勇者、城を発つ
「そうか、オル、今から残念なことを言うがいいか?」
「残念なこと?」
「お前はそれに参加出来ないぞ」
ちょっと!?やんわりって言ったよな!?
カノルがびしっと言ったことで、オルの幻覚の尻尾が一気に垂れ下がった。
「シンの視察、俺の代わりで同行するんだろ?」
「あ…」
ようやく思い出したそうで、オルの目が見開かれ、勢いよくこちらを向く。
「すまないシン。予定は空けられなかった」
「おい」
オルが同行しなかったら、俺視察行けないんだけど。
こんなことがあったが、結局はオルが折れてくれた。
同行が決まってからは、ぐちぐちと文句を言いながらも、移動手段である馬の乗り方を教えてくれた。
「そこ!力入れないと落ちるぞ!」
「手綱はしっかり握っとけ!振り落とされる!」
八つ当たりなのか、ビシバシとかなり厳しく。
乗馬の練習をすること5日、食の改善宣言をしてから1週間。遂に出立の日がやって来た。
「気を付けて行ってこいよ」
「兄さんたち、行って参ります」
今回行くのは西の地方。俺が前々から行きたいと言っていたので、海の地方に先に行かせてもらえることになった。
そして、今回の同行者はオル以外にも何人かいる。
護衛の騎士が4人、身の回りの世話をする執事、侍女が5人。オルがいるため護衛は少なめだが、執事や侍女も皆強い者らしい。
その他に、トート国第3王子のフェルフスも同行していた。
ベイジールさん譲りのカノルとオルと同じ銀髪ではなく、王妃のルフェス様譲りの赤髪とターコイズブルーの瞳をもった聡明そうな少年だった。
いや、そう見えるだけで本当は違うのかもしれない。
メルーチェさんやオルのことで、印象に縛られてはいけないと俺は教えられた。
「オル兄さん、そんなに落ち込まないでください」
一応乗馬の練習はしたが、勇者と王族であるため、俺たちは馬車に乗っていた。
その中で、1人ジメジメとした雰囲気を放つ人がいる。
「視察から帰ってから行けばいいじゃないでしょう?全部ではありませんが、少しぐらいは参加できますよ」
8も年下の弟に慰められるなんて…。やっぱりイメージ通りの賢い子かも。
フェルはその後もしばらくオルを慰めていたが、今は諦めて、外の景色に目を輝かせて見ていた。
「フェルは視察初めて?」
「はい!父上がまだ元気だった時はカノル兄さんが、カノル兄さんが国王代理になってからはオル兄さんが行ってましたので」
「なるほどね」
まだ13歳で、カノルたち兄とはだいぶ年が離れている。
すでに上に優秀な人がいるから、フェルが政治に参加することは難しいのだろう。
「フェルは将来、どんな風になりたいの?」
「将来、ですか?」
「うん、あと敬語はいらない。年も近いし」
先程までの輝いていた目から、一気に真剣な目に変わった。
「僕は魔法が得意なので、成人したら魔法兵士団に入隊しようと思ってます」
「フェルは小さい頃から魔法が上手いよな。羨ましい」
「お、復活した」
いつもの無愛想な顔で、オルはそう言っていた。
そっか、オルって魔法がからっきしで使えないんだっけ?
「でも僕は剣術が出来ません。オル兄さんが羨ましいです」
「そんなこと言ったら、カノル兄さんは何でも出来るだろう」
「カノル兄さんは無敵ですよ!剣ではオル兄さんに勝てませんけど。2人とも凄いです!」
「そ、そうか?」
フェルよ、それは無敵というのだろうか?スルーしちゃったけど、敬語直ってないし。
フェルは無意識なのか、その後も次々とカノルとオルを褒めていく。
オルは無愛想な仮面が外れて、ツンとしながらもデレデレとしていた。
「そこでシン師匠!」
「え?」
「俺にシン師匠の使う素晴らしい魔法を教えてください!この間の戦争の時の、結界魔法!」
今度は俺に標的が向き、手を握られて一気に俺を褒めたてる。
え、やばい落ちそう。何この子、ほんとに無意識でやってるの?オルがデレデレするのもわかるわ。
そして俺はフェルに上手に流され、道中で結界魔法を教えることになった。
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