ボクらの評判はうなぎのぼり?
新しくクランを立ち上げて、学校の寮からクランハウスに引っ越した洋子達。
橘花学園を始めとした六学園は、御羽火島南方に設立されている。ちょうど六角形の頂点に位置するように各学園が立てられ、その内側にコンビニなどを始めとした都市分がある。ゾンビパニック以前はそこに普通の人や先生も住んでいて、結構な賑わいがあったのだ。クランハウスもそこにある。
「ひゃっほー!」
【バス停・オブ・ザ・デッド】に与えられたクランハウスは都市の南部。一般的な家屋がある場所だ。福子ちゃんとロートンさんは最寄りの駅から環状線でそれぞれの学校に行き、洋子は自転車で通学する。
この島に居る人型ゾンビのほとんどがここに住んでいた人達の成れの果てだ。彼らはゾンビ化してここから立ち去り、学園郊外で彷徨っていると言う。
(――というのがゲームの設定なんだよね)
橘花学園に向かう道を自転車で進みながら、そんなことを思う。町並みは日本の何処にでもありそうな商店街。だけどそこには人はなく、商品らしいものも並んでいない。無人の街、死んだ街。形は綺麗だけど、生活の息吹きのないモノ。
こういう所を漁るのが『AoD』のガチャだったんだけど……やるせないなぁ。
『AoD』のガチャは、こういった『人が住んでいた区域』を漁って物資を得ると言う設定だった。無料ガチャはこういう町やコンビニ。有料ガチャはホームセンターとか。限定ガチャは時折海岸に流れ着く輸送船などだ。
主に目標とされるのは武器である。あとは防具とかだ。言うまでもなくそういったほしいものが入る確率は低く、八割近くが食料は日常品と言う感じだ。それらは普通に生活に役立つのだが『AoD』ではハンターランクをあげるポイントでしかなかったためハズレ枠だった。
ゲームのキャラがお腹すくとかはないもんなぁ。いや、そう言うパラメーターがあるゲームもあるけど。
ゲーム世界に転生して思ったことは、食料アイテムの重要性だ。レトルトや缶詰ばかりの生活じゃ飽きちゃうよ。ゾンビウィルスで食料の育ちが早いから食料不足はないんだけど、それでも同じものばかりじゃ飽きてしまう。
「ま、何とかなるさー」
持ち前のあまり考えないスキルで思考をクリアにし、学園の門をくぐる。自転車置き場に自転車を止めて、カバンを抱えて教室に歩き出す。
『おい。あれが……』
『ああ。アイツが……』
廊下を歩いている時も教室に入った時も、遠くから洋子の方を見て色々囁かれていた。何のことかと気になっていたが、クラスメイトの一人がこちらに近づいてきた。
眼鏡をかけたひょろっとした男子。確か名前は葉加瀬くん。NPCの一人で、ゲームの基礎知識を教えてくれる人だ。操作方法とか、バッドステータスの種類とか、そう言うのを。
……彼も六学園何処にでもいるんだよね? そういう兄弟なのかな?
