ボクはいろいろ着替えさせられる
朝日が窓から射し、部屋の中を照らす。
隣で寝ている福子ちゃんとミッチーさんの寝袋がぼんやりと映し出される。途中までは二人の寝息で悶々としていたが、なんだかんだで眠れていたようだ。
もぞもぞと寝袋から起き上がり、伸びをする。まだ残る倦怠感を払うように体を動かした。寝る前に畳んで置いてあった制服に手を伸ばし、着替え始める。
ブラジャーを付けた時の言いようのない圧迫感に悩んだのも今は昔。自分の裸を直視できなかった時が懐かしい。そんなことを思いながら僕は着替えを終える。
……直視できるけど、いろいろモンモンしちゃうのはご勘弁。だって洋子可愛いんだもん! ウチノコカワイイは、ネトゲあるあるだよね。うん!
自分の作ったキャラには愛着がわくものだ。だからそんなキャラに転生したんだから、いろいろな感情が湧き上がって当然。そう、これはけしてやましい気持ちではなく自らが作り出したキャラクターと言う芸術品を愛でると言ういわば嗜好の範疇で、我が子可愛い父性本能とも言うべき感情なのであるからけっしてイヤラシイことをしたいわけではないけど、そこはまあゼロパーセントではなくむしろこの体を見て何も思わないのはオトコノコとしてどうかと――
「どーしましタ、バス停の君? 鏡の前で、呆けテ?」
「ふにゃあああ! なんでもないヨ? うぇええ!? もうこんな時間なの!」
気が付くと鏡の前で10分ほど呆然としていたようだ。ミッチーさんに指摘され、我に返った。制服を着替え終えた姿を見ながら、我が身に見惚れ状態だったらしい。
「というか、ハイスクールは休みヨ。なんで制服着てるネ?」
「へ? ボクは制服以外はあまり着ないけど? あとは寝巻ぐらいかな」
「ヨーコ先輩、流石にそれはどうかと思います」
いつの間にか会話に参加していた福子ちゃんが、呆れたように呟いた。
だってほら、服は仕事着と部屋着さえあればいいかなー、って。前世の僕がそんな感じだったのか、洋子もそんな習慣になっていた。
「オウ……残念サンですネ。ボディはハイスペックなのに」
「ええ、いろいろカッコいいんですけどいろいろ残念なんです。主にセンスが」
「な、何か散々言われてない?」
ため息をつく二人に、洋子は言い放つ。そんな洋子を見ながら、二人は頷いた。
「コウモリの君、これはキョーイクが必要と思うデスが?」
「教育……というと?」
「つまりデスネ――」
言って洋子に聞こえないように相談する。あ、なんだか嫌な予感。こっそりと部屋を抜け出そうと――
「ハダカジメ!」
「ぐえ!」
いきなり首に巻き付かれた腕。見事な締め技を受けて、僕の意識は遠のいていく……。
……………………。
…………。
……。
「キツケ!」
「おぶはぁ! ちょ、何するのさ!」
突然何かをかがされて、目が覚める洋子。
「って何この格好!? 福子ちゃんのドレス!?」
気が付くと、洋子は桃色の主体としたフリル満載のゴシックドレスに着替えさせられていた。頭につけられたリボン、ファンシーなアクセサリー。ふわふわのドレス。少女趣味満載の衣装だ。
「凄い……。胸のサイズまでばっちりです」
と、感動したように言うのは福子ちゃんだ。目をキラキラさせて、崇拝するように洋子を見ている。
「ふぇ? これ、ボクなの!? ふぇえ、ふぇええええええええ!」
やだこれかわいい。
制服と寝間着以外の姿を見たことがない僕だけど、こんなもろに魔法少女風の格好が似合うとは思っていなかった。っていうか考えもしなかった。こういうのは小学校キャラの着るものなんだなー、と言う固定観念があったのだ。
やばい。鏡に映る洋子可愛い。頬に手を当てて恥ずかしがる姿も含めて、超キュート。福子ちゃんがうっとりするのもすごい分かる。
「………………はっ! なんでこんな格好に着替えさせられているのさ、ボク!?」
「気絶している間に着替えさえました! やっぱりヨーコ先輩こういう服が似合います! 用意した甲斐がありました!」
「ボクのサイズを理解している福子ちゃんが少しだけ怖い! じゃなくていきなりなにを――」
「お次はコレね!」
「ぐえ!」
また首筋を締め付けられて、気を失う僕。
「ぶっは!」
そして再び意識を取り戻すと、今度はダメージジーンズに白いシャツ。テンガロンハットと言うワイルドな格好になっていた、いわゆるカウボーイならぬカウガールだ。銃があれば決まっただろう。
