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バス停・オブ・ザ・デッド ~ボクはゾンビゲームにTS転生した!  作者: どくどく
二章 犬塚洋子(ボク)のバス停に集う者達
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ボクは二人と合流する

「あ、美鶴おねーさんの反応です」

「よっし! 当たり引いた!」


 音子ちゃんの<オラクル>を用いた移動を繰り返すこと四回。ようやくクランメンバーの反応を確認できた。急ぎ洋子ボクらはそのマップに移動する。


 浮遊感に似た気持ち悪さに耐えてやってきたのは、三差路に分かれる下水道。下水道のほぼ真ん中に位置する場所だ。


「ミッチーさん!」


 そしてミッチーさんはすぐに見つかった。やー、洋子ボクの日ごろの行いの賜物だね。そのまま近づいていき――


「オウ! クランリーダーネ! 今度はどんな手管使ってくる?」

「へ? どしたのその呼び方? あと、てくだ?」

「最初はワタシの呼び方を『ロートンさん』とかいったり、次は『ゾンビに噛まれて動けないんだ』とか言って迫ってきたり。よくわからないけど、手練手管かえてこっちを襲おうとしてきましたヨ。

 アリエネー! ゾンビ如きにボロボロになってるとかアリエネー! あ、でもあの弱々しいバス停の君はちょっとキュンキュンしました! 日本のことわざでいう所のリョナ萌えデスネ!」

「あー、この反応は間違いなくミッチーさんだ」


 頭をかきながら、状況を整理する。これを演技しているというのなら、かなりの役者だ。


 クランリーダー呼びも、こちらの反応を探るための事なのだろう。いつもと違う呼び方をされれば、戸惑うものだ。


「つまり、ミッチーさんはボクの姿をした何かに何度も遭遇しているってことでOK?」

「イエス! これで四度目デス!」


 カオススライムは単独ソロで動くミッチーさんに何度も遭遇しているのだ。そしてそのたびに撃退している。


 おそらくこれもカオススライムの手管なのだろう。『ニセモノの仲間がいる』ことを表に出し、本物の仲間とぶつけて殴り合わさせる。その為に『仲間の呼び方』という基本的な部分をあえて間違えたと言った所か。


 洋子ボクはミッチーさんが本物だと分かっているが、ミッチーさんからすれば本物か偽物かわからない状態だ。


「ンー、ではワタシの質問に答えられたらホンモノのバス停の君だと納得しましょう」

「え? いや、カオススライムは記憶もコピーするから――」

「今日のぱんつは何色?」

「答えられるか、そんなの!」

「……ちっ、バス停の君らしい反応デスネ」


 叫ぶ洋子ボクに、舌打ちするミッチーさん。


「デスガ、このままだと埒があきませんヨ。ドーシマスカ?」

「ミッチーさん……さてはこの状況を楽しんでる?」

「エヘー」


 どんな時でもポジティブなのは、ある意味美徳だ。さっきの聖女様みたいに混乱されるよりはずっといい。


 とはいえ、埒が明かないのも事実だ。なので――


「ミッチーさん、五番!」


 言うなり洋子ボクはバス停を構えてミッチーさんに迫り、真下から振り上げるように切りかかる。


「は、ほひょ!?」

「二! 七! 九! 一!」


 そのまま立て続けに四連撃。袈裟懸け、横なぎ、突き、そして真上からの振り下ろし。


「お、おい! なんでいきなり殴りかかってるんだユー!? ついにバス停バカになったか!」

「誰がバス停バカだよ! 当たってないからセーフ!」

「いや、当てるつもり満々でしたよネ、今」


 後ろから止める十条に言葉を返す洋子ボク。実際当たっていないのだから、問題ない。ミッチーさんなら避けられると信じていたし。


「そりゃ、あれぐらい毎日やってるし避けれるでしょ?」

「ま、ネー」


 日々培ったクランでの訓練。いわば洋子ボクとミッチーさんの絆。


 それは本物と認め合うに十分なものだった。


「……やっぱりユー達のクランはおかしい」

「お、音子はすごいと思います。互いの友情? そういうモノを感じられて、エヘ、エヘヘ」


 げんなりとした声で告げる十条と、取り繕うように口を挟む音子ちゃん。むぅ、感動のシーンだと思うんだけどなぁ。


「デ、これどういう状況ネ?」

「あ、そうだ。実は『彷徨える死体(ワンダリング)』のカオススライムってのがいて――」


 状況の詳細を伝える為に、洋子ボクは説明を開始した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「福子ちゃん!」

