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バス停・オブ・ザ・デッド ~ボクはゾンビゲームにTS転生した!  作者: どくどく
一章 犬塚洋子(ボク)はバス停使いのゾンビハンター!
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ボクが知らない福子ちゃんのお話(小守福子視点)

 彼女――カミラ=オイレンシュピーゲルと私、小守福子の出会いはまさに鮮烈だった。


「消えなさい死者トーター。この剣がある限り、光華わたしの生徒に手は出させませんわ」


 流れるような金髪。夜を思わせるドレス。そして光り輝く剣。


 剣が舞う度にゾンビは倒れ、道を切り開くようにゾンビ達が倒れていく。華麗にして優雅。整った顔、そこに宿る力。


 小守福子はその姿を前に、一瞬で恋に落ちた。


 これはもしかしたら、戦いという場面で生まれたつり橋効果だったのかもしれない。あるいは、尊敬と恋心が混ざり合ったのかもしれない。


「大丈夫かしら? あらあら、可愛い顔に傷がついていますわ」

「あの、ありがとうございます……!」


 こうしてカミラと福子は出会う。


 剣を使った近接戦闘のカミラ。眷属を使った中遠距離の福子。二人のバランスは良く、そして息もぴったりだ。惜しむべきはパーティを組めない事か。


「剣士は孤独なのですわ。福子も、いずれ分かります」

「はい、カミラお姉様(シュヴェスター)……!」

「発音にまだ日本語交じりがありますわ。さあ、もう一度」

「カ、カミラお姉様(シュヴェスター)!」


 カミラは相応の中二病だったこともあり、福子もその影響を大きく受けたと言えよう。


 同じコウモリ系の遺伝子を移植された姉妹。カミラと福子はこの死者溢れる学園内で愛を育んでいた。傍目に見ても愛し合っているとわかる二人。それは光華こうか学園内でも噂されるほどだ。


「あの、カミラお姉様(シュヴェスター)。私達、いろいろ噂になっているようですけど?」

「ふふ、可愛い福子が羨ましい、という類かしら?」

「あン。そ、その、人目は気にした方が……ひゃぅん」


 カミラの愛情は深く、そして周りを見ない傾向にあった。


 人前でからかうように福子を撫でたり、狩場でも安全が確保できれば愛でることもある。これでもブレーキをかけているらしく、二人きりになった時は押さえていた分情熱的になった。


「こういう世情ですもの。こうでもしないと、壊れてしまいますわ」


 というのはカミラの弁だ。


 ゾンビが溢れ、戦うことでしか生き残ることが出来ない状況下である。だが戦いは心を疲弊させる。すさんだ心を癒すために誰かを愛さなければ、いずれ心が壊れてしまうだろう。


 だからと言って、それに溺れるほどでもなかった。むしろ積極的にゾンビを狩るからこそ、その反動で深く誰かを愛したのかもしれない。


「ハンター権など要りません。貴族は民のために戦うのが当然なのですから」 


 そんな中、ハンター至上主義が掲げられる。強いハンターを崇め、そうでない者は従うべし。そんな風潮をカミラは一蹴した。力在るものは力ない者を守る義務がある。そう言ってハンター至上主義者に真っ向から反抗したのだ。


 その威風堂々とした態度と美麗なカミラの姿は多くの人気を得た。同時にハンター至上主義者達の傲慢さを際立たせ、多くの人達はカミラを頼るようになった。福子もまたカミラに同意し、尊敬の念を高めていく。


