ボクらの新しい方向性
「私が先輩と離れたいなんて思われていたことが驚きです」
「はい」
「常日頃から言っているじゃないですか。いつか追いついて見せると。そんな事も忘れたんですか」
「でも強くなるのはボクの所じゃなくてもテイマークランなら――」
「そういう問題じゃありません」
「はい」
あれから――福子ちゃんからものすごく圧を受けていた。
泣きそうになってた洋子の表情に気付かれて何があったかを聞かれた後に、呆れたようにため息をつかれた後に糾弾の開始である。
「それぐらいにするネ、コウモリの君。お怒りはご尤もデスけど、バス停の君も悪気があったわけじゃナイっていうか、不安だったわけデスシ。日本のことわざでいう所のひき逃げ事件?」
「引き抜き、って言いたかったのかな? 移籍だから微妙に意味は異なるけど」
「どちらにせよありえません。もう……」
と、ミッチーさんがとりなしてくれるまで延々と愚痴られた。
「気を取り直して、装備加工行くネ。後は赤袋ヨ。
何が出るかわからない。このスリルがたまらないネ」
ギャンブルやランダム大好きミッチーさんは赤袋を手に笑みを浮かべていた。
「それ、ここで開けるの?」
「当然! もしここで新たな加工品が出たら、それ使ってパワーアップね! あるいはEFBがでるカモ!」
「あー」
ミッチーさん御執着のエターナルフォースブリザード。特殊な効果を持つ超強い装備だ。
赤袋はSSR武器であろうとCドロップ品だろうと同確率で出る。全アイテムの中からランダムで一つなのだ。僕が知っているだけで、『AoD』のアイテム数は1089個。それから増えているかもしれないので、確率的には0.1%以下。
「それじゃあ開けるか――」
「待つネ! ……開ける前に禊が必要よ!」
「みそぎ?」
「ソウ! 目当てのブツを引き当てる為にヤル祈りネ!」
あー。ガチャの宗教か。
あまりにも渋い確率のガチャ。その確率を高めようと、様々な行動を行う人である。ジンクスとかそう言った類なんだろうけど。
十回連続ではなく一回ずつやることで引ける単発教。特定の時間にガチャを引くX時教。ゲーム内の聖堂に祈った後に引くお祈り教。リアルで舞う踊り教。出るまで引く修羅道。様々だ。
まあ、赤袋はガチャじゃないんだけどそう言うのに頼りたくなるのは納得できる。理解はできないけど。
「で、ミッチーさんはどんな禊をするの?」
「フッフッフ。赤袋にちなんで赤い装備を着るネ。なのでちょっと待つヨ!」
言ってトイレに駆け込むミッチーさん。そこで着替えてくるのだろう。
「オマタセ!」
「うわあ……」
「赤い……ですね」
「わ。音子こういう映画見たことあります。アメリカのアクション映画」
ミッチーさんが着てきたのは、全身赤タイツ。いわゆるアメコミのコスプレ衣装だ。実際にそういうコラボ企画があったわけではなく、組み合わせてそれっぽい服装を作っているのだ。
「何て名前だっけ?」
「オウ。名前は言えないけど『ポルヴァリン』みたいな感じの名前のやつネ」
こちらを向いてポーズを決めるミッチーさん。よくわからないけど、そう言うシーンがあったんだろう。
「というわけでレッツ赤袋! 一気に二つ開封ヨ!」
その数秒後、
「オゥマイガァァァァス! ワタシが一体なにをしたネー!」
ミッチーさんはナナホシに出会った時よりも激しく叫び、膝をつくのであった。
「ゾンビの爪に鉄板かぁ……。大外れだよね」
「くぅ! 過去を振り返ってはいけないヨ、バス停の君! 人は未来に生きるのデス!」
「はいはい。まあこんなもんでしょう。早く着替えて装備加工に行こう」
「これが日本のことわざでいう所のトホホというヤツですね」
そんなことわざはないけど、心情的にはあってるので修正しないでおく。
