勇者、魔法を見る
広い王城の中、勇者として召喚された俺は、自分にとっての強敵である方向音痴と戦っていた。
普段だったらそのまま散歩しても良いんだけど、今はちょっとな…。少しでもいいから、生で魔法を見てみたい!
「勇者様?」
しばらく適当に廊下を歩いていると、先程部屋を出ていった魔法兵隊長のユヴァトさんと角で会うことが出来た。
「ユヴァトさん!本見つかりました?」
「はい。もうすでに訓練に取り掛かってます」
無事に本は見つかったらしく、部下の人たちがもう練習を始めているらしい。中にはすでにコツを掴んでいる兵士さんもいるそうだ。
「あ、タワーになっていた本はこちらで片付けておきました」
「す、すみません…ありがとうございます」
申し訳ないことに、俺の散らかした本たちも片付けてくれていたようだった。
「ユヴァトさん、その…訓練の様子を見せてもらうことって出来ますか?」
「いいですよ」
「え」
驚くことに、ユヴァトさんは嫌な顔せず二つ返事で許可をくれた。
「いいんですか!?」
「勇者様に見ていただけるなんて、むしろ大歓迎ですよ。私もこれから向かうところですので、ご案内しますね」
そう言ってユヴァトさんが歩き出した方向は、先程俺が来た方向だった。
「勇者様、私のことはユヴァトと呼び捨てにしてもらって結構です。さんはいりません。それと、話し方も普段通りにしてください」
「じゃあ俺も、勇者様じゃなくてシンで良い。カノルやオルと同じように、ユヴァトも普通に接してくれ」
「わかった、シン。よろしくね」
ユヴァトと色々なことを話しながら、魔法兵のいる訓練場に向かった。
ユヴァトは、結界魔法の本が見つかったことを1度戦略室に戻ってカノルに報告し、自身も練習のために訓練場に行くところだったらしい。
ていうか、俺どんだけ迷ってたんだよ。
「シン、着いたよ」
「…まじか」
ここ、俺来たことあるわ。迷って何回もこの道通ってて、さっきからずっと見てた扉だ。
「きゃあ!」
ユヴァトが扉を開けてくれて中に入る。すると、開けるまでは聞こえなかった魔法兵たちの声が聞こえてきた。
「ティオー副隊長!もっと手加減してくださいよぉ!」
「時間が無いのだ。甘えてはならない」
「ふえぇぇ…」
す、すっげぇスパルタ…!
聞こえてきた声は、俺と同じくらいの年の女の子が、男の兵士の人に結界魔法を壊されて、吹き飛ばされていた声だった。
「まあまあ、ティオー。戦いは3日後の夜に決まったから、落ち着いて」
「夜?どう――」
「それにほら、今日はお客さんもいるしね」
ユヴァトの言葉で、他の兵士さんたちの視線も一気に俺に向いてきた。
「シン・コグレです。よろしくお願いします」
「シンは異世界から来た勇者様だよ」
おいユヴァト?そんなこと言ったら…。
「ゆ、勇者様!?失礼いたしました!」
ザッ。
やっぱり。俺はそんなにすごくないんだけど…。
「シンでいいし、話し方も普通でいいから、そんなに畏まらないでくれるかな?」
ユヴァトの紹介の途端、兵士たちがこの国の最高位である礼をくれた。ユヴァトの声が聞こえていなかった者も、周りにつられて頭を下げていた。
「で、ですが――」
「シンが良いって言うからいいんだよ。しばらく見学してるけど、気にせず練習してね。戦いは3日後だ」
隊長であるユヴァトの言葉なので、皆も素直に従ってくれた。
「ユヴァト、魔法について教えてもらえないか?」
「ごめんね、僕も結界を覚えなくちゃだから…。うーん、だいぶ完成してるティオーに頼んでみるよ」
「ありがとう」
ティオーは未だ少女に魔法を撃ち続けていて忙しそうだったが、ユヴァトと同じく二つ返事で了承してくれた。
「本を読むのが1番手っ取り早いだろう。ついて来い」
ティオーは訓練場を出ると、すぐ近くにある別の部屋に入っていった。
そこは、本や杖など、魔法に必要だと思われる道具が多くある、魔法兵が普段活動している部屋だった。
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