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バス停・オブ・ザ・デッド ~ボクはゾンビゲームにTS転生した!  作者: どくどく
三章 二律背反 ~生者と死者 男と女 虚(げーむ)と実(げんじつ)
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ボクらの朝はだいたいこんな感じ

「ふぁ……あふ……」


 スマホのアラームが鳴り、意識が覚醒する。


 久しぶりの我がクランハウスでの睡眠が心地よかったのか、体の疲れはほぼ取れていた。寝ぼけながらアラームを止め、欠伸しながらいつもの制服に着替える。


 顔を洗うためにリビングに向かえば、鼻腔をくすぐる朝御飯の香り。今週の朝御飯担当は福子ちゃんだったか。それを思わせるパンとソーセージの美味しそうな匂い。


「おはよう、福子ちゃん」

「おはようございます。朝御飯(フリューシュトック)はもうすぐできますから」

「んー。他の皆は?」

「早乙女さんは猫にエサを。ロートンさんはまだ起きてきていません」

「夜遅くまで装備いじってたみたいだからねぇ」


 顔を洗って歯を磨き、髪を整えた後に庭に出る。庭の一部にネコが殺到し、そこでは音子ちゃんがネコと遊んでいた。


「わ、わわ。そんな事があったんですね。あ、それは音子にもわかりません」


 にゃーにゃー言っているネコに応えるように音子ちゃんがそんなことを言っている。それを見ると、本当にネコの言葉が分かるのではないかと思ってしまう。


 そんな微笑ましい場所から少し離れて、広いスペースを確保する。朝の空気を吸い込んで、吐き出すと同時に重心を下した。


 イメージ。両手にバス停。周りには数体のゾンビ。この状況なら――


 イメージするゾンビに、バス停を振り下ろすように体を動かす。ゆっくりと、体の動きを意識しながら。一つ一つの動きを身体に刻むように。


 いわゆるイメージトレーニングだ。VR空間でもいいのだが、実際に体を動かして感覚を刻み込む。実戦の感覚をイメージし、それを再現する。


 言ってしまえば情報の再確認だ。僕は『AoD』の知識があり、それがあるから敵に対して優位に立てる。だけど過去の情報に胡坐をかいてしまえば、すぐに新しい情報に淘汰される。


 事実、ナナホシは僕の知らない行動をとった。あれは結果として悪手だったが、あの時付与されたバッドステータスの種類によっては一発逆転の手になっていた可能性もあるのだ。


「バス停の君ー、ご飯できたデスよ」

「ほーい。今行く」


 ミッチーさんの声で我に返り、流れていた汗をぬぐう。いい感じでお腹もすいてきたので、頷いてハウスに戻った。


「いただきます」


 四人そろって合掌し、ご飯を食べる。パンにソーセージ。チーズかゆで卵。そしてコーヒー。福子ちゃんのドイツ風朝御飯のレパートリーだ。


 ちなみにミッチーさんはアメリカ風で卵料理とポテト中心。洋子ボクと音子ちゃんは純和風のご飯とみそ汁だ。誰かが決めたわけではないけど、和風と洋風が交互になるように朝御飯担当を組んでいた。


「パン美味しー。塩っ気が効いてる」

「ブレートヒェン、です。マーガリンが合いますわ」

「ドイツはバターとパン多いデスからねー」

「はー。音子全然知りませんでした。ドイツってそんな国なんですね」


 そんな雑談をしながら朝の時間は流れていく。食べ終わった人から食器をかたずけ、来週の朝御飯担当の人が食器を洗う流れだ。――今回は、洋子ボクが。


 水につけてあった食器をスポンジで洗い、布巾で水を拭きとってから食器乾燥機に入れる。食器も四人分なので容量的にギリギリだ。これ以上クランメンバーが増えるなら、考えないといけない。