ミッチーさんの着替えが終わった後に、洋子達は指定された部屋に向かう。ハンター委員会が指定した装備加工部屋だ。
そこには複数の作業服を着た男がいた。苺華の工学部出身の男子生徒と言った感じだ。
「お前らがカオススライムを倒した……あ、倒したのは【ナンバーズ】ということになっているんだっけか」
その中のリーダー格だろう男がそんなことを言う。事情は聞かされているのだろう。
「ややこしいなぁ。世間から反感を喰らった、っていうなら殴って言う事聞かせればいいのに」
中々過激な性格だ。実際そうしたくもあるけど、そうもいかないのが世の中である。
まあ、それを通そうとするのがハンターランク至上主義で、その反感が洋子らにぶつけられているのかもしれないけど。
「言いたいやつらには言わせておくっていうのがボクの主義だけど、お偉い様はそうでもないみたいなんだよ」
「会長も大変だよな。ま、俺達は俺達の仕事をするまでだ。
面白い加工品を持ってきたらしいな。彷徨える死体のやつなんざめったにお目にかかれねぇ。早く見せてみろよ」
手を差し出す漢の表情は、数秒後に固まることになった。
泥のようになった液体状の金属。ある程度の硬度をもち、刺激によっては水のように崩れ去る。
これがカオススライムの加工品『流体金属』だ。アイツはこれを駆使して様々な変身を繰り返し、同時に様々な武器を作っていたのだ。
「こいつは……なんていうか話には聞いていたが、どう扱っていいか悩むな」
そりゃそうだろう。
『流体金属』は様々な形に変化する。カオススライム本人はこいつを好き勝手に変化できたが、それが出来るのは運営の力。人は精々、ある一定方向にしか変化できない。
(『AoD』でもこれ交換アイテムだったもんね。『好きな装備に変化する』って形で加工所で好きな装備一つと交換できる特殊アイテム)
カオススライムが変化した者を倒して0.2%で得られるアイテム。SNSでも得たという報告が上がらなかった噂程度の存在。そもそもカオススライムがなかなか現れないうえに、ドロップ率まで低いと言う渋さぶり。
ホント、酷いゲームだった。改めて思う。
「あー。多分武器や防具に組み込むことは無理なんじゃないかな?」
「素人に何が分かる! ……でも、そうだな……こいつは……」
「でも一定の刺激を加えれば、いろんな武器に変化するんじゃないかな。その方向で加工してみたら?」
「……そうだな。とすればどんな装備にすればいいか、だな。希望はあるか?」
男の言葉にきょとんとする皆。
「好きな装備を言ったら、それに変化するって」
「…………ハ? モシカシテEFBにも変化するデスカ!?」
「するする。……できるよね?」
「ああ。既存の装備ならできるだろうよ」
「リアリー!? 夢、夢じゃないデスヨネ!?」
「マジマジ。福子ちゃんも音子ちゃんも何か欲しいものあったら言ってみたら?」
喚起するミッチーさんを横目で見ながら、福子ちゃんと音子ちゃんにも問いかける。
「そう言われましても……今のところほしい装備は特にありませんし」
「音子、バステトの書があれば十分です」
「まー、二人は装備品よりも立ち回りが大事だからね」
テイマーの福子ちゃんは眷属を如何に攻撃と防御に振るかがキモで、音子ちゃんは敵に見つからないスニーキングが求められる。装備に依る部分がないとは言わないけど、そこまで重要視はしない。
「そういうヨーコ先輩はどうなんです? 良い武器を使えば今以上に強くなれますけど」
「ボクがバス停やマフラー以外の武器を持つと思ってる?」
「……まあ、そうだと思ってました」
「でもボクもそうだけど、戦術を増やす方向性はアリかな。例えば――」
指一本立てて、洋子は二人に言葉を続けた。
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