勇者、城を探検する
「完全に迷ってしまった…」
辺りを見回しても、そこにはボロい壁ばかり。
額縁や花瓶など、目印になる物が無いため、今自分がどこにいるかが、全くわからなかった。
「いっか、勝手に探検しよ」
そうなのです。この男、小暮信は、結構な大雑把マイペース野郎なのです。加えて方向音痴でもある。
「探検途中に、国王の部屋も見つけられたらいいな」
ベイジール陛下のあの様子は、何かの病気だろうな。見舞いに花とか持ってってやるか。
「…まあ、花が咲いてるところを見つけられたらだけど」
ということで、俺はこの城を探検することにした。
「えーと、まずは左に行って」
王の間から歩き続けてぶつかった角で、左に曲がる。何の根拠もないけど。
「次に、右に曲がって」
角を曲がった後に出てきた次の角で、今度は右に曲がる。何の根拠もないけどな。
「そして、もう1回右に曲がる」
根拠のないまま、直感で廊下を歩いていくこと約10分。
俺は、王の間よりは小さいが、それでも大きい扉の前に辿り着いた。
「で、ここに入る」
廊下を進むこと、この部屋に入ること、それらに根拠はない。俺は、部屋の大きな扉を引いた。
「あ、間違った。この扉押すのか」
引いても開かなかったため、押してみると、部屋の扉が開いた。
部屋の中を覗くと、大きな本棚の中に、様々な色の背表紙が見えた。ここは、図書室だった。
「図書室でか…」
適当に本棚に列ぶ本を見ながら、図書室の中をブラブラしていると、目を見張る物を見つけた。
題名は、書いてある文字が異世界語の文字のため、理解することが出来なかった。しかし、表紙に書いてある絵を見て、これが何の本なのかはすぐに分かった。
「魔法の本だ」
表紙をめくって中を見ると、たくさんの異世界語と魔法陣が書いてあった。
…うん、読めねぇ!
「まずは言語からだな」
そして、俺は本棚の中から、言語に関して書かれていそうな本を数冊取り出し、読み進めていった。
「なるほどな、基本の文字が46字で、発音もほとんど日本語と同じなんだな。だから言葉は聞き取れたのか」
よく考えれば、発音は少し違ったが、国王たちとも普通に会話は出来ていた。
「ていうか、そもそもここどこだ?日本…ではないのかな」
地理について書いてある本を開き、今自分がどこにいるかを確認する。
まじか…。ここ、地球じゃねぇ…!
この星には、大陸が2つしか存在しておらず、トート国は地図の右側に書かれている大陸の南西部にあった。
「あ、あった」
続いて、トート国の地理についての本をめくる。
ここ、王都の他にも、いくつかの地域があるようだった。周りが山に囲まれているからか、川や森が多い。
「これって…勇者?」
取り出した本の中に、勇者と書かれ、騎士が天に向かって剣を突きつけているイラストが表紙の本が混じっていた。
「知ってた方がいいよな」
先程覚えてばかりのおぼつかない異世界語で、本を読み進めていく。
「異世界から召喚されし、皆を救う者」
神官の力を多く使うため、勇者の存在は、国の力の証明になる。
…てことは、トート国って強いのか?
「えっ」
そして、俺は驚きの1文を見つけた。
「今までの勇者は、魔王を倒したことがない!?魔王ってそんなに強いの!?」
魔王を倒すために、異世界からチート能力を持った勇者が召喚されるんじゃないのか?
「…今更だけど、俺ってどんな能力持ってるんだ?」
…やっぱ剣とか?一応勇者だもんな。
「えーっと、剣の本は…」
カタン。
剣について書かれた本を探そうと立ち上がった時、扉の方から物音がした。
振り返って見てみると、銀の髪にターコイズブルーの瞳の少女が、扉から顔だけ出して、こっちを見ていた。
「…どちら様?」
数多い作品の中から、お読みいただきありがとうございました!
信勝手すぎ!など、一言でもいいので、感想やいいねをくれると嬉しいです!!お願いします!