ボクはいろいろ確かめる
時間は放課後。この後クランメンバーと合流し、ハンター委員会の指定した場所に向かうことになっている。
他のクランメンバーが来るまで、一時間ぐらい。待ち合わせの場所近くにある公園。ゾンビパンデミックで人がいなくなった公園のベンチに座り、紙パックジュースを口にする。
風が心地よい。そんなのんびり過ごすにはぴったりのロケーションだが、
「聞きたいことがあるだぁ?」
これからこのチンピラ風のぬいぐるみと話をしないといけないのだ。がっでむ。
「そそ。キミは敗北者。虜囚の身。ルーザー。落伍者。負け犬。そんな君を生かしたボクは質問する権利がある。アンダスタンド?」
「何度も同じようなこと言うんじゃねぇ! ……はん、要するに情報欲しさに俺を生かしたってか。なら情報を喋ればポイされるんだし、喋ると思うか?」
「喋らなかったらあの情けないセリフを他の彷徨える死体に出会ったときにチクるから」
「……ぐっ、テメェ……!」
洋子の言葉に悔しがるぬいぐるみ。冗談のつもりで言ったんだけど、意外に効果があって驚いた。
「まー、彷徨える死体なんか何度も遭遇したくはないっていうのが本音だけどね。まともに狩りができやしない。
できることなら、キミタチ彷徨える死体のことを教えてほしいんだけど」
とりあえず聞きたいことは彷徨える死体関連だ。
僕が知っている情報は、彼らの名称と能力の一部だ。存在こそ明らかだが、戦った情報がない奴もいる。『AoD』実装して半年で終わっちゃったもんなぁ。彷徨える死体の半分ぐらいは実装されずに終わっちゃったし。
姿もシルエットだけで、全貌が分からないヤツもいる。
正直、初見で彷徨える死体のスペック相手に挑めばまずゲームオーバーだ。ナナホシもカオススライムも、事前知識が無かったら確実にあの世にいっていただろう。
「仲間を売れってか? ごめんだね」
「あらま、意外と義理堅いんだね。そういうのは無縁だと思ってた」
「はん、残念だったな。この身体じゃ拷問も碌にできやしないだろうしな。何されても痛くもかゆくもない――」
「ネットで拾った男性の裸祭動画を君の眼前で延々垂れ流してもいいんだけど? キミ、顔背けたり眼を閉じたりできないみたいだし」
「そういうのやめろよ! 吐くこともできないんだぞ、俺!」
まあ、そんな動画持ってないんだけど。同じ男だけあって、やられてイヤなことはすぐに想像できる。
同じ男――男はイヤ――
朝の福子ちゃんとの会話を思い出し、じくりと心が痛む。遠慮のない否定。当人にその意図はなかったのだろうけど。僕は今後どうするか――
だめだめ。いまは忘れよう。何とかなる。
持ち前の楽天的な受け流しで、問題を先送りにする。大丈夫。きっと。
「ま、仲間の情報を売れないのならキミの話でいいや。
キミは元人間……でいいのかな?」
「……どういうことだ?」
声を押さえたカオススライム。僕はゆっくりと、言葉を選ぶようにそれに応える。
「ぬいぐるみが意志をもって生まれたんじゃなく、もともと人間だった者がクローンの技術とかでぬいぐるみに魂を移植された存在。
キミは元人間で、カオススライムの能力を持つぬいぐるみに魂を移された……カオススライムに転生された者……でいいのかな?」
この世界には、クローンによる死者の復活がある。
それは厳密には、記憶をコピーしてクローン技術で作った肉体にペーストすると言う形だ。
だが記憶を転写できるのが、同じ肉体でないのなら?
例えば、もともと死んだ人間がバケモノの身体に魂を移されたのなら?
