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バス停・オブ・ザ・デッド ~ボクはゾンビゲームにTS転生した!  作者: どくどく
一章 犬塚洋子(ボク)はバス停使いのゾンビハンター!
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ボクのチートは

「行こう! この先には確か――」


 洋子ボクと福子ちゃんは悲鳴が聞こえた方に向かって走り出す。僕の記憶が確かなら、この先には()()がいたはずだ。その場所に近づくにつれて響いてくる銃声に、その予測は確信に変わる。


「なんだこいつ!? 銃が効かないぞ!」

「こっちに来るな! うわああああああ!」


 見ると、体長2mほどの亀に翻弄されるハンターたちがいた。銃弾は亀の甲羅に弾かれ、隙をついて頭と足を出して跳躍して踏みつぶしてくる。


「ヨーコ先輩、あれが」

「うん。銃殺しのゾンビタートル。大ダメージや銃声に反応して頭を引っ込め、隙を見て飛びかかってくるんだ」


 このサファイア号で最も嫌われる敵。それがゾンビタートルだ。


 甲羅に籠っている間は銃弾&斬撃無効の超防御力。打撃系武器か爆発物があればそれなりにダメージは与えられるけど、それを持っていなければ手も足も出ない。亀だけに。


 そして銃声が止むと同時に手足を出して、攻撃してくる。噛みついてきたり、踏みつぶしてきたり。そんな性質なので、無視して横を通り抜けようとすると酷い目に合うのだ。


 初見でどれだけのハンターが泣きを見てきたか。おそらく目の前のハンターもそうなのだろう。銃中心で構成されたチームで銃が効かない相手など、戦力が半減以下になったも同然だ。


「下がって下がって! 銃しかないんなら、あの亀の相手は無理だから!」


 混乱するハンターパーティに向けて叫ぶ洋子ボク。そのまま突っ走り、亀の甲羅をバス停でぶっ叩く。かったーい! だけどその衝撃に反応したのか、ゾンビタートルの顔がこちらを向く。


「バ、バス停!? なんだその武器!」

「っていうか、効くのかそれ! ネタ武器の癖に」

「えー、驚くのそっちなのー? あ、とっさに横殴りしたけどごめんね!」


 突然の乱入と言うよりは、洋子ボクの武器に驚くハンターたち。


「いや……助かったけど……。いや、アンタ危ないぞ!」

「そんな制服じゃ、あの亀に食い破られる!」


 洋子ボクのことを心配して叫ぶハンター。実際、攻撃を受けたハンターたちはかなりのダメージを受けている。ソンビウィルスが回っているのか、呼吸も荒い。


「問題ないよ! あんな攻撃、避ければいいのさ!」


 ゾンビタートルの攻撃に合わせるようにバックダッシュする洋子ボク。ブレードマフラーがはためいて、マフラーの鋼線が亀の顔を傷つける。それで倒せるほど低いタフネスではないが、一瞬動きを止めることに成功した。


 痛みに堪えながら、亀の口が開かれる。骨をも砕く顎の力、その脅威は攻撃を受けたハンターの表情が物語っている。


 だけど、遅い!


「福子ちゃん!」

「ええ。分かっていますわ」


 福子ちゃんの少し前方に、待機状態のコウモリが四匹。そして更に三匹のコウモリが福子ちゃんの周りを飛び交っている。


「闇より出でよ、我が刃――」


 ゾンビタートルが洋子ボクに噛みつこうとするが、遅い。


コウモリの(フレーダーマウス)戦争・クリーク!」


 福子ちゃんの『攻撃』命令に応じて、先ず三匹のコウモリが飛来する。そして同時に――


「――二連撃ツヴァイ!」


『待機』状態の四匹に命令を下す福子ちゃん。合計七匹のコウモリが、ほぼ同時にゾンビタートルに襲い掛かった。


 一気に七匹のコウモリに襲われたゾンビタートル。一気に七匹分のダメージを喰らい、頭を引っ込める間もなく力尽きる。


「ふっ。『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』の強さ、思い知りましたか」

「うんうん。強くなったね、福子ちゃん! タイミングバッチリだったよ!」


 親指を立てて答える洋子ボク。ポーズを決めながら、福子ちゃんは背中の羽根を嬉しそうに上下に揺らしていた。


「すまない、助かった!」

「すげぇぜ! アンタ、まだ無印眷属なのに!」

「あんなやり方があるんだな。なんて戦法なんだよ! 驚いたぜ!」

「知り合いの眷属使いがいるんですけど、もし良ければ教授してあげれませんか!」


 助けてもらったハンター達は、福子ちゃんに感謝を示すと同時に羨望のまなざしを向ける。予想外の反応に目を白黒させる福子ちゃんだが、すぐに孤独を愛するいつもの様子(ちゅうにびょう)になる。


