勇者、召喚される
「勇者様の召喚に成功しました!」
…は?勇者?誰だそれ…
「なん、だここ…」
俺が次に目を開けた時、そこは家の玄関ではなく、大勢の人が集まった、見たことのない大広間だった。
服装も、だいぶ日本のものとは違う。俺の周りを囲むように、真っ白なローブを着た人が立っていた。
なんか、RPGとかでよく見る神官の格好に似てるな。
「ようこそおいで下さいました。勇者様」
すると、1人の神官(仮)が、俺に向かって話しかけてきた。
「えーと…?」
「失礼しました。トート国神官長のラーゲル・ハイフォンと申します」
「ど、どうも。俺は小暮信です。あ、シン・コグレです」
どうやらこの人たちは、俺の予想通り、神官で間違いなかった。
「勇者シン様。国王陛下とお会い頂きたいので、移動をお願いできますか?」
「あ、はい」
勇者とはどうやら俺のことで、これから移動する場所は、国王陛下や殿下たち王族が集まる、王の間というところらしい。
ラーゲル神官長に連れられて、大広間を出る。王の間に行くということは、ここが王城ということ。そして、俺はあることに気付く。
…ここ、王城という割にはボロくないか?
至る所に穴が空いていたり、壁に額を外した跡があったり、花瓶が1つもなかったり。
使用人の数も少なく、王の間に行くまで、それらしき人には1人も出会わなかった。
コンコン。
「ベイジール陛下、ラーゲルです。入ります」
ラーゲル神官長は、大きな部屋の前に来ると、扉をノックして開けた。
そこには、漫画などで王様が座っているような椅子に座った男性がいた。その他にも、隣の椅子には男性と年の近い女性、椅子の後ろに、5人の人が立っていた。
「その少年が勇者か」
「はい、勇者シン様です」
ラーゲル神官長の言葉と態度からして、この人が国王陛下なのだろう。
ていうか、本当にあんな椅子に座ってるんだな。
「勇者シン殿。よく来てくださいました。私がトート国の王、ベイジール・ヴァン・トートだ」
「ベイジール陛下、どうも。シン・コグレです」
「それと、こちらが妻のルファス。後ろにいるのが子供たちだ」
ベイジール陛下が順番に紹介してくれたため、1人1人に会釈をする。
全員の紹介が終わってから、ベイジール陛下が話を本題に移した。
「シン殿、この国はトート国と言います。他の国に比べると小さ…ごほっげほっ…かはっ」
話の途中で、ベイジール陛下が激しく咳込んだ。
ドサッ。
「ベイジール陛下!?」
俺が声を掛ける前に、ベイジール陛下は吐血して、その場に倒れてしまった。
「「「陛下/あなた/父上!」」」
すぐに神官長や殿下たちが、ベイジール陛下のところに駆け寄る。
「セノン王女殿下、医者を陛下のお部屋にお呼びしてください!殿下たちは、私と陛下を運びましょう!」
「ええ、わかったわ」
「「わかった」」
ラーゲル神官長が素早く指示を出し、セノン王女殿下と呼ばれた人は、王の間を駆け足で出て行った。
「カノル兄さん、いくよ。…いち、に、さんっ」
第2王子の掛け声で、神官長と第1王子がベイジール陛下を持ち上げる。
「兄さんたち、早く!」
下の王子たちが扉を開けてくれていて、3人は王の間を後にした。その後ろに、女王陛下と下の王子たちも続いた。
「え…」
俺、置いてかれたんだけど…?まあ、この場合は仕方ないけどさ。
「俺も行った方がいいよな」
すぐに皆が向かった方へ追いかける。だが、もう既に廊下に人の姿はなかった。
「どっち行ったんだろ」
とりあえず、王の間を左に出て進んでみる。しかし、誰もいなかった。
「やばいな…」
広い王城の中で、俺は迷子になってしまった。
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