「なんでそう思った?」
「キミがあまりにも人間臭いから、かな」
「それにしても発想が突飛だ。
人語を介する程度の相手に『元人間で魂転写技術されたかもしれない』と思うなんざ、あまりにぶっ飛びすぎる」
魂転写技術。
その単語を脳内で反芻する。その名称自体はクローン復活のパンフレットにも乗っているぐらいの有名な言葉だ。ややこしいので魂のコピペとか言われている。
「ってことは、オマエもそうなのか? 俺と同じように魂を移された存在――むぎゅ!」
「ヨーコ先輩、こんな所に居たんですか?」
「ああ、うん。ちょっと風に当たりたくて」
福子ちゃんの気配に気づいて、カオススライムの口を塞ぐ。そのままカバンに押し込み、隠すように蓋をした。
「おまっ、何しやがる!?」
「話は後。これからハンター委員会の所に行くから。キミは顔出し口出し禁止。バレると没収されてどんな実験に使われるかわからないからね」
カバンの中から聞こえる声に、カバンに顔を寄せて囁く洋子。話は途中だが、それは後ででいい。
俺と同じように魂を移された存在。もしかしたら洋子も似たような経緯でこの世界に転生させられたのかもしれない。だからこそ、カオススライムを他人とは思えない。まったく、なんでこんなゾンビ世界なんだよぅ。
「世の中って切ないよねー」
「どうしたんですか? ヨーコ先輩」
「異世界転生ラノベハーレム物語って、ファンタジーなんだよねって話」
「? よくわかりませんけど現在物でもいいんじゃないですか?」
「あー、うん。そうだね。ミッチーさん達は?」
「皆さんもう来ていますよ。ヨーコ先輩待ちです」
「もうそんな時間か……。ごめんごめん、早くいこう」
言いながら皆と合流し、指定された建物に向かうのであった。
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「おい、ユー達! 来るのが遅すぎるんだよ!」
指定された場所についた洋子達は、聞きなれた英語交じりの偉そうな男の声を聴かされる。
「アレ? 十条チャン」
「…………何やってるの、キミ?」
叫んだ男――十条は問いかけた洋子の言葉にさらに怒りを増したかのように口を開く。
「ユー達の荷物を提出したら身柄拘束されてそのまま軟禁されたんだよ! 事情を聴いてもユー達の返事次第の一点張りで! 何があったか説明してくれ!」
「あ、そっか。ボク等の荷物はキミが全部解体してたんだっけ」
<目利き>として洋子達の荷物を預かっていた十条は、一応カオススライムの事も知っている。となれば当然巻き込まれ……当事者として同じ扱いを受けても仕方のない話だ。
「あー、ゴシュウショウサマ? 日本のことわざでいう所の巻き込まれ主人公だったネ。実は――」
ミッチーさんが十条に説明している間に、洋子はハンター委員会の方を見る。眼鏡をかけた白い学生服。如何にもな感じの真面目な印象を受ける。そしてその傍には目つきの厳しい秘書っぽい女性。
それぞれの腕章から、白服眼鏡がハンター委員会の会長で、キツ目秘書が副会長のようだ。ハンター至上主義を掲げ、ハンターではない生徒を虐げるようになった原因ともいえる人物――
口元を隠すように手を組み、こちらを眼鏡の奥から値踏みするように見ている。射貫くような視線を感じ、思わずこちらも見返してしまった。
「キミ達が【バス停・オブ・ザ・デッド】のクランリーダー大塚君だね」
おーつか?
「会長、犬塚です」
「読み間違えかよ!?」
いや、大と犬って似てるけど!
「そして小林君にローソン君に乙女君」
「小森、ロートン、早乙女」
読み上げるたびに訂正する副会長。
「全員違うし……。いや、微妙に惜しいんだけど」
「申し訳ありません。会長は人の名前を覚えるのが苦手で」
「はっはっは。すまないね飯口くん」
「井口、です。
では関係者が全員集まったようですので、始めましょう」
「……はあ」
微妙に気勢をそがれた声をあげる洋子であった。
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