「ま、そんな予定もないだろうけどね」


 何せ【バス停・オブ・ザ・デッド】はぶっちぎりの弱小クランだ。ましてや現在炎上中。好き好んでこんなクランに入る人はいないだろう。


「何の予定です?」

「ああ、クラン人数が増える予定」

「ヨーコ先輩は、クランの人数が増えた方がいいですか?」


 登校の準備が終わった福子ちゃんが、そんなことを尋ねてくる。


「いや、特には。福子ちゃんみたいな逸材がいればほしいかな、って思うぐらい」

「わ、私はっ……そう言っていただけるのはありがたいけど、ヨーコ先輩にはまだまだ遠く及びませんし」

「中距離スタートだとボクちょっと不利だけどね。その辺りはむしろボクの課題かな」

「逆に言えば、それ以外の距離だと私に勝ち目はほとんどないわけですけど」

「そこをどうするか考えるのも楽しいと思うけどね」


 むぅ、と口をとがらせる福子ちゃん。突きつけられた課題を前にどうしたものかと頭を悩ませている。安易に洋子ボクに答えを聞いてこないのは、彼女の克己心ゆえか。


「ま、その辺は実際に体を動かした方が見えてくることもあるさ。とりあえず厄介事を全部片づけてから、次の狩り場を考えよう」

「厄介事……カオススライム関連ですね」

「そそ。ハンター委員会が指定する場所で戦利品と装備加工をしてくれ、ってヤツ」

「はい。放課後に合流して、センター街の噴水で集合ですね」


 その話は朝御飯の時に既にみんなに済ませてある。いやなことは早めに一気に終わらす。後腐れをなくして気分すっきりしたいのだ。


「ついでにあのぬいぐるみも引き渡したいのですけど」

「……まー、あの態度と口の悪さは時々見捨ててもいいかなーって思うけど」

「ヨーコ先輩はイヤじゃないんですか?」

「? 何のこと?」


 妙にカオススライムに拘る福子ちゃん。その硬い声に問い返せば、


「何もできないぬいぐるみですけど、あのカオススライムはおそらく男性です。

 そんなのと生活しているなんて、イヤじゃないんですか?」


 そんな言葉を返された。


「あ……。あー……。あー、うん。着替えとか見られないようにしているけど、その、あー」


 男性。そんなの。イヤじゃないんですか。


 福子ちゃんの言葉は、当然の反応だ。女性ばかりの空間に男性がいる。その異物感は拭い去れないだろう。


 ミッチーさんや音子ちゃんは何も言わないけど、そう言う感覚が皆無というわけでもないはずだ。単に洋子ボクが管理するからと言う事で無理やり納得しているに過ぎない。


「やっぱり、男性が一緒に生活するっていうのは、辛い?」

「正直、辛いです。見た目がヌイグルミなのでまだ我慢はできますけど」

「……だよねー。うん」


 うん。当然の反応だ。


 色々あって忘れそうになるけど、女性ばかりの中に男性がいると言うのはやはりそう言う感情を抱くのも当然だろう。男性を拒絶するような正直な言葉に、僕は予想以上のダメージを受けていた。


 女性キャラに転生したとはいえ、僕は男なんだら色々控えないとね……うん。


 忘れそうになっていた事を思い出し、小さくため息をつく。


「あの、どうされました? いきなり落ち込んだようになって」

「アー、ナンデモナイナンデモナイ。あのぬいぐるみに関してはもう一回話し合う?」

「一度決めたことですし、今更それもどうかと。ロートンさんも早乙女さんもそこは大丈夫だと思います」

「んじゃ、あのぬいぐるみは今のままってことで。……迷惑かけないようにはするから」

  

 僕自身も含めて、皆のプライベートにはあまり踏み込まないようにしないとね、うん。


「(……その、誰かが監視しないといけないと言うのは分かるのですが、ヨーコ先輩とずっと一緒というのは色々納得がいかないと言うか)」

「? 何か言った?」

「なんでもありません! ええ、ふしだらな真似は赦しませんという話です」

「あはは。考慮するよ」


 色々釘を刺されたような気になりながら、クランハウスを出る。


 カバンの中にはそのぬいぐるみ(カオススライム)が入っている。監視の名目で洋子ボクが持ち歩くことにした。


 こいつには色々聞きたいことがある。人殺しをしたくなかった、という理由もあるけどコレを隠し通した最大の理由。


 コイツが知っていることを喋ってもらうのだ。


拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

気にいっていただけたのなら、評価をいただければ幸いです。


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