シンプルな布一枚だからこそ、隠されることのない洋子の胸。ワイルドな格好だからこそ強調される女性の象徴。荒野に生きるむき出しの野生がそこにあった。ボーイッシュ且つ、ワイルド。それでいて乙女を主張する見事なバランス。
「ナイスね! バス停の君のハイスペックなボディラインがバッチリ!」
「ほわあああああああ!? え? ボクってこんなに体綺麗だったの!? 出るとこ出て、おしりも凄くない!?」
「……ぐ、すごいですヨーコ先輩。悔しいですけど、これはこれでありです」
「ハイハーイ、次いくネ!」
「だからいきなり首絞めるのはぐえ!」
首を絞められて、気を失った。
「だからなんなのさってほわああああああああああああ!?」
意識を取り戻した洋子は、胸と腰を包むレザーの下着のような衣装と警察帽子のような衣装に驚いていた。ガーダーベルト付きの下着はエロティッシュで、チョーカーと帽子につけられたドクロの意匠が強烈な支配力を示しているかのようだった。えすえむちっく……っていうかもろにそういう系統の服。
「パンキッシュ! 黒のレザーは全てを圧倒するネ!」
「ひゃああああああ……! 逮捕してください、先輩……!」
「それじゃあ次は――」
「もう喰らうかー!」
背後に回ったミッチーさんにチョップする洋子。
や、やばい。これ以上コスプレされると本当に価値観がカオスになる! なによりもゴスロリピンクもパツパツカウガールも女王様ボンテージも全部カワイイ! ボクって何着ても可愛すぎて、見惚れそうになる!
「二人とも、正座!」
「アハハー。ゴメンネー」
「ヨーコ先輩がオシャレに興味がないのは、流石にもったいないと思います」
「そーいうの禁止! あとわざわざ首絞めるのはもっと禁止!」
「でもバス停の君。自分のコスプレにきゅんきゅんしてたね。悪くないって顔してたヨ?」
「それでも禁止!」
ミッチーさんの追及から逃れるように、ビシッと言い放つ洋子。
「っていうか、なんで福子ちゃんもノリノリだったの? こーいうのは嫌いだと思ってたけど」
「繰り返しますけど、ヨーコ先輩がオシャレしないのはもったいないです。折角綺麗でカッコいいのに。同じ服を着て一緒に街を歩いたりしたかったです」
「う……。まあ、だからって無理矢理は禁止だから」
拗ねるような言い方に強く言う事もできず、そう言って留めた。
「うふふー。バス停の君、可愛いですねー。日本のことわざで言う、目がハート状態?」
「全然違うし、そんなことわざはない!」
「えー。素直じゃないデスネー」
そんなことを言うミッチーさんを無視して、制服に着替える洋子。
「ほら! 朝食食べたらクランハウスの掃除の続き! あと荷物の荷ほどきとか色々やることはあるんだから。
今日中にクランの体制を全部整えるからね!」
「はい、わかりましたわ」
「イエース! 頑張るネ!」
洋子の言葉に、異口同音に同意する福子ちゃんとミッチーさん。
意外と言えば意外なのだが、一番活躍したのはミッチーさんだった。
「虫退治はこの薬使うとOKネ! ネズミも通り道を調べて殺鼠剤と粘着剤をコンボするのがベストデース!」
「……う。その、ありがとうございます」
「あと、この水漏れはすぐに直せるデスヨ。ホームセンターでパッキン各種買ってキマシタ!」
化学薬品を使った害虫害獣駆除や、機械の修理などいろいろ動いてくれたのだ。応急処置程度だったライフラインも、ほぼ完ぺきに修理したと言う。
そういったことに不慣れな洋子や福子ちゃんは、ほぼ任せっきり。時々手伝うけど、その程度だった。
「(はあ……。全然いい所がありません。変な嫉妬して心が狭いとか思われてるかもしれないのに。……挽回どころか全然役に立ってませんわ)」
……心なしか、福子ちゃんの表情が暗かった気もするけど……まあ、虫とか鼠とかが話に上がったし、そう言う事なんだろう。
「一応は苺華学園だったんだねー」
「バス停の君、さりげなく軽蔑してた空気感じマース」
「あははー。それじゃ、今後の方針とクランスキルを決めないとね」
夕食前にはほぼ掃除も終わり、後は今後の狩りの相談だ。余裕もできたので、ご飯を食べながらの会議となる。
「次の目標は『戌岩村』だよ!」
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