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バス停・オブ・ザ・デッド ~ボクはゾンビゲームにTS転生した!  作者: どくどく
三章 二律背反 ~生者と死者 男と女 虚(げーむ)と実(げんじつ)
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ボクは個人情報を死守する。……したよね?

 三七川橋に集まったハンターの数は、昨日の三倍……いや五倍以上いた。


「何この数!?」

「我こそは橋奪還の栄誉を、と言った所ですか。皆さん、ヨーコ先輩の功績にあやかろうとしているみたいです。些か腑に落ちませんが、ヨーコ先輩への嫉妬と思えば溜飲が下がります」


 驚く洋子ボクに、中二モードに入った福子ちゃんが口元を押さえながら呟く。要するに、橋の戦いで勝てる見込みが見えたから昼に攻める、ということのようだ。


「勝ち馬に乗るのは悪くない判断デスネ。これだけいれば、先ず負けませんヨ。おおっと、これは日本のことわざでいう所のフラグじゃないデスヨ」

「あ、音子は何もしなくて良さそうですね。隅で隠れてます。エヘ、エヘヘ……」


 苦笑するミッチーさん。安堵して隠れようとする音子ちゃん。音子ちゃんが隠れる前に捕まえて押し留め、改めて周囲を見る。


「おい、あれがバス停の女か……」

「本当にいたんだ……」

「噂がマジなら、あれ(・・)で橋のゾンビの群れを倒したって事か?」


 周囲のハンターの視線は、洋子ボクに向けられる。正確にはもっているバス停に。


「ふふん、ようやくみんなバス停の持つ隠れた能力に気付いたようだね。ラノベでいう所の追放された人の隠しパラメーターが今ここに公開された感じ?」

「本当にそんな特殊能力があるのなら衝撃なんでしょうけど。ないですよね、そんなものは」

「そこは『バス停にそんな能力があるんですか!?』って驚いてほしいなぁ」


 適当に頷いて聞き流す福子ちゃん。ミッチーさんも音子ちゃんも慣れたのか適当に聞き流している。いつもの流れだ。


「ええ!? バス停にそんな能力があったんスか!」

「うひゃう! ってキミは……ふぁんぶるよつや!?」


 なので本気で驚いた声が聞こえたので、少し驚いた。振り向いて確認すれば、昨日のなんとかっていう女性がいた。


「ファンタンっす! そんな大失敗しそうな名前はノーサンキュー! いつもあなたに最新情報を、ファンタン四谷ッス! あ、愛称は『ファンたん』で!

 昨日も言ったっすけど、今日は【バス停・オブ・ザ・デッド】に密着取材ッス!」


 ベレー帽にスマホといった、おおよそゾンビハンターとは思えない格好だ。だが要所要所を見れば、装備している靴や軍服などはかなり強化されており、軍隊格闘っぽい動きも見れる。


「言っておきますが、私達は貴方を守るつもりはありませんよ。ヨーコ先輩の足を引っ張るようでしたら、容赦なく切り捨てますから」

「うっひゃ、厳しい発言。でも安心するッス! それは承知の上での密着取材。こう見えても幾多の狩場を潜り抜けてきた突撃動画レポーター! 自分のことは空気と思ってほしいッス!」


 威圧するように告げる福子ちゃんに、自分の頭を軽く叩いて心配無用と告げるファンたん。装備品は確かに強いし、動画を見る限りでもゾンビから攻撃を受けた様子はない。


 一応気にはかけておくか、ぐらいに意識する。昨日出会ったばかりの知り合い程度の仲だが、それでも目の前で死なれれば目覚めが悪い。福子ちゃんの言うように率先して守るつもりはないけど。


「さあ、三七川橋の戦いは予想に反して二日目にして佳境! ここに集いしゾンビハンター達は我こそはとばかりに気合が入っているっス!

 そんな中でも今注目の的と言っても過言ではない【バス停・オブ・ザ・デッド】のクランリーダー、犬塚洋子! 彼女はバス停とブレードマフラーという誰もが見向きもしない武器を手に、橋のゾンビ達を一掃したというッスから驚き!

