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バス停・オブ・ザ・デッド ~ボクはゾンビゲームにTS転生した!  作者: どくどく
二章 犬塚洋子(ボク)のバス停に集う者達
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ボクは後ろを意識する

「いろいろ噂になっている」


 主語が無かったりいろいろとか大雑把な表現になっているが、後藤が言いたいことは理解できる。


「噂? ボクがきゃわたんだって事? もー、やだなー」


 だけど敢えてそうやって誤魔化した。これで呆れて帰ってくれればいいのに、後藤はスマホを取り出して例の掲示板を見せてくる。


「発足した瞬間からここまで叩かれるクランは初めてだぜ」

「まーね。それだけ注目の的、って事なんだろう」

「そうだな。どんな不正をしたとか、どんなビッチだとかで持ち切りだ」

「へー。そいつを確認しに来たってのかい? キミは」


 肩をすくめていう洋子ボク。僕にそのつもりはないけど、周囲は洋子ボクと後藤のムードに押されている。前に絡んできた後藤の取り巻きも、少し離れた場所で見ていた。火花バチバチやっているように見えるのかなぁ?


「…………お前が不正をしていない事は、俺は知っている」


 だが、予想に反して後藤はそう言った。


 まあそれ自体は事実だ。後藤はチェンソーザメの現場に居たのだから。洋子ボクらが不正なく、金晶石を手に入れたことを知っているのだから。


「そりゃねえ。で、不正なくクランを立ち上げたのに、ここまで馬鹿にされているボクを弄りに来たのかい?

『お前がどれだけ頑張っても結果はこうなんだよ』って嘲笑いに?」


 実際、結果はこうなのだ。


 誰もが出来ない事をやれば、最初に訪れるのはこういう批判。つまらない揶揄。そういった悪評だ。


 事実なんてどうでもいい。ただ、そうしたいからそうする。自分にはできないから。自分の常識ではありえないから。自分が気に入らないから。だから叩く。貶す。馬鹿にする。良くも悪くも、それが人間なんだよね。


 劣等感。比べると言う事は差が生まれることだ。優劣があると言う事は、劣っていることを証明することなのだ。だが、それを認めたくないがゆえに人はそれが上手くいかないのだと決めつける。


「ふざけるな!」


 震える声で、後藤は洋子ボクに言葉を投げつける。


「お前達は自分の実力でチェンソーザメを倒した。不正も、ズルも、何もせずに。

 なのに馬鹿にされて、それで何とも思わないのか」

「思わないわけじゃないけど、好きにしなってカンジさ」

「なんだと?」

「どれだけ騒ごうが、変わらないものがボクにはある。ズルだとかビッチだとか確かにちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっとムカつくけど、所詮は戯言さ」


 ちょっとだよ。本当にちょっとだよ! いくら何でもビッチは酷いとは思ってるけど!


 それでも、僕も心には揺るがない芯がある。そう、それは――


「そう、()()()()()()()()()()()()()()!」


 お日様が東から昇るように、物が上から下に落ちるように、変わらない常識とばかりに洋子ボクは告げる。


「……は?」

「キュートなんだラブリーなんだ。可憐で愛嬌があってちょっとあざとくて愛くるしくて天真爛漫、純粋無垢なベイビーフェイス。疑うことを知らない天使のような女子校生!

 それでいてバス停もったツヨカワハンターできゃわわで魅力的な戦乙女。先陣に立つ姿はまさにジャンヌダルク。微笑む様は楊貴妃の如く。そのエロ可愛さはあの呂布奉先を魅了した貂蝉の生まれ変わり!

 アイドルになっていれば世間を揺るがす大スターになっていただろうし、女優になっていたら歴史に残る作品が生まれていただろう。だがしかしボクは敢えてハンターの道を進む! キモカワイイバス停を手に!」


 胸の手を当て、もう一つの手を天に掲げて偽りなき事実を告げる洋子ボク。僕としてはまだ語り足りないけど、後藤が何か言いたげにしているので敢えて止めておく。


「分かったかい? その事実を前にすれば、そんなネットの落書きなんか大したことないんだよ」

「お前が馬鹿だってことはよくわかった」

「馬鹿じゃないよ! なんで誰も理解してくれないのかな!」


 ぷんすこ、と怒る洋子ボク


「まあいい。お前が気にしていないんなら本当にどうでもいい話だ。

 馬鹿で良かったと思っておく」

「あれ? そんだけ」


 呆れたのか、それだけ言って席を立つ後藤。何か言ってくるのかと思ったのに、少し拍子抜けだ。


「……認めたくはないが、犬塚おまえは強い」

「お、おう?」

「だが所詮はネタ武器で戦う事に拘った二流だ。強くあるために武器を選ばないのなら、いずれ死ぬ」


 言って洋子ボクを見る。


 そこには今まであった『低ランクハンター』を見る侮りはない。射貫くような視線だ。


(あ、昨日の福子ちゃんに似てる)