「おやめなさい。これは呪われた血だからこそなせる技。辛く苦しい地獄の試練を乗り越えた者のみが会得できる闇の技法。耐えきれなければ、心が壊れるでしょう。

 ええ、本当に。人格が変わるかもしれないぐらいに。魂が削られるぐらいに。神か悪魔と取引してもいいかもと思えるぐらいに」


 なんだか酷い言われようである。


 たかだかコンマ2秒のずれを許さない程度の基本動作に加え、瞬時に地形効果を計算して軌跡を割り出し、ランダム要素の中から最もありうる可能性を導き出して、失敗した時のリカバリーも同時に演算し、その階差から最適解を見出してその通りに体を動かすだけなのに。


 まだその程度しか求めてないのに。


「そしてその夜の道を共に歩めるものは、そこに居るヨーコ先輩ただ一人!」

「やっほー。犬塚洋子だよ!」


 福子ちゃんの紹介に合わせて、手を振る洋子ボク


「……えーと、イロモノかぁ……」

「助けてもらったのは事実だけど、そこでバス停はなぁ……」

「っていうか彼女、最初に殴った以外何もしてなくね?」

「うわひどくない!? 事実だけさ! 今回は福子ちゃんオンステージだったけどさ!」


 明らかに肩を落とすハンターたちに、怒りの声をあげる洋子ボク。まあ、今回は福子ちゃんに出番譲ったんだから、いいんだけど。いいんだけど!


「でもマジレスするけど、銃しかないんならここから先に進むのは危険だよ。ゾンビタートルだけじゃなく、カニゾンビもいるんだし。甲殻対策が不十分なら辛いんじゃない?」

「そんなのもいるのか?」

「徹甲弾をそろえて出直すか……」


 洋子ボクの言葉に顔を見合わせるハンターパーティ。情報なしで突撃すれば、引き返せずに全滅の可能性もある。ここで撤退するのも悪くない判断だ。


「すまんな、情報感謝する」

「アンタも気を付けな。そんな装備じゃ、辛いだろうしな」


 感謝と労い(?)の言葉を述べた後に、ハンターパーティは道を引き返す。あの状態なら見送りは不要だろう。


「ふぅ。無事でよかった」

「ええ。次は彼らもサファイア号を攻略できるでしょうね」


『AoD』の難易度が凶悪なのは、MMOでいう所の『死に戻り』が出来ない所だ。死は終わり。しかもゾンビとなって敵となる始末。そんな仕様なので、事前情報を知る者は少ない。


 それ故、探索は基本慎重になる。ガチガチに防御を固めたキャラが先行し、ゾンビの特性を見極めてから作戦を練って突撃。この繰り返しだ。なので先を『知っている』僕はズル(チート)なのだろう。


『ヨーコ先輩がどこからこの情報を得たかは聞きませんが』


 福子ちゃんにサファイア号内部の敵を説明した時も、そんな言葉が返ってきた。


 情報そのものはありがたく、そして千金に値する。だからこそ、それを知っている僕に対して慎重になっている。そんな感じだろう。


「でも安心したかな。福子ちゃんの動きがバッチリで。

 この様子なら道中苦戦することはなさそうだね」

「当然ですわ。私はヨーコ先輩の好敵手リヴァーレなんですから。いずれ、私が一番だと認めさせてあげますわ」

「うーん、ボクはボクが一番だからそれは難しいかもね」

「ええ、そうでしょうね。ですが必ず、私を認めさせますわ」


 そんな会話を繰り返しながら、サファイア号内を進む洋子ボクと福子ちゃん。


 先も言ったとおり、道中は順調だ。敵影を確認すると同時に福子ちゃんはコウモリを放ち、適した対応を行う。洋子ボクもバス停とブレードマフラーを振るって、海鮮ゾンビ達を打ち払っていく。


 そして難なく、チェンソーザメの出るエリアに迫る。この扉を潜り抜けた場所にチェンソーザメはいる。


 福子ちゃんはマスクを外し、抗ゾンビ薬剤を口にしていた。洋子ボクもマフラーの隙間から抗ゾンビ薬のはいったジュースを飲む。ここまで突っ走って上がったウィルス感染率を下げ、準備を整える。


「じゃあ作戦の確認だ。周囲のザコはボクがラジカセ使っておびき寄せとくから、福子ちゃんはサメに集中してて」

「それでは『吸血妃ヴァンピーア・アーデル』の華麗なるタンツを見せてあげますわ。ヨーコ先輩の出る幕はないと思ってください」


 うん、今の福子ちゃんならよっぽどのことがない限りは大丈夫だ。安心して任せられる。


 ――よほどのことがない限りは。


拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

気にいっていただけたのなら、評価をいただければ幸いです。


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