女には知らせが届かなかったらしい。
「た、大変!行かなくちゃ!あなたも!」
「おわっ」
そして、俺の腕を掴むと、図書室を出て駆け足でどこかへ走り出した。
「お、お父様のお部屋に行かなくちゃ!」
王女殿下は俺の腕を掴んだまま、右、左と迷うことなく廊下を駆けて行く。
走り続けて数分後、ついに立ち止まってくれた。
どうしたのかと、王女殿下の顔を覗くと、目に涙をいっぱい溜めて、半泣きの状態だった。
「え、ど、どうした!?」
「…わかんない、お父様のお部屋、どこ…」
まじか。迷わず走ってたから、場所知ってるのかと思ってた。
「いつもはアンナが連れてってくれるの…」
そう言って、ついに涙がポロポロ零れ出した。
アンナとは、レイターナ王女殿下付きの侍女らしい。
「んー、じゃあ俺が連れてってあげるよ」
「え?」
俺は自信満々の顔で、王女殿下に笑ってみせる。根拠なんてないけど。
「勇者様…お父様のお部屋、どこにあるか知ってるの?」
「おう!」
嘘です!全く知りません!
でも、流石に泣き崩れてる王女殿下の前でそんなことは言えない。心做しか、來乃に似てるんだよな。
王女殿下の涙を拭うと、手を取って廊下を歩いた。
まず右、その次は左、右、左、左…。
歩き進めて数分。俺たちは、国王陛下の部屋ではなく、あるところに辿り着いた。
「おぉー…」
俺の当初の目的、花を持って見舞いに行く。
それが達成できそうな、色とりどりな花が咲いた広い綺麗な庭に出た。
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王女もだいぶ勝手!など、一言でも良いので、感想やいいねをくださると嬉しいです!