 なんとなく、昨日の相談の福子ちゃんを思い出す。


(<倉庫ストレージ>で行きましょう)


 そう言って、洋子ボクを見る福子ちゃん。それと今の後藤はきっと同じ感情だ。


「俺は犬塚おまえを超えるハンターになる」


 きっとそれは、そう言う事なのだ。


 洋子ボクの事を乗り越える目標として見る目。洋子ボクの背中を見るのではなく、追い抜きたいと思う目。


 あの時の福子ちゃんも、そして今の後藤も。その意思をもって洋子ボクを見ているのだ。


「そーかい。そいつは楽じゃないよ」

「言ってろ、ナルシスト。先ずは俺もクランを立ち上げる。お前に出来て、俺に出来ない道理はない」


 純然たる事実を叩きつける洋子ボク。むしろそれを快く思ったのだろう。気持ちのいい啖呵を切ってくれた。


 お前に出来て、俺に出来ない道理はない。


 その通りだ。追って来い。


 洋子ボクは更にその先を行ってやるから。


「……うかうかしても、いられないのかな」


 去って行く後藤の背中を見ながら、僕はそんなことを思う。


 その背中を追うように、後藤の取り巻きが走っていく。まー、それなりに慕われているんだ。あとは戦術面さえきちんとすれば何とかなるだろう。というか、追いつかれてしまうのだろう。


 劣等感。


 比べると言う事は差が生まれることだ。優劣があると言う事は、劣っていることを証明することなのだ。だが、それを認めたくないがゆえに人はそれが上手くいかないのだと決めつける。


 ()()()()()()、それが人間なんだよね。


 劣っていると言う事はけして敗者なのではない。 足りないと言う事は弱いと言う事なのではない。


 真っ直ぐに目標に向かって歩くその足こそが、勝者への道なのだ。涙を堪えながら真っ直ぐ進んでいくことこそが、強者への道なのだ。


「……英語の勉強、やり直そうかなぁ……」


 さっきまでうだうだしていた自分を思い出し、少し恥ずかしくなる僕であった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「――と言う事が学校でありまして」

苺華学園こっちもデース!」


 クランハウスに帰ってきた福子ちゃんとミッチーさんも、ネット上のクランの悪評を聞かされたようだ。


 クランマスター以外のメンバーは非公開にしてあるので、二人には被害は出ていないようだ。まあ洋子ボクも直接的な被害はないんだけど。


「ヨーコ先輩は……その、大丈夫でしたか? 酷いことを書き込まれていましたけど」

「んー、あんなの気にしたら負けだって」


 心配そうに問いかけてくる福子ちゃんに、へらっと返す洋子ボク


「オウ、メンタル強いね、バス停の君。っていうか嬉しソウ?」

「うん。ちょっと学校でいいことあってね。んじゃ、ご飯を食べ終わったら訓練といこうか!

 一週間後を目標に、がっつり鍛えていくからね!」


 印刷したスケジュール表を二人に渡す。それを見た二人はゾンビの大軍を見た時のような表情を浮かべていた。


「あの……ヨーコ先輩、これ本気ですか?」

「ドSとSparta(スパルタ)でSSデス!」

「こんぐらいやらないと、『狗神』には勝てないんだよ。

 っていうか、油断してると後ろから追い抜かれちゃうぞ!」


 洋子ボクの言葉にきょとんとする福子ちゃんとミッチーさん。


「ほらほら! 福子ちゃんも、ボクのりばーれの立場、取られちゃうかもよ?」

好敵手リヴァーレ! ……よくわかりませんけど、ヨーコ先輩を追い抜くのは私ですから」

「そうそう。その意気その意気。それじゃ、元気よくいってみよー!」

「今日もヘルモードデスネー……」


 ぐったりとうなだれるミッチーさんを引き摺るように、洋子ボクは前を進むのであった。

拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

気にいっていただけたのなら、評価をいただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「お前達は自分の実力でチェンソーザメを倒した。不正も、ズルも、何もせずに。 >なのに馬鹿にされて、それで何とも思わないのか」  ルール(マナー)違反の横殴りして、戦闘の戦略をぶち壊す邪魔…
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