ボクらのサファイア号攻略
サファイア号。
ゾンビあふれる『御羽火島』から 『こんなゾンビだらけの島に居られるか! オレは帰る!』とばかりに逃げようとした船が、ゾンビ化した海生生物に捕まってへし折られた船の残骸である。
見事に真っ二つに折れた船は崖に向かって投げつけられ、片側は甲板を上にもう片方は船底を上にした形で座礁している。
そういった経緯もあってなのか『AoD』では入り口が二股に分かれたダンジョンと言う形になっている。甲板が上になった方は人間型ゾンビが、船底が上になった方は海産物系のゾンビがいるという形だ。
その内容から『サファイア号人型』『サファイア号海側』と言われていた。
「チェンソーザメは海側だね。7ブロック先に居るから、それまでは強行突破だよ」
「流石はヨーコ先輩。既に調べはついているんですね。私、うわさでしか聞いたことない場所なので、少し不安です」
「あー、うん。いろいろね」
1st2ndキャラで行きつくした、とはとても言えない僕でした。
「ちなみに甲板側はどんなゾンビがいるんです?」
「身長2m体重200kgの肉屋ゾンビがチェンソーもって追いかけてくる」
「ふ、その程度なら修行を終えてパワーアップしたこの私が――」
「なお高タフネスなうえに不死身。倒してもしばらくしたら船のどこかに復活する。あとゾンビ化したら縛られて冷凍庫に吊られる」
「……やめましょう。私達の目的は『金晶石』です」
想像していやになったのか、福子ちゃんは首を振って気分を切り替えた。
然もありなん。ただその分素材などのうまみは大きいけど、加工品の大半が銃系統のパワーアップなので今の洋子らには意味はない。後、冷凍庫云々は装備回収は楽なので、一種の温情となっていた。
……たいていのプレイヤーは冷凍庫に吊られている自キャラを見てトラウマになるけど。
「しかし、流石にハンターが多いね」
「はい。皆さん『金晶石』が目当てなのでしょうか?」
「かもね。7人パーティが2組に、10人パーティ。皆クラン作りたいんだなぁ」
集まっているメンバーを見て判断する僕。パーティチャットをしているのか、固まって動かない。
装備品から察するに、ハンターランク15から20あたりかな? サファイア号海側攻略には平均的な構成だね。
とか思いながら見ていると、相手のハンターと目が合った。軽く手を振ると、なにやら小ばかにしたように肩をすくめられる。
「おい、お嬢ちゃんたち。ここはあんたらのようなハンターの来るところじゃないぜ」
「ここから先は海の魔物がたくさんだ。魚に殺されてゾンビになりたくなけりゃ、とっとと帰りな」
「そうそう。バス停にマフラー? そっちは無印従魔のテイマー? しかも二人だけ? マジ何しに来たの?」
「あ、もしかしてパーティ仲間探し? そっちのこうもりテイマーちゃんならいいけど、バス停はなぁ……」
最初は心配してくれたんだろうが、後は酷い言われようである。そっちは無視して、最初に話しかけてきた方にだけ答える。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ! ボク等は強いからね!」
「わひゃぁ! そ、そうですわっ! 心配無用です」
福子ちゃんの肩を抱き寄せ、Vサインを出す洋子。突然のことに驚いた福子ちゃんだけど、すぐに頷いて答えた。
「いや、でもアンタらハンターランク15になってないだろ? ここに来るのは早くないか?」
「つーか、せめて防刃ジャケットぐらい着ておけよ。海側は斬撃系と刺系のゾンビわんさかだぞ」
「大丈夫! ゾンビの攻撃は受けなければいいんだよ!」
洋子の言葉に声をかけてきたハンターたちはため息をついた。理論上はそうだけどそんなことできるかよ、と言いたげだ。ため息をついて、話は終わりとばかりに手を振った。
「……精々、邪魔にならないようにしとけよ」
「チェンソーザメの部屋とか付近でゾンビ化されたら迷惑だ。そこ以外で死んでくれ」