「オイレンシュピーゲルのせいで、【ナンバーズ】からの支援が打ち切られそうだ」

「それは困るな……。強いゾンビの上質なゾンビウィルスが供給されないと、研究が滞る」

「つまらん中二病の戯言で利得がなくなるのは願い下げだ」


 ハンター至上主義者達はカミラの人気をねたみ、策を練る。


 カミラを不利な状況に追い込み、ゾンビに襲わせようと。


「『オウガ』……ああ、デーモンのことね」

「そうだ。橘花駅の屋上にいる『オウガ』を狩りに行ったクランが全滅した。彼らの装備を回収するために力を貸してほしい」


 頻度はそう高くはないが、こういったことは発生する。


 強いゾンビに挑んで帰ってこなかった生徒。その後始末ともいえることを頼むのだ。優先順位が高いのは、装備。そして可能であるなら遺髪などだ。


「いいでしょう。それもまた貴族の義務(アーデル・プフリフト)です」

「話が早くて助かる」

「それで、そのクランの情報は? 合計何名で向かったのかしら?」

「ああ、()名だ。構成は――」


 4名の生徒ゾンビ。それを狩って帰るだけなら大したことはない。『オウガ』を相手する必要はないし、すぐに終わらせて帰るとしよう。

 そう。4名なら――


「……う、そ……」


 実際にそこに居た生徒ゾンビは、()()名。数は2倍以上だ。


 普通なら情報と齟齬があった、と引き返して文句を言うのが筋だ。あるいは装備回収を諦め、撤退するのも正しいだろう。どうあれ依頼をした人間に文句を言うべきだったのだ。


「……いいえ、彼らを見捨ててはおけません」


 だがカミラは見てしまった。かつての同胞が死してなお彷徨う姿を。


 彼らも学園の生活があり、接点こそ少ないが仲間だったのだ。それがああした姿をさらしているのに、なぜ捨て置けようか?


「これも貴族の義務(アーデル・プフリフト)なのですから!」


 吼える『オウガ』。その咆哮を聞きながら、カミラは剣を抜いた。


 そして8名の生徒ゾンビを倒し、力尽きた――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 お姉様の訃報を聞いた時、私は何もかもが信じられなくなった。


 情報の齟齬が原因。帰らなかったお姉様が悪い。8名までは倒したのだから、二次討伐隊で全員回収できる。そんな情報を聞きながら、私は決意します。


「お姉様は私が必ず!」


 誰も信用なんてしません。もしかしたら、お姉様を疎んだ人が敢えて偽情報を渡したのかもしれません。その疑いはどうしても払拭できず、他人との壁を作ることになりました。


「信じられるのはお前達だけ」


 そうして私は眷属のみに心を開くようになりました。


 その結果なのでしょうか? 眷属の扱いが上手くなり、多くのゾンビを倒せるようになったのです。


 これならいける。


 私はそう確信し、橘花駅に向かいます。その駅前は動物系ゾンビであふれ、ハンターの練度もお世辞には高いとは言えませんでした。ため息交じりにゾンビを追いはらい、雑音を払うようにハンターを逃がし――


「……なんですの? あれ」


 そんな中、奇妙な武器を持つハンターを見かけました。


 バス停。


 お姉様の優雅さとは真逆。重そうでヘンテコで不格好で、はっきり言って無様な姿。


 そんなものを持った人が話しかけてきた時――呆れました。橘花学園はイロモノハンターしかいないのかと。


「でもついていく。どの道『オウガ』に挑むつもりだったし。ついでに君のしゅべ……カミラ様とかを倒す手伝いもするよ!」


 そんな人がおせっかいにもついて来て、好きにしてとばかりに手を振って――こんな人がいなくても、私はやれる。カミラ様を救うんだと意気込んでいたのに、


 だけど、現実は厳しくて。


「うわああああああああああああん……!」


 カミラお姉様を見た瞬間に全てが崩れて壊れて。もう、何もかもどうでもいい。そんな捨て鉢になった私を、


「ねえ、アーデルちゃん! 動ける!?」


 バス停を持った人が、助けてくれました。


 その姿は、あの日のカミラお姉様を想起させて。


 戦う姿は全く違う。武骨だけど無駄がなく、最後の最後で転んじゃうような情けなさもあるけど――


(ああ、そうだ……。そうなんだ)


 これはもしかしたら、戦いという場面で生まれたつり橋効果だったのかもしれない。あるいは、尊敬と恋心が混ざり合ったのかもしれない。


 だけどこの感情を、胸に宿る二度目の熱い思いを、小守福子は間違えない――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…………いいえ、認めません! 助けてもらったことは感謝しますけど、私はそこまでチョロくはありません!

 これは……そう、克己心! この人に負けてなるものかっていう反骨心なのです!」


 橘花学園の保健室で、福子は赤面する頬を押さえて小さく叫ぶ。


 その様子を見ていた伊谷は『中二病めんどくさいなぁ』と冷めた目で見ていたという。


拙作を読んでいただき、ありがとうございます。

気にいっていただけたのなら、評価をいただければ幸いです。


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