 今日はその犬塚さんに密着取材! そして規模の低いクランでありながら現在MVCランキング三位の【バス停・オブ・ザ・デッド】のクランメンバーも皆様にお伝えするっす!」


 自撮り棒で自分を映しながら解説を始めるファンたん。はきはきした声と大仰な身振り手振り。長くボイストレーニングを積んできたからこそできる前口上だ。ただの変なヒト、ではないみたいだ。


「先ずは犬塚洋子さんのプロフィール! 身長164センチで体重52キロ! 7月1日生まれのカニ座のAB型! 3サイズは上からはB86・H55・B85! うっひょー、制服の上からは解らないッス! 着やせするタイプっすね!

 趣味はなんとなんと自分磨き! 鏡を見てポーズを決めたり――」

「ちょっと待てーい!」


 いきなり暴露される個人情報に、ファンたんの口を塞いでストップをかける洋子ボク


「何いきなり言ってるの!?」

「細かなプロフィール公開はファンの間でも重要ッス! 調査に間違いはないはずッスよ!」

「むしろ間違いないのが怖い。何処でそんな情報仕入れたの!?」

「ふっふっふ。蛇の道は蛇ッス」

「蛇怖え」


 自慢げに言うファンたんに、色々戦慄する洋子ボクであった。やっべぇな、こいつ。


「……まさかとは思うけど、他のクランメンバーも調べたとか言わないよね?」

「流石に一日では無理ッス。でもあと半日あれば――」

「しなくていいから。絶対するな」

「え? でも情報を言わないと動画の再生数とか――」

「止めないと密着取材は許可しないよ」

「うっす、調べないっす。個人情報は大事ッスね!」


 よし、言質取った。


「まあ、観る人の数はボクの働きを見せるってことで埋め合わせるよ」


 戦う前にかなり疲れた気もするけど、ともあれゾンビハント開始だ。


 舌で唇を濡らし、橋の反対側に陣取るゾンビ達を見る。ざっと見て二〇〇体近くはいるだろうか。即席で作ったのだろう廃材でくみ上げた脆そうなバリケード。そして――


『悪を為すものに、正義の鉄槌を!』


 金色に輝く女性型のゾンビ。元は石像だったのだろう。それがゾンビウィルスの効果で動き、そして自我を持っている。


 ユースティティア。


 このイベントのボス存在。その力を注がれた大橋エリアのボス的存在だ。さっきの宣言と共に、ゾンビ達の動きが鋭くなったような気配がする――ありていに言えば、肉体強化(バフ)がかかった。


「ボクらは悪かー。まあさんざんゾンビ倒してきたもんなぁ。あっちからすれば悪人だ」

「善悪は立場の違いでしかありません。死者の法律などこの『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』が塗り替えて見せましょう」

「ほいほい。まあガスとか銃とか日本の法律に当てはめれば良くてジュートーホー違反、最悪テロリストデスからネ。あながち間違いでもないデスよ」

「あ、そうなんですか……そうですよね。音子どうしよう。捕まったら、ネコちゃんたちの餌が……」


 そんなことを言い合いながら、陣形を組んでいく。戦闘が洋子ボク。その左翼に福子ちゃん。右翼にミッチーさん。三人で音子ちゃんを隠すようにしてゾンビの群れに向きあう。状況次第で音子ちゃんを隠密して行動させるためだ。


「Go!」


 動き出したのはハンターが先か、ゾンビが先か、或いはユースティティアの指示か。ともあれほぼ同時に動き出す。


 銃を使えるハンターは銃が届く範囲までゾンビが来るものを待つか、或いは前に進むかの二つに分かれる。戦場を走る【バス停・オブ・ザ・デッド】と並走していたハンター達のほとんどは、途中で足を止めて銃を構えて撃ち始める。


「おおっと! 進む進む【バス停・オブ・ザ・デッド】! 警察ゾンビの群れの中に真っ直ぐ突き進んでいくッス!

 その姿は百年戦争のオレルアンの乙女、ジャンヌダルクの如き! あるいは時の大国ローマに挑んだ勝利の女神ブーディカを想起させるッス!」

「……その二人、結構悲惨な死に方したんだけどね……」


 背後から聞こえるファンたんの言葉にぼそっと呟く洋子ボク


 三七川橋上の決戦は、ここに火ぶたを切るのであった。


拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

気にいっていただけたのなら、評価をいただければ幸いです。


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