「あー、タコゾンビの触手に絡まれて、とかならOKかもな」
「いや、単純に血まみれボロボロの制服とかでもイケる」
後半二人のセリフは福子ちゃんの教育に悪いので耳を塞いでおく。イケるじゃないよ、まったく。
「全く、見た目でハンターの腕を判断するのはよろしくありませんわ」
「責めるわけじゃないけど、福子ちゃんも最初はあんな感じだったよ」
「うっ……! 確かに……未熟さを恥じるばかりです……」
「だから責めてないって。心配してくれてるのは分かるし、あの人たちもその気持ちがあるんだから」
なにせ『AoD』では使えない近接武器で、見た目もネタまみれだからね。死ねばゾンビになって敵になる状況で、でわざわざ不利な武器を使ったりウケを狙うのは、冷たい目で見られても文句は言えない。
なので、その評価を覆すのみだ。
「だからさ、実力で見返せばいいのさ!」
「そうでしたわ。低ランクで功績を積み重ね、今のハンターの在り方に一石を投じるのでしたわね。ええ、そこまで考えてその武器を選ん――」
「え? 全然。見た目ヘンテコで笑えるじゃん、バス停」
「……その、そこでは嘘でも『その通りさ!』とか言って、私の憧れとかを誤魔化してほしいです……いえ、ヨーコ先輩らしいのですが」
素直に答える洋子の言葉に、ため息をつく福子ちゃん。まあでもこればっかりは譲れない。愛は愛。目的は目的。そこはきっちり分けておかないと、どちらかが破綻しかけた時に寄る辺を失いそうになるからね。
まあ、僕の洋子に対するキャラ愛はそうそうぶれないけどね!
「はっはっは。偽らないボクが好き! 分かっていると思うけど、ボクはそんな高尚なキャラじゃないからね。高貴な福子ちゃんの好敵手には似合わないと思うけど」
「いいえ。ヨーコ先輩は真っ直ぐな心を持つハンターです。その精神と行動には敬意を示しますわ。ええ、貴族とは言えない性格も含めて、私の好敵手です。
それでは、狩りに行きましょう」
言って拳を突き出す福子ちゃんに、拳を突き合わせる洋子。福子ちゃんは片目と顔の下半分を覆う革マスクを口にはめる。
そして洋子もマフラーを巻き、サファイア号内部に足を踏み入れた。
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「冷えますわね」
「魚介類ゾンビが生息しやすい温度になってるんだ。船が浸水しているから、湿度も高めだね」
サファイア号船内に入って、最初に感じるのは環境の変化だ。身体は冷え、まとわりつくような湿度。梅雨時期の感覚に近いだろうか。
「作戦通り、チェンソーザメまで突っ切るよ。だけど途中の敵は倒していく」
「はい。ゾンビ退治はハンターの責務ですわ。異存はありません」
作戦内容を確認し、走り出す洋子と福子ちゃん。その途中――
「お行きなさい! 吸血の刃!」
福子ちゃんのコウモリが、水場から飛び出してきたトビウオゾンビを迎撃する。同時に迫ってきたウミヘビゾンビも設置してあったコウモリを向かわせて、沈黙させた。
「おー。さっすがだね!」
「ええ。ヨーコ先輩の教育の賜物ですわ。事前にサファイヤ号の敵のことを教えてもらったのも大きいです。
……というか、今わざと何もしませんでしたわよね? 私に任せるつもりでしたか?」
「あ、バレた。でもあれだけの期間でここまで成長するのは流石だよ。やっぱり筋がいいね、福子ちゃんは」
「むしろあの厳しさに比べれば、この程度児戯同然ですわ。勿論、この私の実力あっての事なのは間違いありませんが」
「うん、そうだね。帰ったら次を教えるのもいいね。今度はテイマーの副武器の扱いについて――」
「……その、出来れば次はお手柔らかに……」
目を逸らして言葉を返す福子ちゃん。『次は』ってことは授業自体はOKなんだね。
などと考えていると、
「う、うわあああああああああ!」
先の通路から、悲鳴が聞こえてきた。
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