「犬塚さん。あの……新しいクランを立ち上げたって聞きました」
その葉加瀬くんが興味津々に聞いてきた。ああ、それでみんな洋子の方を見てたのか。
「うんうん。クランハウスも無事に……無事かな? ともかく掃除も終わって、もう少ししたら動き始める予定なんだ」
「そうなんですか。……その、犬塚さんがそう言う事をする人じゃないって知ってますけど」
突然声を細めて、問いかけてくる。何やら他人に聞かれたくないという雰囲気だ。
「犬塚さんが不正で『金晶石』を手に入れた、って噂が流れているんです」
「はぁ? そんなわけないじゃないの」
「ええ。ですがハンターランク16の犬塚さんが推奨ハンターランク20のチェンソーザメを退治したのはおかしい、と。
高ランクハンターと一緒に狩ってもらって『金晶石』を貰ったんじゃないかっていう噂があるんです」
言って葉加瀬くんはスマホを見せてくる。ハンター掲示板の中でも罵詈雑言が並ぶいわゆるヲチスレである。ウォッチャーとして一歩引いた場所からニヤニヤする感じだ。そこが悪意に満ちるか、見守るだけになるかは参加者次第だろう。
で、その掲示板はと言うと――
『202 ハンター規模31とか。クズwwwwwwww』
『204 マジか。31とかオレと同じランクじゃん』
『218 いやマジであり得ないだろう。あるとしたら高ランクハンターに手伝ってもらったとかか?』
『221 それだ。そいつらから石を金で買ったに違いない。そうでなければおかしい』
『236 クランリーダーは女らしいからな。高ランクハンターに股開いたんだろう』
『241 ゾンビを誘惑して倒すハンタークラン登場か』
『256 大体バス停ってwwwwwwwww あんなクズ武器で倒すとかありえないわwwwwwww』
まあ、大体そんな感じだ。この間僅か20分弱。その間もスレッドは盛り上がっていると言う。
「……うっはー」
ある程度の反感は予想していたけど、こういうのはさすがに苦笑しかない。見えない部分での噂話って怖いわー。
「その……今日は帰った方がいいと思う。犬塚さんがそう言う事をする人じゃないのは知っているし、被害者なのは間違いないんだけどそんな目で見ている人もいるわけだし」
「んー、忠告ありがとう、葉加瀬くん。
でもまあ、ここで帰るのも何かに負けた気がするんでやめとくよ」
やんわりと断って、葉加瀬くんのスマホから目を逸らす。そして遠くから洋子を見ている人を見て、小さく笑みを浮かべた。いや、意味はないんだけどね。
こういうのには過剰に反応したら負け。普通にしていれば、本当に馬鹿な奴ら以外は何もしてこないものさ。
表だって洋子にものを言う人間は、わざわざこんな所に書き込んだりはしない。ここに書き込んで、洋子を非難したつもりになっているだけなのだ。
王様の耳はロバの耳。そう穴の中に叫んでる輩に用はない。
「そんな事よりも今日の英語のテストが厄介なんだよなー。ねえ葉加瀬くん、どうしたらいいと思う?」
「え、予習とかしてこなかったんですか? 問題が出る範囲はみんなやった所ですよ」
「……正論ありがとう。ボクの戦いはここでお終いだー」
別の理由で帰りたくなってきた。しかしそんな誘惑を断ち切るように紀子ちゃんが教室に入ってくる。はーい、でっどえんど。
脳内でチーンと言う音が鳴ったのを、確かに感じていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
英語のテストは散々。洋子は食堂でその結果にうなだれていた。
「はー……補習確定かなぁ……。でも選択肢は全部埋めたからワンチャンは……。
そうだ、希望を捨てるなボク! 最後の最後まで抗い続けるんだ!」
ガっと拳を握りしめる洋子。4択問題が全部あっていれば補習は免れるはずだ。10問ある4択が全部あっている確率は…………限定ガチャでSSRを5枚ぐらい引く確率でした。
食堂でバス停の装備強化を頼んでいる間にお昼ご飯を食べる洋子。その間にもいろいろ興
味の視線が向けられてるのを感じる。
だが、そんなことはどうでもよかった。補習を如何に回避するか。それが洋子にとっての最大の課題なのだ。
「ぐぬぬ。ハンターで忙しいのだから免除できないモノだろうか」
でもそれは遠回しに『ハンター権』を認めるようなものだし、いやしかし学業とゾンビハンターの両立が難しいのは事実で学園としてもゾンビウィルスの供給は必要なわけだからこれぐらいは――
「何ブツブツ言ってるんだ。キモいぞ犬塚」
「……うっさいよ、後藤」
かけられた声に容赦なく不機嫌な声を返す洋子。
後藤は許可もなく洋子の正面に座る。何考えてるんだ、コイツ。
「聞いたぜ。いろいろ噂されてるんだってな」
うわメンドクサクなりそうだ。
僕は本気で眉をひそめた。
拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
気にいっていただけたのなら、評価をいただければ幸いです。
評価はこの下の☆☆☆☆☆を押せばできますので、面白かったという方はポチっていただけると作者のモチベがものすごく上がります。よろしくお願いします!