「ヨーコ先輩?」


 下水道の通路の一つ。そこで二人は合流する。


「良かった! いま厄介なことになってるんだ。実は『彷徨える死体(ワンダリング)』のカオススライムってのがいて――」


 カオススライム。『彷徨える死体(ワンダリング)』の一つ。

 フィールドそのものを支配し、そこに居るハンターの姿をコピーする泥状の存在。身体データはもちろん記憶や喋り方までコピー可能であり、相手を騙して隙をついて取り込むと言う。


「そんな相手が……」


 疑うことなく頷く福子。自分の知識の外にあることだが、依然ナナホシと相対した時もその能力を知っていた。カオススライムの事も知っていてもおかしくはない。


「成程、分かりました」

「だけど安心して! キミはボクが守るから。命に代えてもね!」


 言って洋子は福子に近づき、その手を取る。そのまま顔を近づけていき――


「おおっと!」


 そして福子は洋子を突き飛ばした。汚らわしい物を払うように洋子が握っていた手をハンカチでふき取り、睨むように相手を見る。


「貴方が、そのカオススライムですね」


 はっきりと、福子は目の前の洋子――に化けたカオススライムに言い放った。


「……何故分かった? アンタの記憶を読んで、この女にしてほしそうなことをしたつもりだったんだけどな」

「むしろふざけ過ぎです。ヨーコ先輩に似ているのは体だけ。あの人は絶対に『命に代えても』なんて言いません。

 仲間を犠牲にせずに笑いながら前に進む。あの先輩はそういう人です」

「へぇ。そういうタイプか。俺としたことがリサーチが足りなかったか」


 見誤ったなぁ、と言いながら笑みを浮かべるカオススライム。


「ええ。あの先輩なら声高らかにこういうでしょうね。

『この強くて可愛くて可憐で最強のボクが、クランの仲間を見捨てて逃げるなんてブサイクな真似はできないよ!

 困難な状況、それでも一縷の望みを見つけて挑み、そして勝利する! そう、これこそがボク! このカッコよさこそが、ボクなんだ!』……とかそんなことを」

「え? ……あ、ホントだ。本当にそう言ってる。一字一句一緒だ。馬鹿なのあの女?」

「あの自分のことが超大好きな先輩が、自分を犠牲にするとかいうはずがありえません! 危険な戦いでも『ギリギリを攻めるボク、カッコイイ!』とか言いながら絶対生き残ることを考えるタイプです!」

「いろいろご愁傷さま。馬鹿に付き合うって大変だよな。

 でもまあ、その心配はもう不要だ」


 言うなりカオススライムは体を泥状にして、福子の身体に覆いかぶさる。押し倒される形で、福子はその泥に包まれた。その腕が、足が、お腹がドロドロの粘性物質に抑えられ、一瞬で身動きが取れなくなる。


「きゃ! なに、これ……!?」

「俺もこういう強引なのは好きじゃないんだけど、あの女はムカつくんでな」

「先輩と出会ったんですね。その様子だと手痛く負けたみたいですね。御愁傷様です!」

「負け……! 負けてねぇ! 俺は『彷徨える死体(ワンダリング)』だ。カオススライム様だ! 人間如きに負けやしねぇ!」


 福子の言葉に激昂したカオススライムは、福子を体内に取り込もうと泥を広げていく。福子は抵抗しようとするが、四肢も碌に動かせない状態では抵抗に使用もない。眷属のコウモリごと泥に包まれているらしく、ただもがくしかできないでいた。


「ひゃあ、離れなさい……!」

「どうだ? 全身を俺に包まれて、融合していく感覚は。

 せめてもの情けで憧れのヨーコ先輩の顔と体の感触は保ってやる。ニセモノだって理解しても、この感触は本物だぜ。なにせこのカオススライム様の能力だからな。感謝しながら溶けちまいな!」


 触れている肌のぬくもり、声。その全ては確かに洋子に酷似していた。その泥に体中を包まれていく。体中全てを洋子に触れられて、抱きしめるように包まれていく。


 だけど――


「貴方は、ヨーコ先輩のことを何も理解していません……!」

「は? 何言ってるんだ、オマエ。このカオススライム様のコピー能力に穴なんかない。記憶もすべてコピーした。俺は完璧なんだ! 間違える事なんかない! 俺は――!」

「ええ、完璧です。ですけど、貴方はカッコ悪いです。そして()()()()()()()()()()()()()()

 カッコイイあの人が、危機一髪の状況で現れないはずがありません!」


 叫び声と同時に、


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「福子ちゃんから、離れろ!」

 

 福子ちゃんを包み込もうとするカオススライムを払うように、洋子ボクはバス停を振るった。


拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

気にいっていただけたのなら、評価をいただければ幸いです。


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[気になる点] 「ええ、完璧です。ですけど、貴方はカッコ悪いです。そして《・》ー・コ・先・輩・は・カ・ッ・コ・イ・イ・ん・で・す・。  カッコイイあの人が、危機一髪の状況で現れないはずがありません!」…
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